Unityが提供する、モバイルハードでも美しく表現する描画方式「URP」とは何か。Unityの人に訊いてみた

 

ゲームエンジンUnityを展開するユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以下、Unity)は6月30日と7月4日、Game Tools & Middleware Forum 2023(GTMF 2023)に出展。このイベントは、ゲーム開発者向けツールやミドルウェアを中心にさまざまな展示が行われる。

Unityは今回GTMFに出展した数多くの会社の中でも、知名度の高い会社だろう。ゲームエンジンUnityは長年人気のゲームエンジンで、多くの開発者に支持されている開発ツールの1つだ。モバイルからハイエンドまで、幅広い描画方式に対応していることも支持されている理由の1つだ。しかし、実際にどのような方式で描画しているのかを理解している人は少ないだろう。展示ではUnityが提供する描画方式をデモにて紹介。今回は2つの描画方式と、各プラットフォームに柔軟に対応するUnityのカスタマイズ性について、シニア・アドボケイトである簗瀬 洋平氏に伺った。

──よろしくお願いいたします。今回はどのような展示をしているのでしょうか。

簗瀬 洋平(以下、簗瀬)氏:
(デモを見せながら)こちらがUnityのエンジンのデモとなっております。このデモでは、Unityの2つの描画方式を紹介しています。今デモで流れているのはURP(ユニバーサルレンダーパイプライン)という、モバイルからハイエンドまでカバーする描画方式となっています。

↑URP(ユニバーサルレンダーパイプライン)


簗瀬氏:
URPはモバイルでも動かせるように基礎部分が軽量に作られていて、グラフィック面もきれいに表現できます。さらに、カスタマイズ性が非常に高く、部分的にハイエンド向けの機能を使ったりと、思ったような表現がしやすい描画方式ですね。今回の展示にやってくるゲーム開発系の方もモバイルでも動かせるグラフィックだと知らず「グラフィックきれいですね」と言ってくださる方が多いです。

これとよく対比して紹介されるのが、HDRP(HDレンダーパイプライン)です。こちらはフォトリアルで現実に近い描写のための機能が充実しています。デモとしてはHDRPの方が華やかだし見応えがあるんですが、リッチなコンテンツは動かすとGPUをバリバリに使うため、一定以上のスペックをもったハードでないと動かせない。Unityはモバイル、Nintendo Switchや、PlayStation 4、Xbox Oneといった旧世代コンソール機でも多く使って頂いているので、そういったところに向けてもURPを提供しています。

↑HDRP(HDレンダーパイプライン)


簗瀬氏:
最近だとコロプラさんがURPを使った実験的なプロジェクトをしていて『PRINCIPLES』というスマートフォンで動かせるハイエンドなゲームのデモが公開されています。

簗瀬氏:
Unityの公式YouTube チャンネルでも『PRINCIPLES』を紹介しています。実はこのデモは私のiPhoneで動かしていました。実際に私がプレイしているところを、コロプラさんと一緒に解説している動画がアップされています。

──iPhoneでもこんなにサクサク動かせるんですね。

簗瀬氏:
もちろんコロプラさんの技術力あっての事ですが、多少古いノートPCでもサクサク動かせると思います。一方でHDRPとなると、ゲーミングPCのようなスペックでないと快適には動かせないですね。

Unityでできる表現技法

──なるほど。どのような仕組みによって、このように軽く動作させることができるのでしょうか。

簗瀬氏:
あくまでイメージ的な説明になりますが、モバイルなどで軽量に動作するための表現は、下から積み上がっているイメージなんです。一番軽く動作するところから始まって、だんだん表現を豪華にしていく。一方HDRPの場合はフォトリアルというゴールがあって、そのためにいろいろな機能が複雑に影響を与え合うような構造になっています。なので何かの要素を外して軽量化するということが難しくなっている。

グラフィック要素の多くが軽量に作られているというのはもちろん、それぞれの機能の独立性が高く、ブロックのようにつけ外しが出来る、というのがURPの仕組みになりますね。基本は軽くてちゃんと動作するよってどっからスタートしてるのでサクサクと動作することができます。加えて、スマートフォンのスペックが上がってきたので、昔はハイエンドなものでやってたような表現も追加できるようになってきたというのもあります。

──ハイエンドとモバイルどちらにも対応しているんですね。

簗瀬氏:
そうですね。でも、今のところUnityは軽量向けの方が多いですね。結局、世の中にはハイエンドじゃないハードの方がはるかに多い。なので、低スペック、もしくは一般向けのハードでの利用案件が多いという。Unityの強みはエディターが軽いことなんです。軽いPCで動作するので、ユーザーも多くいる。

──デモでは、美しい自然の景色が流れていますが、ほかにどのような表現ができるのでしょうか。

簗瀬氏:
そうですね。波や水の表現、アニメ調の表現などいろんな表現のパターンがあります。Unityで作られた作品たちを見ていただけるとよく分かると思いますが、パッと見、Unity製かどうかっていうのが分からないですよね。

簗瀬氏:
なぜなら、グラフィックに限らず、その人がやりたいことに応じてカスタマイズを自由にできるのがUnityのアドバンテージなので。その一環としてURPは幅広いグラフィック表現ができることを魅力としています。

ちなみにですが、今回紹介したデモはURP版、HDRP版どちらもお手元のPCでダウンロードして動かしていただくことも可能です。

──では、URPHDRPの表現がどう違うのか見比べることができますね。

簗瀬氏:
そうですね。表現と処理負荷の違いを見比べてもらえると思います。最近だと、デジタルヒューマンの表現ができるデモなど、ハイスペックなPCに向けたものも配布されています。

──ありがとうございました。
今回、展示にて紹介されたデモはPCからダウンロード可能。この記事を見てUnityが提示する描画方式に少しでも興味を持ったのであれば実際に動かしてもよいだろう(URP版デモ/HDRP版デモ)。また、こちら以外にもUnityではさまざまなデモを配布中。最新のゲームエンジンがどのようなものか気になった読者はぜひチェックしてほしい。

[執筆・聞き手: Tamio Kimura]
[編集・聞き手: Seiji Narita]