『シャドウ・オブ・ウォー』メディアセッション。『モルドール』にて蒔かれた「野心」の種は大輪の花を咲かすか

『シャドウ・オブ・ウォー(Middle-earth: Shadow of War)』の開発者メディアセッションとメディア向け試遊会が、東京ゲームショウ2017会期中におこなわれた。J・R・R・トールキンの「ホビットの物語」「指輪物語」で知られる中つ国(ミドル・アース)を舞台にした、ハイファンタジーオープンワールドRPGだ。前作『シャドウ・オブ・モルドール』は2014年にリリースされており、今作は約3年の時を経て発売される。

シャドウ・オブ・ウォー(Middle-earth: Shadow of War)』の開発者メディアセッションとメディア向け試遊会が、東京ゲームショウ2017会期中におこなわれた。J・R・R・トールキンの「ホビットの物語」「指輪物語」で知られる中つ国(ミドル・アース)を舞台にした、ハイファンタジーオープンワールドRPGだ。前作『シャドウ・オブ・モルドール』は2014年にリリースされており、今作は約3年の時を経て発売される。

ワーナー・ブラザースのアソシエイトプロデューサーであるDaniel McGuffey氏とEvan Nickel氏によるプレゼンテーションでは、発展した「ネメシスシステム」や新要素である「ネメシスフォロワーズ」の説明を軸に、本作の醍醐味の一つである攻城戦のプレイを通じてゲームの紹介がおこなわれた。

前作でも大きな反響を呼んだ「ネメシスシステム」とは、本質的に一人一人に別の物語を提供するための独自システムだと考えればよいだろう。前作『シャドウ・オブ・モルドール』では、オークの外見や個性、能力が自動されたほか、敵が主人公タリオンとの闘いを記憶してそこに因縁が生まれた。さらに独自のヒエラルキーを構築しているオーク達の社会が主人公の行動一つで変化していき、プレイヤーの介入でその社会を作為的に操ることが可能だった。今作ではそのボリュームが大幅に拡大されており、敵であるオークの部族は1種類から7種類に。さらに「名前」「見た目」「二つ名」「性格」「階級」「グレード(エピック・レジェンダリー……)」などが自動生成される。

攻城戦において、敵は圧倒的な戦力を持つが、プレイヤーは「ネメシスフォロワーズ」のシステムで敵を自分の支配下に置き、「支持者」として独自の軍団を作り上げることができる。つまり『シャドウ・オブ・ウォー』の名の通り、砦攻略は「軍団」対「軍団」の「戦争」だ。さらに戦闘中も負傷した味方を「助けない」という選択をすれば、その味方はタリオンに恨みを抱き、今度はその後の展開の中で敵として立ちはだかることもある。その逆に、助けた敵もそれをきちんと「記憶」しており、味方となることもあれば、因縁を持つ敵として幾度となく対峙することもあるだろう。現実社会でもゲームの中でも、「戦争」はその中に多くの人間ドラマを内包するものであるが、戦争をテーマにしてそこに多くの肉付けをすることによって、「ネメシスシステム」という「プレイヤーがそのプレイヤー独自の物語を体験する」ためのシステムは大きな発展を遂げているように見受けられた。逆に言えば、無意味にボリュームを増やしたということではなく、ボリュームを増やした部分が「ネメシスシステム」と強く紐付けされている。開発陣は、単に『シャドウ・オブ・モルドール』の物語の延長を描きたかったというだけではなく、「ネメシスシステム」という野心的かつスリリングなアイディアをいかに完成に近づけるかを軸に据えているのだろう。それは決して『シャドウ・オブ・モルドール』が一つのゲームとして完成されていなかったという意味ではなく、開発者の目線の先にあるものは「一人一人にまったく違う物語を体験してもらいながらも、永続的に遊んでいられるゲーム」としての「ネメシスシステム」であり、その意味で『シャドウ・オブ・モルドール』はプロトタイプだったと言える。本作がロールアウトされた完成品であるかどうかはまだ未確定ではあるが。

本作において評価の分かれ目となるのは、自動生成の本当の驚きをプレイヤーが実感するには「リプレイ性」あるいは「継続性」が必要であり、そしてそのための「飽きさせないプレイの幅」が重要であるという点だ。仮にそのプレイヤーが本編ストーリーだけを追い、一回プレイしてゲームをやめてしまえば、自動生成でいくら違う物語が生まれたとしても驚きはない。そこに無限の可能性が提示されていても、一つの可能性しか見なければ、それは可能性が「ない」のと同義だ。したがって「リプレイ性」あるいは「プレイの持続性」の高さが、本作を評価するポイントとして他のあらゆる部分を差し置いても重要だと言える。

『シャドウ・オブ・モルドール』の時点では多少欠けていたとも言えるその部分に関して、つまりプレイヤーを“一見してどこかにいってしまう「通りすがりの人」にしない”ためにどういった工夫をしているかセッション後の質疑応答で質問をぶつけて見たところ、クリア後の「持続性」に重点を置いているという答えが返ってきた。それは単純にクリア後のモードにどれだけボリュームがあるか、実装されるオンラインモードの内容がどうかという表層的な話ではなく、開発者がその重要性に「しっかりと気付いている」という意味であり、その理念の基に制作された『シャドウ・オブ・ウォー』がどこまでその理想に近づいているのかを検証するのが非常に楽しみになった。

秋口から年末年始にかけて大作ゲームは多く発売されるが、『シャドウ・オブ・ウォー』がその「質」において注目に値する、極めて野心的なタイトルの一つであることは間違いない。プレイするしないに関わらず、その完成度に関してアンテナを張っておいて損はないだろう。

Nobuhiko Nakanishi
Nobuhiko Nakanishi

大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。
喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。

記事本文: 50