コンビニ店員日常シム『inKonbini』のアイデアは『シェンムー』のコンビニから生まれていた。外国人開発者の愛が詰まった日本へのラブレター

『inKonbini』はNagai Industriesが手がけるシミュレーションゲーム。本作のインスピレーションのもととなった発想、作品に込めた思いなど、いろいろなお話を伺った。

inKonbini』はNagai Industriesが手がけるシミュレーションゲーム。対応プラットフォームはPC(Steam)/Xbox Series X|S/PS5/Nintendo Switchで、2025年内に発売を予定している。Steamストアページによれば、本作は日本語表示および音声に対応予定。

主人公は大学生の早川真琴。1990年代初頭、彼女は叔母に頼まれ、郊外の小さな家族経営のコンビニでアルバイトをすることになった。品出し・発注といった通常業務をこなしつつ、個性豊かな常連客の接客や、叔母のささやかな頼みを聞いたりするのが彼女の仕事だ。本作のストーリーは分岐が存在し、運営や客との会話内容によって、コンビニを巡る人々の運命が少しずつ変わってゆくという。そんなコンビニで、一週間を過ごすのが本作の目的だ。

本作はTOKYO SANDBOX 2024に出展されており、ゲームの序盤を試遊できた。ゲーム開始後に訪れるのは、スタッフ用のバックヤードだ。叔母からの伝言のメモや掲示板、写真の入ったアルバムなどが自由に閲覧できた。主人公の真琴が叔母に関する独白を沿えるなど、暖かい雰囲気のする場所だ。

バックヤードから抜けると、コンビニの開店準備をすることとなる。店の中を見て回りながら、商品の補充や整理をするのだ。地味で淡々とした作業ではあるものの、ついつい細かいところまでやりたくなってしまう。というのも、商品のラベルに使われている架空の文字やポスター、雑誌や店内のレジなどが細部まで作り込まれているのだ。制限時間はなくゆったりと開店準備ができるため、ついつい店内を見渡しては細かい部分を観察し、そのついでに準備をするようなプレイングをしていた。準備が終わったら開店だ。お客さんのおじいさんが来て、他愛のない雑談や「商品を取ってほしい」といったやり取りが交わした。外の雨の音も相まって、ゆっくりとした時間の流れが感じられる作品だ。

出展ブースは大人気で、何度見にいっても常に誰かしら試遊している方がいた。1990年代が舞台というノスタルジックな設定や、日本風のコンビニを舞台にしている点が話題を呼んだのだろうか。会場の入口付近という、好立地も追い風だったといえる。本作の注目度の高さがうかがえた。


『inKonbini』を手がけるのは東京に拠点を置くNagai Industriesだ。開発に携わっているのは多国籍のスタッフで、ロシア出身のDmitry Kluev氏がそのリーダーを担っている。

Nagai Industriesという名称は、1999年にドリームキャスト向けに発売された『シェンムー』に登場する「永井興業」から取っているという。そもそも本作を開発しようと思ったきっかけも『シェンムー』なのだとか。そこでDmitry 氏の『シェンムー』に対する思いや、本作のインスピレーションのもととなった発想、作品に込めた思いなど、ブースにていろいろなお話を伺った。

なお、出展ブースにはロシア語通訳として稲本智佳子氏が訪れており、本インタビューの日本語回答は稲本氏の翻訳をベースとしている。この場を借りてお礼を申し上げたい。

──自己紹介をお願いします。

Dmitry Kluev(以下、ドミトリー)氏:
Dmitry Kluev(ドミトリー・クリューエフ)と申します。Nagai Industriesの代表および『inKonbini』のディレクターをしています。名前の略称は「ディーマ」で、クリエイターとしてはディーマ・シェンという名義も使っています。モバイル向けゲームは何本か製作していて、ゲーム開発は10年以上の経験があります。

Nagai Industriesのスタッフには、多くの国の出身者がいます。私は世界の20ヵ国ほどに訪れたのですが、イベントに参加したり人と知り合ったりするうちに少しずつスタッフが増えていきました。英語やロシア語を喋ることのできる人であれば連絡を取って、関心があれば参加してもらう形です(今でしたら日本語も少しはできます)。そう考えると、まるでゲームみたいな形式かもしれないですね。

──『inKonbini』を作ろうと思ったきっかけはなんですか。

ドミトリー氏:
子供の頃からゲームが好きで多くのゲームを遊んできました。なかでも『シェンムー』が大好きで、同じような作品を作りたいという夢がありました。実際にどんな作品を作るか考えた時に、仕事をシミュレーションする要素があって、瞑想的な要素も入れたいと思いました。

そしてなによりも、日本の雰囲気や歴史、日本の持つ物語性のような要素が凄く好きでした。日本に行ってみたいと思ってる外国人でも、長く住んだり観光したりということは容易ではない。なので、そういう人々が思い描いている日本像も取り入れつつ、リラックスした居心地のいい空間をゲーム内で作りたいと思ったのがきっかけです。

──なぜコンビニを題材にしようと思ったのですか。

ドミトリー氏:
大きな理由として『シェンムー』の影響があります。『シェンムー』は人が死にますし、ずっと雨も降ってますし、暗くて悲しいゲームです。そんな世界の中でコンビニは温かくて、灰色の世界に対して黄色っぽいような、落ち着ける場所になってます。私が初めて訪れたコンビニが『シェンムー』のものなのですが、そのアットホームな雰囲気が強い印象を残していて、自分の中の理想のコンビニのようになっています。もちろん、実際にコンビニに訪れて働いている人を取材したりもしています。ですが、現実のリアルなコンビニを再現するより、おとぎ話に出てくるような平和な理想のコンビニが作れればと思っています。

また、本作のコンセプトの一つに「仕事のルーティン作業の裏にある意味を見出す」というものがあります。淡々とした、時には大変な仕事でも、自分と向き合う瞑想のような要素があると考えています。そうした考えと、コンビニという舞台がマッチしたという点も理由の一つです。

それに、海外にもコンビニのような店はありますが、危険だったり、店の中が汚かったり、悪い印象を持つ人も少なくありません。そんな店を見たあとに日本のコンビニを見ると、まるで子猫ちゃんを見てるような安心感があります。外国人の目から見たコンビニは、そういう落ち着ける場所なのではないかと思っています。ですので、そういった日本らしい、リラックスできる空間を作りたいという思いがありました。


──本作が日本のユーザーにどういう風に受け入れられると期待していますか。

ドミトリー氏:
『inKonbini』を通して「これまで作られてこなかった日本」を感じてもらえたら嬉しいと思っています。外国人が日本から受ける感触や印象、見え方というものを伝えたいです。そこにリラックスした雰囲気や、瞑想の要素がちょっと組み合わせたいと思っています。

また、このゲームは色んなディテールにこだわって、私が日本を愛してるという気持ちがこめてあります。日本のことが好きで作ったというのが、日本の人にも伝わったら嬉しいです。

──『シェンムー』以外に影響を受けた作品や、日本の好きなところは何がありますか。

ドミトリー氏:
『Coffee Talk』やNetflixドラマの「深夜食堂」などが挙げられます。最近(2023年)に公開された「PERFECT DAYS」も、淡々と仕事をこなすトイレの清掃員が主人公という点では共通しています。

日本の好きなところは、やはり自動販売機です。どんなに暑くても冷たい飲み物を、どんなに寒くても温かい飲み物を用意してくれていて、まるで私を待ち望んでいる友達のように感じています。あとは、『シェンムー』から武道の精神や仏教にも関心を持つようになりました。

それと、日本発祥の文化ではないですが、ヨガを10年ほどやっていまして、瞑想は普段からしています。

──余談ですが、『シェンムーIII』が18年越しに発売された時はどういった気持ちでしたか。

ドミトリー氏:
めっちゃ嬉しかったです(笑)。ストーリーは『シェンムー』や『シェンムーII』の方がよく出来ていますが、『シェンムーIII』は私にとって大事な作品です。それに、5年前に通訳を介して(『シェンムー』シリーズプロデューサーの)鈴木裕氏にインタビューをしたのですが、それが日本語を勉強したいと思うきっかけになりました。それが今回、このイベントに来るということにも繋がったので、『シェンムーIII』のおかげで日本に来れたとも言えます。

──最後に日本のユーザーにメッセージをお願いします。

ドミトリー氏:
私たちはこのゲームを製作するにあたって、今この瞬間が二度と繰り返されることはない、ということを人々に伝えたいという思いを込めています。本作を通して、それが伝えられたら嬉しいです。

日本のプレイヤーの皆さまや本作に関心を持ってくれた皆さまは、是非とも今日、今この瞬間に何かいいことをやってほしいです。今日という一日がリラックスできる、居心地のいいものになることを願っています。

──ありがとうございました。


『inKonbini』は2025年に発売予定。対応プラットフォームはPC(Steam)/Xbox Series X|S/PS5/Nintendo Switchとなる見込み。

Rikuya Melichar
Rikuya Melichar

ゲームだいすき。独特の世界観や没入感があるゲームが好きで、気付いたら流行りのゲームを尻目にずっと遊んでたりします。

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