『inZOI』のキャラには「承認欲求」があり、SNSで悪さして叩かれたりする。リアルさ・生々しさ全開なゲーム詳細とその理由もお披露目、リリース直前説明会まとめ

『inZOI』のゲーム内容を紹介するメディア向けオンライン説明会が行われた。本稿では発表内容に基づき、本作のさまざまな情報をお届けする。

KRAFTONは3月28日に『inZOI』のSteam早期アクセス配信を予定している。それに先立って開発チームinZOI Studioより、本作の早期アクセス版のゲーム内容を紹介するメディア向けオンライン説明会が行われた。本稿では発表内容に基づき『inZOI』早期アクセス版のゲーム内容をお届けする。

本作は、Unreal Engine 5による精細なグラフィックが特徴のライフシミュレーションゲーム(以下、ライフシム)だ。「ZOI」と呼ばれるキャラクターを自由に作成し、神の視点となってそのキャラクターの人生に関与していく。本作では、街のすべてのキャラクターが自分の自由意志で行動するという。そして人々の間にトレンドやゴシップなどがあり、病気や事故など多彩なイベントも発生。プレイヤーが関与していなくともキャラクターどうしが相互に影響を及ぼすそうだ。


説明会に登場したのは、本作のプロデューサー兼ディレクターを務めるキム・ヒョンジュン氏と、アシスタントのジョエル氏。キム氏はこれまでMMORPGの開発に20年以上携わってきた業界のベテランで、『inZOI』も韓国のMMORPGを開発してきたメンバーにより開発されているという。同氏はまず本作の開発の難しさと、今回の説明会が開催された経緯を語った。

同氏いわく、『inZOI』の開発はMMORPGの開発よりはるかに大変だという。ライフシムである本作は各要素の相互作用が多く、開発を進めるほどその構造は複雑になっていく。たとえば乳幼児を実装した場合、その子どもが成長した場合の幼稚園や学校も必然的に必要になる。そのようにアイデアや必要なものは出てくるものの、それをすべて実装するのは大変だ。複雑な要素を慎重に組み上げていくのは、まるで「ジェンガ」を積み重ねているような感覚だったという。そのため、『inZOI』では早期アクセスという方式でいち早くゲームをリリースし、ユーザーの反応を見ながら改善していきたいと感じたのだそうだ。今回の説明会もその一環で、ゲーム内容をしっかりと伝え、ユーザーが積極的にフィードバックを寄せられるようにする狙いのもとに開催された。

そして、本題であるゲーム内容の紹介が始まった。今回の配信では、昨年ドイツ・ケルンで開催されたゲーム見本市「gamescom 2024」に出展した旧バージョンのビルドから、7か月ほど経過した現在のバージョンまでにアップデートされた内容を中心に説明がおこなわれた。


生成AIと画像取り込みによりキャラクターカスタマイズはさらに自由に

最初に紹介されたのはキャラクターのカスタマイズだ。本作は昨年8月にキャラクターメイキングが体験できるデモ版が配信され、自由なカスタマイズができると話題になっていたが、今回はデモ版からさらに進化した要素が紹介された。まず新たな装飾品として、腕時計が追加。これは実際に時間に合わせて針が動くようになっているという。時計のデザインやカラーを選べるほか、PC内の画像を取り込むことで文字盤デザインの変更も可能だ。またアクセサリーとして指輪・ネックレス・イヤリングも追加されている。こちらでは将来的にゲーム内の生成AI機能を用いて、AIがデザインしたアクセサリーをそのまま身に付けることも可能になるそうだ。画像取り込みや生成AIは以前にも服のデザインに利用できることが報じられていたが、今回アクセサリーにも適用範囲が広がったかたちとなる(関連記事)。

そしてキャラクターの体に関するカスタマイズも、デモ版よりさらに進化している。まず傷やタトゥーといった外見上の特徴を追加できるようになった。また体型もより多くのバリエーションが追加されている。ちなみに本作はキャラクターの肌の色を青や緑といったファンタジックなものに設定することもできる。くわえて開発中の要素として、キャラクターの見た目をゾンビのような見た目に設定するオプションも披露された。これはユーザーの反応次第で実装されるという。

またほかにも、PC内の画像から3Dモデルを作成し、そのまま帽子やイヤリングとして身につけられる機能も紹介された。この機能では剣や銃といった手持ちの装飾品も作れるという。配信映像からは、クマのぬいぐるみ画像から作成した着ぐるみを着て街を歩き回る様子が確認できた。これまでも、画像取り込みによる3Dモデルは家の装飾品として利用できることが明かされていた(関連記事)。こちらも適用できる範囲が広がったということなのだろう。


関係性のログと幅広いイベントで、人間関係はより深く

そしてライフシムで欠かせないのが、ほかのキャラクターとの人間関係だ。本作では「より深い人間関係」が構築できるシステムを目指しているという。たとえば旧バージョンで誰かと話す場合、1対1で立った状態でおこなっていたが、アップデートにより複数人での会話や、座った状態で会話ができるようになった。また他のキャラが自宅を訪ねてくることもあるという。ちなみにキム氏によると、この自宅訪問の仕組みを活用して、試しに自宅に泥棒が侵入する仕組みを作ってみたが、見つかっても出ていかずにプレイヤーの隣で寝てしまったので一旦削除したとのこと。先日同じライフシム作品である『The Sims 4』にて泥棒のシステムが導入されたため、それを意識したコメントなのかもしれない(関連記事)。

またキャラどうしの関係性については、「Relationship Log」という項目から確認できる。これには結婚といった事実や会話内容、その時の感情などが記録されており、関係性が推測できる。ただのステータスなどではなくこのかたちにすることで、人間関係に“神秘性”を持たせリアリティを感じられるようにしているそうだ。

そして関係性を築くのは会話だけではない。本作には多数のイベントも用意されている。パーティーやデートなどといったポジティブなものから離婚といったものもあり、状況にあった会話や周囲の反応が見られるようになっている。たとえば婚約の際に「本当にあの人と結婚するの?」と言われるなど、時にはネガティブな反応が返ってくることもあるようだ。

また、本作では子どもを授かることができ、親に似た子どもが生まれる遺伝システムもある。肌の色や顔つきといった外見だけでなく性格も親の影響を受けるそうで、リアルな子育てができそうだ。ちなみに子どもがいると行動が制限されるので、他の要素と齟齬が無いように開発するのが大変だったという。その影響もあってか、配信では子ども関係のバグ映像が紹介され、トイレ中に垂直に上昇していく子どもや、ビルの屋上で夜空を眺めている赤ちゃんなど、非現実的な様子も見られた。


スケジュールや職業を好きに設定し、思い通りの日常を送る

次に語られたのは生活面についてだ。まず毎日のスケジュールについては、カレンダーのようなメニューから1週間の予定を自由に設定できる。勤務時間の調整やイベントの計画などがおこなえるほか、家族のスケジュールを確認し、予定を合わせることで待ち合わせもできるという。また、スマートフォンからはフードデリバリーを注文したり、家事代行や修理業者に依頼することもできるようになっている。家事代行を呼び空いた時間で仕事をするなどといった、現実さながらのスケジューリングもできるかもしれない。

生活に欠かせない食べ物についてもこだわっており、国別に調査したというさまざまな料理が食べられるという。街で購入した食材で料理もできるようだ。ちなみに釣りも可能で、釣った魚を食材として使えるかどうかは不明ながら、部屋に陳列ができるとのこと。

そして収入源となる職業も自由に設定できる。キャラクターはそれぞれ絵画やプログラミングなど得意なスキルを持っているため、職業選択の際に参考になりそうだ。ちなみにものづくりが得意な場合、制作物を屋台やネットで販売することもできる。スケジュール機能と組み合わせることで、フレックスタイム制や副業、無職など、現代らしい自由な生活が送れそうだ。


常に数百人が行動し、気候も移り変わる都市環境

そしてプレイヤーが住む街では、画面外でも常に300~400人ほどのキャラクターが各自のスケジュールに基づき行動しているという。さらにそのひとりひとりに自キャラクターとの関係値も設定されているようだ。街で出会うキャラクターたちはプレイヤーの行動を観察し、反応を示す。たとえば公園で弾き語りをしている様子がSNSで拡散され、人気者になるといったことも起こる。その一方で、犯罪を犯すと逮捕され、刑務所に収監されてしまうといったことも起こりうる。街には監視カメラが設置されているので、完全犯罪を目指すなら監視カメラの配置にも気を配る必要があるようだ。

また街では天気や季節が巡り、環境は常に変化する。現実のように、夏に厚着をしていると熱中症になってしまうこともある。また冬にはデコレーションをしたりなど、季節ごとのイベントも楽しめるようだ。なお、今年中に自然災害の実装も予定しているとのこと。キム氏によると、常に数百人の群衆を動かし、ダイナミックに変化する都市環境の処理が本作の動作を重くしているという。本作は先日PCの推奨スペックが発表され、かなり高い要求となることが伝えられたが、これにはこのリアルな都市環境システムが影響していそうだ(関連記事)。早期アクセス配信期間を経て、最適化も期待される部分だろう。


柔軟なクリエイティブツール×生成AIで作る自分だけの世界

つづいて、キム氏は建築要素を紹介。自宅は敷地内に好きな形で建設することができ、壁や床の高さなども細かく変更可能だ。さらに階数の設定も自由で、30階建ての高層住宅なども作ることができる。なお高層住宅は最適化中だそうで、今後はさらに高い住宅も建てられるようになるとのことだ。以前公開された本作のトレイラーでは、家具だけでなくシンクや鏡といった設備も自由に配置する様子が確認できた。やる気とアイデア次第でとことん細かくこだわった家が作れそうだ。

次に紹介されたのは、本作の特徴でもある生成AIを活用した機能。前述の画像取り込みでは、装飾品以外にもポーズ写真などを取り込むことで、キャラクターのオリジナルエモートが作成可能だ。また驚くべきことに、PC内の動画を取り込むと、それをそのままキャラクターのモーションに適用できるという。配信映像では、ダンスを踊っている動画を取り込み、キャラクターが動画のダンスの通りに踊っている様子が確認できた。動きを完全に再現できているとは言えないものの、モーションキャプチャーではないただの動画から動きを抽出し、そのままキャラクターを動かせるというのはかなり興味深い機能だ。

そして最後に、早期アクセスリリース時には実装されない、開発中の要素がまとめて紹介された。印象的だったのは、PCのWebカメラからユーザーの動きを取り込み、VTuberのように自分のキャラクターを動かす機能や、AIに「新婚、二人暮らし、平屋」などの指示を入力することで自動的に家を作成する機能など、先進技術を活用した実験的な要素だ。ほかにも、ローカライズ品質の改善や、海沿いにある新たな街の追加、Mod対応などが予定されているとのこと。

以上でゲーム内容の紹介は終わり、つづいてキム氏へのQ&Aコーナーがおこなわれた。こちらではいくつか抜粋して紹介する。

まずマルチプレイがあるかという質問に対しては、各要素の相互作用を考えると開発が難しく、現時点では実装していないと返答。ただ他プレイヤーと会って話すといった、マルチプレイの基盤にできるシステムは作られているそうで、要望が多ければ少しずつ作っていくかもしれないとのことだった。またコントローラー入力を求める声に対しては、将来的に対応予定だとした。ちなみに本作はコンソール向けにも開発中だという。

印象的だったのは、キャラクターの「死」についての回答だ。本作ではキャラクターが歳を取ると自然死や事故死の確率が高まるという。事故死のバリエーションは豊富で、交通事故から感電死、火事や食中毒によっても死んでしまう可能性がある。別の公式動画では死に方のバリエーションが約16種類も用意されていることも明かされている(関連記事)。

そしてなかには、悪いことをして“カルマ”が悪化すると、SNSなどで批判が集まって亡くなってしまうケースもあるという。本作には「承認欲求」のステータスがあり、周囲の人からSNSなどで否定的な反応を受けると承認欲求が下がり、そうした状況が続くと死に至りかねないそうだ。生々しいシステムながら比喩的な表現が用意されており、またあくまでゲーム内のシミュレーションの結果引き起こされる仕組みとのこと。

そしてキャラクターは死ぬと地縛霊になることがあり、霊感のあるNPCに頼むと少し会話をすることもできるという。同ジャンルの『The Sims 4』にも幽霊のシステムはあるが、『inZOI』のようなリアルなグラフィックが特徴の作品にも幽霊が存在するのは興味深い。また「承認欲求」のステータスは現代人らしさも反映された、本作独自の要素となりそうだ。

このほか説明会のなかで、プロデューサーのキム氏は本作への想いを伝えていた。同氏は以前『The Sims』シリーズをプレイしさまざまな人生を追体験したことで、喜劇王チャーリー・チャップリンの名言「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」のように、良いことも悪いことも考え方次第であると学んだという。そしてそんな教訓を与えられるライフシムというジャンルの作品を自分でも作りたいと思い、『inZOI』の開発を始めたそうだ。ただライフシムはメジャーなジャンルではないため、小さな規模でひっそりと開発していくと思っていたという。しかし思わぬ反響を受け、規模がだんだんと拡大。内容が複雑になり、プレッシャーや開発の難しさを感じることもあった。そのため早期アクセスで本作を配信し、率直な意見を広く集めることにしたそうだ。批判も受け入れる覚悟なので、正式リリースに向けた改善のため正直なフィードバックを求めているとキム氏は語った。

改めて『inZOI』のゲーム内容が紹介され、新要素も公開された今回の発表会。ライフシムというジャンルには、『The Sims』シリーズという強大なライバルがいる。『inZOI』は生活や人間関係といったライフシムの要点はおさえつつ、UE5による美麗なグラフィックや、生成AIなどの先進技術を活用した野心的な機能などで『The Sims』シリーズとの差別化を図っている印象を受けた。そして開発の裏話や意気込みからは、プロデューサーのキム氏がライフシムというジャンルを心から好きなこと、そして『inZOI』を良い作品にしたいという熱意が伝わってきた。本作が早期アクセス版でどのような人生を体験させてくれるのか、また正式リリースに向けてどういった改善や新要素の追加をおこなっていくのか、期待したい。

『inZOI』はPC(Steam)向けに3月28日、早期アクセス配信開始予定だ。早期アクセス配信開始時点で日本語表示にも対応予定。またキャラクターメイキングと建築要素を一足早く試せる期間限定の体験版『inZOI: Creative Studio』が、3月23日より配信予定。本日3月20日正午からは各配信プラットフォームで体験版のアクセスキーを入手できるDropsイベントもおこなわれる(関連記事)。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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