Steamのゲームが遊べる携帯型PC「SMACH Z」は、本当に発売されるのか?GPD WIN2とどう差別化するのか?バッテリーは?開発者に気になる点を訊いた

Steamのゲームが遊べる携帯型PC「SMACH Z」。発売前にした多くの注目を集めているが、一方でまだ不明瞭な点が多い。東京ゲームショウ2018にて、SMACH Z開発チームが来日し、同製品を出展していたので、さまざまな疑問をぶつけてみた。

現在開催中の東京ゲームショウ2018にて、SMACH Zが出展中だ。SMACH Zは、Steamタイトルを含めたPCゲームを遊ぶことを想定して作られている携帯型PC。以前は「Steam Boy」というコードネームで開発されており、クラウドファンディングキャンペーンの頓挫と成功、スペック変更など紆余曲折を経て、2018年12月に発売予定であることが告知された。

まずは、あらためてSMACH Zのスペックを確認しておこう。プロセッサは、AMD Radeon Vega 8AMDを組み込んだSoC Ryzen Embedded V1605Bを搭載。画面は6インチで、解像度は1080pまで対応するタッチスクリーンを搭載。端子はUSB-C、USB-A、Micro USB、ディスプレイポート、SDカード、オーディオミニジャックを完備。SDカードは2TBまで対応し、ネットワークはIEEE 802.11nおよびBluetooth 4.0を備えている。メモリやストレージは選択することができ、通常版は、RAM 4GB、ストレージ(ストレージ)は64GB、カメラなしの最小構成。メモリは最大16GBのデュアルチャンネルにすることができ、SSDは256GBを選択可。そのほかオプションとしては、5Mpxカメラが搭載でき、Windows 10をOSとしてインストール可能だ。価格は、通常版が現在8万910円以上、Pro版が10万7550円以上、Ultra版が13万50円以上となっている。

Steamのゲームが遊べるということもあり、期待を寄せる人が多いと思うが、一方でまだまだ不明瞭な点が多く、その状態で8万円強を出してもよいのかと迷っている方もいるだろう。残念ながら、会場ではプレイアブルではなく製品版に近い実機のものが置いてあったのみなので、実際の動作などはテストできなかったものの、筆者が気になっていた疑問をSMACH ZチームのOscar De La Torre氏にぶつけてみた。購入を検討している方の参考になれば幸いだ。

 

予約者の半数以上が日本から

まず気になるのが、なぜスペイン生まれのデバイスであるSMACH Zが日本で発売されることになったのだろうかという点。Oscar氏によると、実は現在公式サイトにて受け付けている予約の半分以上が日本からの注文だったのだという。現在すでに2000台弱の予約が入っており、そのうちの1000台近くが日本からになるというわけだ。公式サイトは日本語に対応しておらず、高価なデバイスであるにもかかわらず、多くの注文を受けていることに手応えを感じ日本展開を決めたという。そもそも、Kickstarterキャンペーンを開始していた頃から、日本のコミュニティから熱烈な支持および支援を受けていたとのこと。今回の結果は、あらためて日本からの期待の大きさを示しているだろう。まだ代理店などとは協議中であるようだが、小売店やAmazonを中心としたインターネットショップなどから購入できるようにしたいと語った。

PCゲームを遊ぶ携帯型PCということで、そのバッテリーについても気になる人もいるだろう。SMACH Zのバッテリー表記は公式サイトでも何度か変更されており、3200mAh li-ion batteryと記載されることもあれば、4 cells of 3200mAh eachとも記載されることもある。真相について尋ねてみると、4 cells of 3200mAhが正しいようだ。リチウムイオンを採用していないという。Oscar氏いわく、単純計算すると3200mAhのバッテリーは4本のった13000mAhに近い容量を誇るとのこと。長時間プレイできるように、通常のものよりも大きめかつパワフルなバッテリーを搭載していると語った。プロセッサであるRyzen Embedded V1605Bも、パワーがあるものの省電力仕様になっており、消費電力は15W程度であるとのこと。『GTA V』といった比較的高スペックのゲームでも、5時間程度動くことを想定しているようだ。

動作タイトルの例としては、『ダークソウル3』をミディアム/720p設定で30fpsにて動かせたり、『GTA V』『ウィッチャー3 ワイルドハント』も同様にノーマルセッティング/720pにて30fpsで動かすことが可能。『ロケットリーグ』はハイセッティング/1080pを30fps以上で動作させることができ、『オーバーウォッチ』はローセッティングにすれば60fpsで動かすことができることが、以前より明かされていた。そのほかとしては、『フォートナイト』(おそらくミドル設定)も快適に動かせるとのこと。一方で『DOOM』のようなタイトルは最高画質では中々厳しく、ミディアムもしくはローで遊ぶことになるという。通常のPCゲームと同様に、うまくデバイスにあった設定を選んで遊んでほしいとしている。冷却によるファンの音については、“Nintendo Switch”程度になるという。パワーを要求するゲームを遊んでいる時で最大30db前後であり、基本的には比較的静かなものになるようだ。

展示されているデバイスを実際に持ってみたが、それなりに重いという印象を持った。少なくともNintendo Switch(ジョイコン取り付け時の重量398グラム)よりは、ずっしりと感じられた。感覚としては、500グラム前後と推測する。この重さについては、おそらく変更されることはないとのこと。

 

GPD WIN2と競合しない

ゲームを動かせる携帯型PCをリリースする上では、7月より国内販売も開始されたデバイスGPD WIN2との比較は避けられない。今回、Oscar氏にGPD WIN2と比較した上でのSMACH Zならではの魅力について尋ねてみた。すると氏は、SMACH Zと GPD WIN2は似た機能を持つデバイスであることを認めながらも、それでいてふたつの大きな違いがあるという持論を述べた。ひとつめは、ゲームへの特化だ。SMACH Z はPC寄りのGPD WIN2よりも、スペックやデザインなどがゲームに特化していると語る。

そしてもうひとつが、アップグレード性なのだという。SMACH Zは長期的に使われていく製品になると考えており、アップグレード性を重視。つまり、自分でパーツを換装可能な仕様となっている。プロセッサからメモリ、ストレージ。バッテリーやマザーボードに至るまで、ほとんどのものが“自分で”交換できるという。つまり、スペックが型落ちになったり変えたいと感じた時には、自分で新しくできるという自作PCにも似たシステムが採用されているわけだ。換装は、かなり簡単にできるように設計されているとのこと。主にノートパソコン向けのパーツなどを組み込める、自作型の携帯PCとして使っていけるという野心的な展望があることが、他デバイスと異なる点になるのだろう。そういった点を踏まえ、SMACH ZはGPD WIN2と“競合しない”と語り、ユーザーにとっては両方がほしくなるハードに仕上がっていると自信を見せた。

GPD WIN2

発売延期を繰り返したSMACH Zのこれまでの歴史を見るに、本当に発売されるのかと疑う人もいるのではないか。2018年12月に本当に発売できるのか、そもそも製品自体を発売できるのかと尋ねたところ、「その予定である」と回答をもらった。ただし、その見込みは“楽観的に考えて(optimistic)”のものであるとのこと。製造においては、状況をコントロールできないケースになることもあるといい、そうならないとは言い切れないとも話している。ただし、12月という発売にはとても自信を持っているようだ。それを実現するために取り組んでいる最中であるという意味で、発売時期を12月に設定していると語った。

現在、すでに開発は終わっており、さまざまなテストを進めている段階であるという。このフェイズが終われば、大量生産体制に入るとのこと。発売が12月でありながら、動く実機を確認できなかったのはいささか不安であるが、SMACH Zが発売へと近づいているのは間違いなさそうだ。やや値段は張るが、アップグレード性という特徴があるならば、投資する余地も広がるかもしれない。SMACH Zは、ビジネスデーに引き続き一般デーも2-N02に出展中。ブースにおもむけば20%オフになるシリアルコードも手に入る。ただし、展示されている製品は、前述するようにプレイアブルのものではないので注意。サイズ感を確かめたかったり、開発者に質問があったりする方は、ブース立ち寄ってみてはいかがだろうか。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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