遺品は、亡き人と今を生きる人をつなぐ“一本の線”である。どんな小さなものでも、その人たちの記憶が閉じ込められており、かけがえのないものだ。Corey Austen氏と弟をつなぐ思い出の品は「ウルフリンクamiibo」だった。
兄のCorey氏も弟のMatt氏も『ゼルダの伝説』シリーズの大ファンで、小さな頃からゼルダ話に花を咲かせていたという。Corey氏のお気に入りは初代『ゼルダの冒険』と『神々のトライフォース』、Matt氏は『トワイライトプリンセス』を特に好んでいた。2015年にはWii U向けに同作のHDリマスター作品もリリースされ、リマスター版の発売にあわせて主人公のリンクが狼に変身した姿の「ウルフリンク」amiiboが発売された。amiiboは任天堂が発売しているNFC機能を内蔵したフィギュア。amiiboをWii UゲームパッドやNew ニンテンドー3DSの下画面にタッチすれば、新たなアイテムをアンロックしたり、ゲーム内の記録をフィギュアに閉じ込めたりすることができる。
『トワイライトプリンセス HD』ではプレイ中に、Wii Uにウルフリンクamiiboをかざせば、新モード「獣の試練」が追加されるという仕様があった。『トワイライトプリンセス』のダークな雰囲気と狼に変身するシステムに心惹かれたMatt氏は、獰猛でありながら勇ましいこのウルフリンクamiiboを購入し、嬉しそうに鑑賞していたようだ。
Corey氏とMatt氏は、シリーズ初のオープンワールド作品となる『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』にも大きな期待を寄せていた。インターネットをチェックしてはどのような作品になるか語り合い、時に数多くの噂について議論をかわしながら情報を追い続けていていた。情報公開が予告されていた6月のNintendo Treehouse: Live at E3についても、「どのような内容になるのか楽しみだね」と会話をかわし新たな映像や発表を心待ちにしていたようだ。
しかし、弟のMatt氏がE3の発表を見ることはなかった。Matt氏はてんかんの持病を持っており、てんかんの激しい発作に突然襲われ、5月31日に23歳にしてこの世を去る。発見したのはCorey氏だった。傷の癒えきれないまま、Corey氏は重い気持ちで6月17日のNintendo Treehouse: Live at E3の中継を見ていたのだという。しかしある出来事がCorey氏を揺るがせた。それは、正式タイトルの発表でもなく、美しい映像の公開でもなく「ウルフリンクamiiboが『ブレスオブザワイルド』に対応する」というニュースだ。amiiboをかざせばゲーム内にウルフリンクがコンパニオンとして登場する。この事実は、兄弟で大好きだった「ゼルダ」を、待ち焦がれていたオープンワールドの新作を、また兄弟で遊ぶことができることを意味していた。
何気ないこの新要素はCorey氏を救い、幸福にした。ウルフリンクamiiboはMatt氏が愛し、そしてMatt氏の記憶を詰め込んだ思い出の品だ。そのMatt氏のウルフリンクがまたゲーム内に登場して一緒に冒険ができる、そんな風景を考えるだけで、Corey氏は嬉しくなったと語る。Matt氏は『ゼルダの伝説』とともに人生を歩んできた。その記録として、遺体を埋める際には『時のオカリナ』に登場する精霊石に模したグッズが添えられたのだという。大好きな家族であり一番の友人だった弟はもうこの世にいない。しかし、amiiboにはその弟の想いが確かに眠っている。Corey氏はこの日、弟が死んで以来、初めて幸福を感じ取ることができたことを明かしている。
Corey氏は『ゼルダの伝説』スタッフへの感謝の気持ちを込めて手紙を書くと、ニンテンドー・オブ・アメリカはすぐさま返信し、Corey氏に手紙を添えてTシャツなどたくさんの『ブレスオブザワイルド』のグッズを送り届けた。
“あなたの身内の不幸を、哀悼いたします。弟さんはきっと未来永劫の“伝説”として生き続けることでしょう。お話を教えていただき、ありがとうございます。あなたの友達、任天堂より。”
この返信にCorey氏は感激し、redditに「任天堂はこんなにもファンについて考えてくれている」と喜びの声を投稿している。最近ではファンゲームの公開中止の要請などが目立っており、一部のコミュニティからはファンを軽視しているのではないかと疑問を抱かれていることもあるが、こうしたはからいを見ればファンを軽視しているなどと断言することはできないだろう。
先日、Bethesdaが亡くなった弟を『Fallout 4』のゲーム内に登場させるという出来事があったが、amiiboという形あるグッズが兄弟の想いをつなぐというのは「Toys To Life」が流行した今の時代ならでは出来事なのかもしれない。