ファンタジーRPG『パスファインダー:キングメーカー』日本語版試遊会レポート。TRPG原作の150万ワード超えミリオンセラーを完全翻訳
時は寒暖の差が激しく揺れる4月某日。DMM GAMES主宰よる日本語版『パスファインダー:キングメーカー ディフィニティブエディション』の試遊体験会が開催される運びとなった。
『パスファインダー:キングメーカー ディフィニティブエディション』は、海外向けに発売済みのファンタジーRPG『Pathfinder: Kingmaker』の日本語版だ。『Pathfinder: Kingmaker』は、Steam版が100万本を売り上げている大人気作品である。しかしながら、その莫大なテキスト量もあってか日本語にはローカライズされておらず、ファンメイドの日本語化Modすらほとんど作成されていない状況にあった。だがDMM GAMESは成し遂げたという。計150万を超えるワード数の翻訳を。その真偽を確かめるべく、そして本作について微塵も知らないという方へ作品情報をお伝えするべく、筆者は体験会の会場へと向かうのだった。
『パスファインダー:キングメーカー ディフィニティブエディション』(以下、パスファインダー:キングメーカー)は、既に発売されている『Pathfinder: Kingmaker』のローカライズ作品であり、DLC6つがすべて最初から同梱されている決定版である。価格はPC版(DMM GAME PLAYER版)が5060円、PlayStation 4版がパッケージ/ダウンロード版ともに8778円。Xbox One版はダウンロード専売で8778円となっている(いずれも税込価格)。ローカライズの監修を務めるのは、原作にあたるTRPG「パスファインダーRPG」のコアルールブックの翻訳を手掛けた「チームPRDJ」の代表である石川雄一郎氏。会場でローカライズの苦労を語った同氏いわく「過去翻訳がずさんなTRPGを遊び苦労した経験から、翻訳には本当に力を入れた」とのこと。
原作の「パスファインダーRPG」は、世界で最初のロールプレイングゲーム (RPG)と名高い「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(第3.5版)の世界観をさらに突き詰めた結果生まれた、いわば派生作品であり、一時は原点を凌ぐ人気を誇った。『Pathfinder: Kingmaker』はその「パスファインダーRPG」が持つ世界観、そしてTRPGの要素をゲームシステムへと落とし込んでいることに大きな特徴がある。何世紀もの間、栄枯盛衰を繰り返してきた歴史を持つ「ストールンランド」を舞台に、プレイヤーは自分だけの王国を築き上げ、仲間と共にダンジョンを攻略し冒険の旅を続けていく、というゲームである。
そもそもTRPGってなんだ
ゲームの試遊レポートへ移る前に、まずは本作の原作にあたるTRPG「パスファインダーRPG」およびTRPG(Tabletop role-playing game)というゲームジャンルについて、大まかな説明をしておく必要がある。『Pathfinder: Kingmaker』はゲームシステムに原作TRPGの要素を存分に取り入れた作品として銘打っている。よって「パスファインダーRPG」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」についての前提知識がある程度なければ、このゲームを存分に楽しむことは難しい。知っていれば知っているほど楽しめるし、知らなければシステムや用語の意味がよくわからず、頭の上に「はてな」を浮かべることになるだろう。
事実、筆者はTRPGを人生で一度も遊んだことがなかったため、正直なところを言うと、試遊会に向けた情報収集の時点で作品の理解につまずいていたことは否めない。「サイコロとステータスで戦闘ダメージを計算……???」「なんで敵ユニットを攻撃するだけなのに、移動して、技を選択して、攻撃するというフローについて事細かく設定があるんだ???」「壁越しに攻撃?部位攻撃?誰を同行させて誰をそのままの位置にしておくか?……なるほど、わからん」。こうした事情もあって、本作はどんな挑戦でも楽しんで受けて立つことのできる、ハードコア・ゲーマー向けの作品であると考えられる。
今回の試遊会では幸いにして、ゲーム試遊の前にTRPGである「パスファインダーRPG」を実際に遊ぶことになった。そこで得た経験と知識をもとに、「パスファインダーRPG」の遊び方についてざっくりと紹介しよう。
「パスファインダーRPG」を遊ぶにあたってまず用意するものは、大人数で囲める机と椅子、ルールブックとダイス、筆記用具、そして一緒にプレイする仲間だ。キャラを表現するコマと、キャラクターの立ち位置を表現するマス目が描かれたマップも用いる。
集まった人々は、ルールブックをもとに司会進行を務める「ゲームマスター」と、ロール(キャラクター)を与えられる「プレイヤー」に分かれる。ビデオゲームにたとえるなら、ゲームマスターはUIを始めとするゲームシステム全般、プレイヤーはそのままコントローラーを握って作品を遊ぶ人間に当てはまる。
プレイヤーはあらかじめ用意されたシナリオをもとに、ゲームマスターから逐次提示される課題を「与えられたロールになりきりながら」ほかのプレイヤーとの会話を通して解決していく。キャラクターごとの設定を活かす場合もあれば、敵が出現し戦闘が発生する場合もある。移動もアクションも事細かく話し合って選択し決めていく。ちなみに筆者が与えられたロールは、「復讐に燃える女狂戦士」だった。
ゲームを進行していくと、「キャラの能力の上下」「攻撃が対象に当たる/当たらない」「物が見つかる/見つからない」など、ランダムな要素が絡む場面に遭遇する。そこで活躍するのがダイスだ。プレイヤーは指定された形状のダイスを振り、出目によって結果を判断していく。ビデオゲームにおけるプログラム上の乱数がこの表現を兼ねている。
一定のルールと台本をもとに、会話とランダム要素を通じて物語を展開していくライブ感。まるで即興劇を演じているかのような、ゲームに対する意識の没入と高揚感。他者とともに紡いでいく、唯一無二の体験こそ、TRPGの醍醐味と言えるだろう。少なくとも筆者は今回の初体験を通じてそう思った。
なお、TRPG体験で使用したシナリオ「世界で一番小さな王国」は、パッケージ版『パスファインダー:キングメーカー』の初回生産特典として封入される。執筆者はTRPG雑誌「Role&Roll」にて「パスファインダーRPG」のサポート記事を執筆している銀河アズマ氏。会場では特典のサイズ(シナリオ名通りコンパクトなつくり)と出来栄えに驚きをみせ、TRPG体験では、筆者が座った卓のゲームマスターを務めてくださった。本特典は株式会社アークライト制作の完全オリジナル冊子となっているため、ファンの方は要チェックだ。
ビデオゲームにTRPGを盛り込むということ
さて本題となるゲームの試遊レポートに移ろう。今回体験することになったのは、キャラクタークリエイトの場面、そして最序盤のイベントを経たあとの戦闘と散策である。何度も述べたように『パスファインダー:キングメーカー』は原作TRPGの要素を多数盛り込んだ作風であることに大きな特徴がある。「即興劇を演じているかのようなライブ感」「物語の唯一無二性」。短い体験時間ではあったが、本作にTRPGの醍醐味である要素が組み込まれていることを確認することができた。ちなみに本作には王国を運営するシミュレーションゲームのようなパートが存在するが、今回体験することはできなかった。
スタッフの指示に従いゆったりとした座席に腰をかけ、手元のコントローラーを握り、モニターに移る「ニューゲーム」のボタンを押す。すると目の前に立ち上がってきたのは、膨大な設定項目の山だ。まずは計6段階ある難易度を選択するところからスタートする。本作では死亡したキャラクターユニットを蘇らせるのが難しい。そこで、敵から受けるダメージ量や死亡のしやすさを軸として難易度が設定されている。もちろん、一番低い難易度であればキャラクターが死ぬことはない。一方で高難易度の場合は致命傷を負った途端に死んでしまう。このほか設定項目には「ヒント非表示」や「経験値取得の制限」「セーブデータ複数所持の禁止」などが存在する。計6段階の難易度プリセットのほか、各設定項目を個別に変更するカスタム難易度も用意されており、好みにあわせて難易度を調節しやすい。
難易度設定を終えたら、キャラクタークリエイトに移ろう。まず選ぶのは種族、利き腕、性別、そして簡単な見た目の調整である。種族は9つのうちから一つ選ぶことになり、それぞれ背景設定とステータス、特定の場合に効力を発揮する特技などの点で特徴がある。たとえばエルフは優れた知恵と五感によって魔法と弓に秀でた種族である。
次に選ぶのはクラスだ。キャラクターの今後覚える能力の指針となる概念であり、20種類以上ある中から一つを選ぶことになる。あらかじめ何の能力を覚えられるのかすべて明記されている点が嬉しい。一部のクラスでは自身と結びつきの強い神を選択することになる。
ステータス値の配分、能力の上昇値の補正決定、名前入力、誕生日、ボイスと性格の初期属性の決定がこのあとに続く。キャラクタークリエイトだけで1時間かかってしまうことが珍しくない昨今。いくら原作にTRPGを持つからといって、唯一無二を演出するためにここまで項目を設けている作品はそうそうない。なかには膨大な項目を選ぶのが手間だと思う方もいるだろう。そんな場合は複数あるプリセットから選ぶことをオススメしたい。
そしてようやく……ようやく「私の物語」が始まった。舞台はとある有力者の邸宅に用意された大広間。各地から英雄たちが集まったその場所で提示されたのは、あからさまに危険な香りが漂う遠征任務と、新たな国の建国権利という、尋常ならざる報酬。私は選ばれた英雄の1人として、任務の概要を話半分で聞いていた。どうやら出立は明日になるようだ。
自室に帰って休もうとすると、吟遊詩人を名乗る女「リンジィ」が話しかけてきた。「あなたは英雄になれる器がある。あなたをテーマとする本を書きたい」だと?人をバカにするのは大概にしてほしいものだ。軽い疲労感を四肢に覚えながら、私は自室へと向かった。
会話には複数の選択肢が登場し、この選択によって、今後プレイヤーキャラクターたちの行く末が決まるほか、人格形成などに影響を及ぼす。他者との関わりでエンディングまでの物語が変化するTRPGらしいシステムである。
「自らの力で新たな国を作る」。その日、会場に居た誰もがまだ見ぬ未来に希望を抱き、輝ける夢を見ていた。だが、その夢は一夜にして悪夢へと変貌を遂げる。謎の組織による襲撃が行われたのだ。廊下では破壊と殺戮が木霊し、各部屋には骸が財宝のようにうず高く積み上げられていた。リンジィに叩き起こされた私の元にも、さっそく刺客が侵入してきた。戦闘のチュートリアルが始まったのだ。
本作の戦闘は敵ユニットに接近後、シームレスに投入。リアルタイム制バトル(ポーズ機能あり)と、じっくりと戦略を立てられるターン制バトルから、好みにあわせて選択できる。戦闘の開始直後にキャラクターの「イニシアチブ値」が判断され、高い順に行動権が回っていく。加えてTRPG要素として「ダイスロール」の概念を取り入れている(実際に演出としてダイスを振るわけではない)。攻撃の威力や防御の成否、特殊効果の発動判定など、さまざまな場面でステータス値とダイスがプレイヤーの運命を決める。
リアルタイム制バトルを選択している場合、放っておくと戦闘は自動で進行していくが、各ユニットに次の行動を指示できる。一時停止ボタンを押すことで、じっくりと時間をかけてユニットごとに細かい指示を出すこともできる。遠距離ユニットは攻撃の届く範囲ギリギリの位置に留まらせたり、サポート役は頑丈なユニットの背後に配置したりと、臨機応変なユニット運用が求められる。戦闘開始時の初期陣形をある程度決めることが可能であることは覚えておきたい。
戦闘は敵ユニットをすべて倒すことで終了する。逆にプレイヤー側のユニットのHPが尽きると、瀕死状態(難易度によっては死亡)に陥り、やがて死んでしまう。瀕死状態から回復するには特定の場所で休息をとる必要があり、死者蘇生を試みるには入手手段が限られた、本当に特殊な呪文などを用いなければならない。
戦闘チュートリアルを終え、凄惨な様相の屋敷をある程度探索したのち、私の試遊体験は幕を閉じた。膨大な項目から作り上げるキャラクタークリエイトシステム、選択肢が豊富な会話や、リアルタイムもしくはターン制で行われる戦闘。そしてダイスロールの概念。TRPGらしさを取り入れるための要素が存分に盛り込まれていることが確認できた。ローカライズに関しても試遊した限りでは特に問題はなかった。背景設定が練り込まれていることに特徴のある「パスファインダーRPG」の世界観を余すところなく読み取ることができるだろう。
そして聞くところによると、本作はクリアまでに100時間以上を要するという。外出自粛が叫ばれる現在。暇を持て余すくらいならば、「パスファインダーRPG」の世界に浸かり、そのままズブズブと沈んでみてはいかがだろうか。
日本語版『パスファインダー:キングメーカー ディフィニティブエディション』は5月13日に発売予定。価格はPC版(DMM GAME PLAYER版)が5060円、PlayStation 4版がパッケージ/ダウンロード版ともに8778円。Xbox One版はダウンロード専売で8778円となっている(いずれも税込価格)。パッケージ版の初回生産特典には先述したオリジナルシナリオ冊子が同梱する。また株式会社KADOKAWAが発行しているアメコミ「パスファインダーRPGコミック 第3弾」に特設ページが掲載予定。ファンの方はぜひチェックしてほしい。