『Fate/Grand Order』フェスの“現地会場”でしか味わえなかったものは何か。この大オンライン時代にオフイベントに行く意味を、現地で考えた
『Fate/Grand Order(以下、FGO)』のリアルイベント「Fate/Grand Order Fes. 2022 ~7th Anniversary~(以下、FGOフェス)」が、7月30日と7月31日に千葉県幕張メッセ国際展示場で開催された。新型コロナウイルスの新規感染者が毎日大勢増えている中での開催となったが、多くのマスター(『FGO』作中におけるプレイヤーに対する呼称、転じてプレイヤーのこと)が集い、会場は熱気に包まれていた。
ところで、FGOフェスにおける目玉といえば、間違いなくステージイベントである。今回のFGOフェスにも、声でキャラクターに命を吹き込む声優や開発スタッフ、第2部開発ディレクターのカノウヨシキ氏などが登場し、華々しいステージイベントがおこなわれていた。第2部第6章の朗読劇「FGO THE DRAMALOGUE-アヴァロン・ル・フェ- 」や、アルクェイドの実装が発表された「カルデア放送局 7周年SP」などは、インターネット上も含めて大きく盛り上がっていたように思う。しかし、ステージイベントのほとんどは、YouTubeやニコニコ動画で生放送が配信されている。ほかに、アトラクション「サーヴァントと巡る世界展 – Re:Collection -」の内容も動画形式で公開されており、オンライン上でFGOフェスの半分は体験できるといっても過言ではないだろう。オンライン上でほとんどのコンテンツが見られることは、もちろんいいことではあるが、では現地に足を運ぶ価値はあるのだろうか。今回は、筆者が7月30日に幕張メッセまで取材に行ってきたので、その内容をお届けしよう。
ソールズベリーの酒場
筆者が幕張メッセに到着したのは11時ごろ。すでにフェスが始まってから2時間が経過していたため、会場内にはすでに大勢のマスターたちが集まり、どこも長蛇の列が形成されていた。そんな中「サーヴァントと巡る世界展 – Re:Collection -」は、比較的観覧しやすいアトラクションとなっていた。とはいえ、筆者が並んだ時点で待ち時間は40分から50分ほどだったといえば、会場の混雑具合が伝わるだろうか。
公式の説明によると、「サーヴァントと巡る世界展 – Re:Collection -」は、描き下ろし衣装に身を包んだサーヴァントと一緒に、第2部でカルデアが訪れた世界の各エリアを巡るアトラクションとなっている。実際に世界展へ入場すると、ロシアや中国など各エリアごとに部屋が分けられており、その中に描き下ろしイラストによるサーヴァントたちのパネルが展示。そこへさらにボイスを流すことで、サーヴァントと巡る世界各地が表現されていた。なおインドを含めて、一部のエリアはミニシアター形式の展示で、オンライン上で公開されているものと基本的に同じ動画が流れていた。
現地での体験とオンラインでの動画を比べて、単にパネルと背景があっただけと断じることもできる。ただ、ほかのマスターと熱気と興奮を共有して見る体験は現地ならではのものだった。個人的に記憶に残っているのは、一部で大人気のサーヴァントであるレジスタンスのライダーも登場した、Lostbelt No.4の世界展。インドにたどり着いたレジライが、約1万QPという絶妙な値段で怪しいスパイスを売り捌く姿には、会場でも笑い声があがっていた。会場においては、次の部屋に何が待ち受けているのかわからない未知への高揚感も、体験に磨きをかけていたように思う。
もう一つ、「サーヴァントと巡る世界展 – Re:Collection -」は2つに分けられていたが、Lostbelt No.4から6の最後には2部6章をテーマにした展示が用意されていた。パネルとボイスによって、サーヴァントと巡る世界が表現されている点はほかと変わらない。ただ2部第6章テーマの展示は、ソールズベリーの酒場を思わせる凝った内装に、大勢のキャラクターのパネルが設置されていた。ダヴィンチちゃんやマイク、赤兎馬や妖精たちなど、ほかのエリアと異なり、2部6章の内容を思い返すような展示だった。酒場に入ると、まず真っ先にクリプターのペペロンチーノ氏が視界に飛び込んできたことも、印象深い。2部6章で情緒を破壊されたマスターの1人としては、ちょっと込み上げてくるものがあった。ちょっとした演出により、良い振り返りとなっていたではないだろうか。
お祭りの記念
続いて、会場限定のコンテンツ群に触れていこう。「ストーム・ボーダー シアター」では、ストームボーダーの船内をイメージしたミニシアターでスペシャル映像が上映されていた。内容については深く触れることはできないが、2部5章と6章を振り返るような内容で、光や音の演出と共にここでも2部6章の記憶が襲ってきた。今回のFGOフェスでは、どこへ行っても2部6章で殴られていた気がする。席数が限られているためか、整理券による予約制となっており、筆者の参加した回はほぼ満席。上映の前には、ネモ船長によるアナウンスも流れていた。なお「FGOフェス」版の ストーム・ボーダー シアターで上映された映像は、「AnimeJapan 2022」から一部アップデートされていたそうだ。
会場限定のアトラクションとしては、英霊一騎を選んで一緒に写真を撮れる「英霊召喚フォトスタジオ」も大盛況となっていた。撮影するサーヴァントのクラスによって途中から列が2つに分けられており、待ち時間は三騎士+EXTRAクラスが約100分、四騎士+EXTRAクラスは80分ほど。一口にEXTRAクラスといっても幅広いが、三騎士側にはアルターエゴ/アヴェンジャー/フォーリナー/ルーラー。四騎士側には、シールダー/ムーンキャンサー/プリテンダーが含まれていた。ほとんどのEXTRAクラスは三騎士側であったわけだ。筆者は四騎士側を選んだので、三騎士より短かったものの、それでも待ち時間は長かった。ただ、英霊召喚フォトスタジオの待機列は、途中までステージが視える位置にあり、遠目にステージイベントが観覧できたこともあって、退屈はしなかった。
「英霊召喚フォトスタジオ」は、選んだサーヴァントと一緒に無料で写真が撮れるアトラクションである。写真には、自身とサーヴァントの立ち絵以外に、7周年のロゴも一緒に掲載。その場で写真がプリントされるほか、撮影された画像データはURLかQRコードから7日間ダウンロード可能となっていた。こちらも、写真が撮れるだけといえばそれだけである。ただし、「FGOフェス」はマスターたちの集うお祭りであり、写真が思い出になるのは間違いない。誰か一騎を選んで写真を撮るという行為自体も、記念になったように思う。
カノウさん大人気
「FGOフェス」の会場内では、中央に鎮座した大きなケルヌンノスも存在感を放っていた。全体をしっかり写真に納めるのが難しいほどの巨体。大きな白い体躯を下から怪しく照らすライト。一見ゆるキャラのような巨大なケルヌンノスが、ただのもふもふではなく、神なのだと表現されていた 。
またケルヌンノスに関連して、第2部開発ディレクターのカノウヨシキ氏についても語らねばならないだろう。何の関連があるのかと思うかもしれないが、今回のFGOフェスの会場内では、時折カノウヨシキ氏とバスター石倉氏によるステッカーの配布がおこなわれていた。ステッカー配布の場所が、ケルヌンノスの回りだったのだ。筆者は行列を見かけたものの並ばなかったため、詳細な配布の様子についてはわからないが、マスターたちがカノウヨシキ氏に対してちょっとした質問を投げかけるなど、会話を交えながらステッカーが配られていたようだ。『FGO』の情報番組ではお馴染みのディレクターに直接声がかけられることもあって、大人気となっていた。
そのほか会場内では、景品つきのスタンプラリーや関連グッズを集めたコーナー、『FGO』の歴史年表や宝具の展示など、細かなアトラクションも多数用意されていた。フードエリアのカルデアキッチンついては、オベロンのドリンクがどんな味かなど気になっていたものの、待ち時間が非常に長かったため、残念ながら断念。物販コーナーも、受注販売があるため会場では訪れなかったが、整理券が配布されており、時間になればスムーズに買い物できたようだ。
ステージイベント
最後にステージイベントについても紹介していこう。配信でも見られたとおり、今回の「FGOフェス」でも声優やスタッフたちが登壇し、ステージイベントが開催されていた。中でも盛り上がっていたのは、各日最後の催し物だろう。30日に実施された朗読劇「FGO THE DRAMALOGUE-アヴァロン・ル・フェ- 」では声優陣の繊細な演技によって、2部6章の記憶が感情豊かに蘇ってきた。31日の「カルデア放送局 7周年SP +7th Anniversary Special Live ~Re:Collection of Avalon le Fae~ 」では、アルクェイドの実装やマシュの『メルブラ』参戦など、多くの情報に圧倒された。特に2部6章の朗読劇については、もし2部6章をプレイ済みでまだ見ていないなら、先日YouTubeで公開されたアーカイブの視聴をおすすめする。美しい地獄の様相に、きっともう一度情緒が破壊される。
冒頭でも言ったように、「FGOフェス」の目玉はステージイベントで間違いないように思う。ただし、ステージイベントの内容は大半が生放送されているため、会場とオンラインで見られる内容に大きな違いがない。また今回の「FGOフェス」では時期の関係上、会場へ訪れるために猛暑の中を移動し、新型コロナウイルスの感染リスクとも向き合うこととなった。ステージイベントだけを目的とするなら、一人静かな部屋で快適に安全に配信を見るのも、「FGOフェス」を最大限楽しむ手段の一つだ。
しかし、実際に会場で体験してみると、配信で見られるものがステージイベントのすべてではなかった。まず、会場ならではの演出が挙げられる。会場内では映像が流れる際には、あわせてライトを使った光の演出が施されるなど、画面で見るのと少し印象が異なっていた。すでに一般公開されているが、会場限定で先行公開された映像があったことも特徴だろう。もう一つ、会場ではほかのマスターたちとその場の空気が共有できた。新しい情報が発表された際のどよめきや歓声。声優陣の演技に感情を揺さぶられる時間を、ほかのマスターと共に味わえた。空気を共有すること自体にリスクがあるが、同時に興奮と熱狂が共有できたわけだ。会場のお祭り感も、フェスならではの醍醐味だろう。
『FGO』のお祭り
ステージイベントを含め、かなりのコンテンツがオンライン上でも配信されており、家で放送を見るのも悪くはない。一方で会場にはオフラインならではの表現やコンテンツがあり、大勢のマスターたちが集うことでその場で驚きと喜びを分かち合えた。参加にあたっては、今回2部6章がテーマとなっていたように、『FGO』を常に追い続けなければすべてを味わうことはできないが、もし前提クエストをクリアしているなら、参加してみてもいいのではないだろうか。今回「FGOフェス」は、少なくともそんな風に思わせる『FGO』の夏のお祭りだった。