コントローラー振動で質感や“力覚感”まで再現する「AMPTIX for Games」の強みを訊いた。次世代の触覚が作れて、開発まで楽にする
「ハプティクス」をご存じだろうか?ハプティクスとは、振動などを使ってさまざまな触覚を表現する技術だ。ゲーム分野では、振動するアーケード筐体などのかたちで登場。振動パックや振動コントローラーとしてもハプティクスは導入され、今日まで進歩を重ねてきた。最近ではNintendo Switch 向けコントローラーの「HD振動」や、PS5のDualSenseに内蔵された「ハプティックフィードバック」といった機能は、実装によってはまるで本当に物体を触っているかのような錯覚を起こせる水準に到達している。
そんなハプティクスについて研究・応用をしている会社が、株式会社ミライセンスだ。株式会社ミライセンスは6月30日と7月4日に行われた、ゲーム開発者向けツールとミドルウェアの紹介を中心としたイベント、Game Tools & Middleware Forum 2023(GTMF 2023)に出展。そこで展示されていたのが、ゲーム用のハプティクスを手軽かつ自由自在に編集し、ゲームに実装できるミドルウェア・ソリューション「AMPTIX for Games」である。今回はこのAMPTIXについて、コファウンダー・取締役社長である香田 夏雄氏に話を伺った。
──よろしくお願いいたします。AMPTIXについて概要をご説明いただけますか。
香田 夏雄(以下、香田)氏:
AMPTIXは、ハプティクスの生成と再生するためのミドルウェアですね。ハプティクスとは、振動を通して感触などをデジタルで表現するための技術です。振動による感触の生成と、各種ゲームコンソールで再生するためのミドルウェア、2つの相互ソリューションになっています。
──対応しているコントローラーを教えてください。
香田氏:
現状では、PlayStation 5の純正コントローラー、DualSenseに対応しています。マルチプラットフォームにも対応していて、DualSense向けに作ったハプティクスのデータをほかのプラットフォームで用いることができるように自動で変換できるツール開発も進めています。
──AMPTIXの強みとはなんでしょうか。
香田氏:
ハプティクスってこれまでは編集するのが大変だったんです。たとえば、銃を撃つ時に撃った時の手応えを再現したくても、手法としてはドラムの音(*)を振動として合わせてみたりとか、それっぽく再現することしかできなかったんですね。ですが、AMPTIXの場合は、我々が研究した独自の力覚感を感じることができます。力覚感とは何かというと、挙動や脈動する動きをゲームコントローラーで簡単に表現する技術ですね。
*コントローラー振動の実装手法として、サウンドデータを振動データとして扱うことがしばしばおこなわれる。
たとえばAMPTIXを使うと、キャラが動いていく方向に折れ線グラフを描けば、前に歩く感覚、後ろに歩く感覚を表現できるんです。これを使えば、キャラクターの移動に合わせた躍動感あるハプティクスを編集ツール上で簡単に作ることができるというのが一番の特徴です。
それからもう1つ強みがあって、躍動感の表現だけでなく、ザラザラ感といった質感に関しても望み通りの表現ができます。ザラザラ感というのは、たとえば石畳やアスファルト、雪道といった路面を歩いているときの表現ですね。従来は10数個のパラメーターがあるシンセサイザーで、踏んだ時にうまくノイズを発生させて質感ある振動を表現したりしていましたが、それでも望ましい感覚とは違っていました。AMPTIXでは、3つのパラメーターを調整するだけで、AIが望みのザラザラ感を作ってくれます。これらがAMPTIXの強みになっていますね。
──マップモデルの道路に張られたテクスチャーや、設定されたマテリアルによって、細かくフィードバックを変えられるのでしょうか。
香田氏:
はい。ゲーム内効果音の編集と同じような感覚で使うことができます。たとえば、効果音は基本的にゲームの中で何度も繰り返し使いますよね?そして「この路面を踏んだ時はこの効果音が出る」といった設定もできます。AMPTIXも同じで、「この条件でこのハプティクスを再生しろ」と指示するだけでその感覚を表現できます。なので、ゲーム開発者の皆さんにとっては、効果音を設定・調整するような感覚で組み込んでいくことができるようになってます。
──力覚感について詳しく教えてください。
香田氏:
力覚感というのは、物体が動いた時の強い力や、特定方向に動いたという感覚を生み出す技術のことですね。効果音をいろいろ試してそれっぽく実装、といった手法のように「偶然方向があった、雰囲気が出た」ではなく、力覚感を使うことでその力が働く方向、力強さを意図したとおりに表現できる。そういったハプティクスによる手ごたえ感を自在にコントロールできる独自の技術になっています。
──ハプティクスを編集するツールはどのようなデザインになっているのでしょうか。
香田氏:
そうですね。映像編集ツールやサウンドエディターツールのように、タイムラインによってハプティクスを調整できるような設計となっています。インターフェイスは音楽制作ツール、いわゆるDAWと同じように設計していて、開発スタッフにも実際に過去にDAWを使っていたユーザーがいます。なので、音楽系のデザイナーさんでしたら違和感なくすぐに使えるようになっていますね。
それに加えて、AudiokineticのWwiseやCRI・ミドルウェアのCRI ADXなどのツールと連携して、効果音やBGMに合わせてハプティクスを生成、再生ができる連携機能があります。導入にあたってもハプティクスのためにまったく新しいワークフローを作る必要は基本的になく、音楽や効果音デザインのワークフローに少し付け足すようなかたちで導入しやすくしました。
なぜそのようなデザインにしたかと言うと、ゲーム開発の現場では、サウンドクリエイターの方がハプティクスもやってるケースが多いんですね。「振動も音も波形だし同じだろ」みたいな感じで(笑)。そういったユーザーの皆さんが困らないよう、違和感がなく使えるように、使い手に合わせた設計をしています。
──AMPTIX利用予定のタイトルを教えていただけますか。
香田氏:
いえないです……(笑)。「次世代のゲーム機に入るだろう」という方針で、今いろんな会社さんに試してもらっている最中ですね。
──ありがとうございます。AMPTIXが導入されたゲームを遊ぶのが楽しみになりました。
[執筆・聞き手: Tamio Kimura]
[編集・聞き手: Seiji Narita]