中国・広東省広州市。上海市と北京市に次いで著しい経済発展を見せているこの都市で、2017年3月8日から11日までの4日間、アミューズメント機器展示会「Asia Amusement & Attractions Expo(以下:AAA)」がChina Import and Export Fair Complex (Canton Fair Complex)にて開催された。この展示会は毎年9月に同会場で行なわれている「GTI Asia China Expo」と並んでアジア圏を代表するショーとなっている。

なかでも、自動車部品や革靴の製造工場が多い番禺(パンユウ)区には54万平方メートルという敷地面積を誇る産業広場「星力动漫游戏产业园(Guangzhou star power of animation and game industry park)」があり、その中には日本国内の主要メーカーとパートナーシップを結んでいる大手ゲームメーカー「華立科技有限公司(WAHLAP TECH)」が本社と工場を構えるほか、数多くのゲームメーカーや新品・中古機を扱うディストリビューター(販社)などが密集しており、アミューズメント機器関連事業が大きな市内産業であることが窺える。

8万平方メートルという広大な展示場内を用意したAAAには500社以上が出展。総ブース数は3000にも及んだ最大級のアミューズメントショーには中国国内だけではなく、日本や韓国といったアジア諸国をはじめ、中東や欧米からの来場者も多かったことをAAAの運営が報じている。

 

子供向けに用意された多彩なライドやエア遊具といった「遊芸機」の数々

子供を意識したビジネスはどの国でも、そしていつの時代も絶えることのない需要があるが、世界一の人口を誇る中国にとっては大きなビジネスチャンスの場となっており、AAAにおいても低年齢層を意識した筐体や遊具の出展がおよそ半分にも及んでいた。中国においては1979年から続いた「ひとりっこ政策」が2015年に廃止され、翌年には出生率が上昇したことから、市場の受け皿がさらに大きくなることが期待されている。

日本の場合、こういったキッズ向けのアミューズメント機は遊園地や動物園の一角にあるほか、大型ショッピングセンターの中に「室内ゆうえんち」という形で施設の運営を行うイオンファンタジーが多くのシェアを占めている。

 

ガンシューティングや音ゲーなどの「模擬類・技巧類」のアーケードゲーム

中国のゲームセンターにおいても20代の男性は多く、主流となっているのは日本と同じようにレースゲームや音楽ゲームの出展も多く見受けられた。日本の場合、セガやナムコを筆頭に1980年代後半から2000年代に入るまで、プレイヤーの操作に合わせて筐体が動く「体感式の可動筐体」を用いたゲームを多く生み出していたが「安全性」や「製作にかけられるコスト」といった諸問題から、現在ではほとんど見られなくなっている。しかしこの中国では、こうした可動筐体がいまだに新作として開発・販売されていることから、業界の成長規模がこれからもまだまだ伸長していく兆しにも見えた。

ゲームに限った話ではないが「中国といえば模造品」というイメージを思い浮かべる人も少なくはないだろう。ニセモノに価値を見出す「山寨」が中国には文化や産業として土着していることを背景に、電化製品からブランド類までもがその対象となっている。これが如実に表れていたのが音楽ゲームで、筐体のデザインからゲーム画面、その内容までもが日本で現在稼働中の音楽ゲームと酷似しているものもいくつか見受けられた。

また、アーケード用エミュレーターを使用したいわゆる「エミュ基板」を出展しているメーカーも一部あり、著作権や商標権を侵害しているという意識がまだ完全には薄まっていないようだった。

 

VR

日本のアミューズメントマシンショー「JAEPO」において今年はコーエーテクモウェーブが『VR SENSE』を出展したほか、バンダイナムコエンターテインメントは「VR ZONE Shinjuku」を新宿・歌舞伎町に期間限定でオープンするなど、VR技術を用いたアミューズメント機器を各社は意欲的に展開している。このAAAにおいても中国の各メーカーがVR技術を多用したマシンを出展。8ホールのうち1ホールを使い切る規模で、国内のみならず世界規模でVR市場の覇権を握ろうと積極的な姿勢を見せていた。

特に多かったのはHMDに映し出される映像に合わせて筐体が動くライド式の体感型VRだ。家族連れやカップルなど、遊園地のアトラクションのように複数人が同時に楽しめることを強く意識しているのが見て取れた。一方、プレイヤーの動きと目線に連動するゲームに関しては半径5~10メートルで仕切られたサークル内で銃型のデバイスを用いたFPSにそのほとんどが特化していた。自らの目線でゲーム内の戦況を判断できるという親和性の高さに加えてFPSが世界的にもプレイヤーが多いジャンルであることから、メーカーとしても需要が高い=失敗へのリスクが少ないという利点を汲んだのだろう。

日本のアミューズメントマシンショーは「JAMMAショー」と「AOUショー」の年二回で開催されていたが、2013年からはJAEPOという形で併催。今年度はドワンゴが主催する「闘会議」との合同開催となったが、年を追うごとにメーカーの出展規模は縮小の一途をたどっている。プライズ用の景品ブースが多く、メーカー直営店舗や大手のアミューズメント施設でしか導入できないような価格の新作ゲームばかりであることに加えて、ディストリビューターやオペレーターといった業界関係者の同窓会の場と化してしまった印象も否めない。

2014年までは一時、停滞気味だった中国のアミューズメントマシン市場は2015年から上向きに回復し、ふたたび拡大しているという。今回このAAAのショー会場で目の当たりにしたのは、かつての日本のアミューズメントマシンショーを彷彿とさせるような華々しさと勢いに満ち溢れていた。

現在の業界市場は国外ゲームメーカーのマシンを輸入するよりも、日本やアメリカに向けて輸出するほうが圧倒的に多いという。ハード(筐体)は中国の勢いにすっかりと追い越されてしまいそうだが、肝心のソフトはまだまだアラが目立っており、いかに日本のゲーム(ソフト)が丁寧でキメ細やかに製作・調整されているかを痛感した。安全性を十分に考慮した中国製の筐体に、日本で開発したソフトを組み込んで販売するという企業間の取り組みが行われれば、いま一度の活性化にもふたたび期待できるのではないだろうか。

(Special Thanks Mr.KUMA/Mr.NORI)


1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。