ゲームイベントで「手」を撮影する開発者に、その理由とこだわりを聞いた。『Shadow Love』開発者ミニインタビュー

あるゲームイベントで、手の素材を集める開発者がいた。なぜたくさんの手の画像が必要なのか、そもそもなぜ影絵でゲームを作ろうと考えたのか。話を聞いた。

先月3月25日に大阪梅田スカイビルで開催された、ゲームイベント・ゲームパビリオンjp。インディーゲーム開発者が集い、60以上のインディーゲームが展示された。筆者はこのイベントの出展作品を調べているとき、気になるツイートを見つけた。

「あなたの手、ゲームに使わせて下さい」


いったいどういうゲームなのか、つい食い気味で調べてしまった。調べるうちに、『Shadow Love』というゲームの続編のために、この開発者が手の素材を集めていることがわかった。『Shadow Love』は2012年6月6日にリリースされたiOS向けのアクションゲーム。ジャンルとしてはシンプルなプラットフォームアクションながら、ゲーム内の多くの素材が影絵で作られているのが特徴だった。2018年に開催された「BitSummit Volume 6」では、イノベイティブアウトロー賞にノミネートされており、一部で注目を集めていることがわかる。


なぜたくさんの手の画像が必要なのか、そもそもなぜ影絵でゲームを作ろうと考えたのか。今回はパビリオン終了後、開発者である影絵の人さんにインタビューを実施。このあたりの理由とこだわりを訊いてみた。

──自己紹介をお願いします。

影絵の人:
影絵の人という名前で活動しています。

──ありがとうございます。今回ゲームパビリオンjpでは『Shadow Love2』のデモを出展されていたのでしょうか。

影絵の人:
いえ、会場でプレイしていただいていたのは前作『Shadow Love』のほうです。『Shadow Love2』を作るにあたって人の「手」の画像素材が足りなくて、前作を出展しつつ、素材を集めるために手の写真を撮らしていただくということをしていました。私はこれをクラウドファンディングならぬクラウド「ハン」ニングと呼んでいます。これで協力を頂ければ「2」を作らせていただくという形にしました。


──なるほど、素材撮りがメインだったのですね。現状『Shadow Love2』の開発はどのような段階なのでしょうか。

影絵の人:
前作『Shadow Love』はiOS/Androidのネイティブ環境で作っていまして、UnityやUnrealなどのエンジンを使っていないんです。なので今は『Shadow Love』をUnityに移植している段階です。もっときれいな映像とか、ぼやけさせたり、3Dっぽい影絵表現をしたいので、ゲームエンジンを変更しました。影絵のスクリーンをたなびかせたり、それでギミックを作ったりとかもしたいんで。

──2も基本的には1と同じような横スクロールアクション予定されていますか。

影絵の人:
そうですね、ただちょっとギミックというか、問題を解くようなパズル要素は増やそうと思っています。

──本日の「手」の収穫はいかがでしたか。

影絵の人:
すごかったですね(笑)反応の多さは今までで一番でした。

──会場内で見ていても、かなり盛況なのが伺えました。

影絵の人:
はい。ここまでだとは思わなかったです。結構協力していただけましたね。撮影していることを知らずに試遊に来てくれた方も、事情を説明すると快く撮影に応じてくれる人が多くて、(試遊した人のうち)9割5分くらいは協力していただけました。


──撮影風景を見ていると、スマートフォンで協力者の方の「手」を撮影しておられましたが、あれをどの様にして素材として使っていかれるのでしょう。

影絵の人:
撮影した画像を一旦白黒の画像にして、それを影絵にしていく感じです。今回のゲームパビリオンjpでは、腕を木の幹とか枝に見立てた画像を結構撮らしてもらいました。それを全部繋げて、大きな木のオブジェクトにできたらと思っています。手の形って、人によって全然違うじゃないですか。まったく同じ影絵、たとえば蟹の影絵でも、手の形によって大きかったり小さかったり、足が長かったり短かったりと全然違うので。将来的にはそういう個体差の違いみたいなのを出したいとおもっていて、そのためにいろいろな人の手を撮りたいんですよ。そっちの方が面白いので。


──バリエーションをつけるために、いろいろな人の手を撮影していたというわけですね。前作も手や体の影絵を使っていらしたと思うのですが、今回もそれにこだわって、素材として使っていらっしゃる理由はなんでしょう。

影絵の人:
正直前作『Shadow Love』という作品は、完成できるとは思っていなかったんですよ。やってみたらできたという形なんですけど、完成したら“まだまだ影絵でできることあるな”と。

──1作目で実現できなかったアイデアを、2作目で作りたいということでしょうか。

影絵の人:
そうですね。本当はもっと早く作りたかったんですけど、あまりにも影絵でできることが多すぎて、いろいろ絞って、ようやく、という感じです。影絵でできることはホントにいっぱい、いろいろあって、今世界にいろんな影絵があるんですけど、『Shadow Love』はそれをなぞっていた、って感じなんですよね。「2」では新しい影絵を見せたいと思ってます。

たとえば一つのスクリーンを出すじゃないですか。普通は裏から光を当てるところを、これを表から光を当てるとどうなるのか。2つの影の世界、表からの影の世界と、裏からの影の世界を切り替えたり、組み合わせたり、まだイメージの段階ですがいろいろなギミックが作れるのかなと思ったりとか。

あとは影絵って2Dじゃないですか。それを3Dっぽく表現するのはどうかとか。これまで影絵の作品をゲーム以外のものもいろいろ見させてもらったんですけど、こっちから新しいものを、影絵としても新しいものを見せていきたいなと。

──ゲームだからできる、影絵の新しい表現に挑戦していくと。

影絵の人:
それにプラスして“この表現、普通の影絵で使ってもおもしろいんじゃない?”みたいな、こちらから影絵業界へ攻撃していく、みたいな感じです(笑)


──お話をお聞きしていると、影絵に対してかなりの熱意があるようにうかがえるのですが、もとから影絵がお好きだったのですか?

影絵の人:
そうですね。影絵は結構好きだったかもしれないですね。折り紙とかも好きで、折り紙でゲーム作ろうとしたこともありました。


──アート部分のインスピレーションからゲームを作られることが多いのですね。

影絵の人:
そうですね

──ありがとうございます。では最後に今後の予定についてお聞かせください。今後も今回のゲームパビリオンjpのようなイベントに出展して、手の素材を撮る予定はあるのでしょうか。

影絵の人:
はいあります、もちろん。これだけ盛況なら。ほかにももっと作れるものがあると思うので、今から精査してやろうとおもっています。

──ありがとうございました。

インタビューを通じて、影絵の人さんの影絵への熱意とこだわりをうかがい知ることができた。こういったこだわりがゲームに色濃く反映されるのが、小規模開発のインディーゲームの一つの魅力ではないだろうか。皆さんもインディーゲームイベントに足を運ぶことがあれば、そのこだわりに着目してゲームを探してみるのはいかがだろうか。

Junichi Matsui
Junichi Matsui

『風来のシレン』『アンリミテッド:サガ』『Dwarf Fortress』を人生の師とする雑食ゲーマーです。

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