いま『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』周辺でなにが起きているのか

2015年9月2日、『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』が国内外でローンチされた。発売当初、国内外のメディアから多数の賞賛を浴び、大手賞レースのGame of the Year作品になるだろうと見込まれていた本作だが、現在その評判は散々となりつつある。

※本記事は『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』の物語に関するネタバレを含みます。ご注意ください。

 

2015年9月2日、『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』が国内外でローンチされた。発売当初、国内外のメディアから多数の賞賛を浴び、大手賞レースのGame of the Year作品になるだろうと見込まれていた本作だが、現在その評判は散々となりつつある。SteamAmazonのレビューを見れば明らかで、もはや炎上状態と言って差し支えない状況だ。

なぜ発売直後は絶賛されていた『MGSV:TPP』が、ここまで酷い評価へと移り変わっていったのだろうか。ファンを燃え上がらせている最大の理由の1つは、国内で流れている「『MGSV:TPP』は未完成品だった」という噂である。様々な情報が錯綜して浮かび上がったこの噂だが、いったいどのように形成されていったのか、あらためてこの記事では”正確に”振り返りたい。

全5章という噂

現在インターネット上を流れている噂によれば、チャプター2にてエンディングを迎える本作は、実はチャプター5まで制作される予定だったのだという。このチャプター5まで存在していたという噂は、ディスクに収録されていたデータが解析されたとか、あるいは内部関係者がコナミの経営方針に怒りリークしたのではないかとか伝えられている。それらしいチャプターとエピソードのリストも出回っており、製品版のものと照らし合わせると一部が同じ名であることもあり、ファンの間で噂は真実味を帯びていった。

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Redditに投稿された全5章のリスト

『MGSV:TPP』が実は全5章で作られていたのではないかという噂は、海外のWebサイトSegmentNEXTが出処とされているが、実際にはさかのぼること1か月前ほどに出てきたとある投稿が元となっている。海外フォーラムRedditの『MGS』板(サブレディット)にて、1人のユーザーが投稿した情報を一部の中小Webサイトが報じ、それを又聞きしたまとめサイトが拡散したのが国内で噂が広まった実情だ。

この人物は、とある情報提供者が海外メディアEurogamerのポルトガル版のフォーラムに全チャプターのリーク情報を掲載したと語っている。情報提供者は、全チャプターを確認できる詳細不明の”とあるイベント”に参加して『MGSV:TPP』をプレイしたと伝え、この情報を掲載したしばらくあとにスレッドを削除したのだという。つまりこの情報はデータを解析したのでもなければ、内部関係者による暴露リークでもなく、”なんらかのイベントに参加しと名乗る誰か”から伝えられた情報だということになる。情報元とするにはあまりに怪しい。

さらに製品版と同じであるというエピソード名の件についても疑問が残る。さかのぼること2か月から3か月前には、すでに中国のWebサイトA9VG.comからの第1章のエピソード情報、Xbox Achievementsからの実績情報も流れている。全5章のリストにて、一部エピソードの名前が適合しているというのは、実はこれらの情報で既出のものだけなのである。

つまりどういうことかというと、『MGSV:TPP』が当初は全5章で制作されていたという噂は、既出の情報のみで構成された怪しげなリークを元とする、眉唾ものの話だということだ。過去に出た情報と偽りの情報を1つにまとめ、それっぽく全5章の構成リストを作ってみたところ、その情報が国内で真実のように流れ信じられていった、というのがことの真相であると見てよいだろう。

全3章という噂

一方で、海外メディアGaming Boltを通じて報じられた『MGSV:TPP』が実は全3章だったという噂は、やや趣が異なる。このニュースの出処は、『Garry’s Mod』などで知られる英国のスタジオFacepunch Studiosが運営しているフォーラムだ。『Garry’s Mod』はSource Engine製ゲームの3Dモデルやオブジェクトを使って遊ぶ物理実験サンドボックスゲームだが、一部のユーザーたちは著作権を無視してほかのゲームタイトルの3Dモデルなどを抽出して公開している。このフォーラムのとあるユーザーが、『MGSV:TPP』を解析したところ「Chapter 3: Peace(平和)」というイメージと、原作では使用されていない『MGS3』の「ザ・ボス」らしきテクスチャが発見されたと報告したのがことの発端だ。

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フォーラムに投稿された「第3章 PEACE」のイメージ。そのほか、『MGS3』の「ザ ボス」と思わしきテクスチャも発掘されていた

この投稿を見たGamingBoltは、記事のタイトルに「『MGSV:TPP』は未完成ゲーム、チャプター3もあった」と名付け煽ったわけだが、このコンテンツが本当に今後登場しないのかは誰もわかっていない状況だ。『MGSV:TPP』規模の作品であれば、拡張版やDLCはかなり高い確率でリリースされるだろう。あるいは10月からサービスが開始される『METAL GEAR ONLINE』に繋げるための布石ような存在かもしれない。プレイヤーがまだ第3章へ到達する方法を見つけていない可能性もある。投稿したユーザーによる偽のリーク情報という線も否めない。

もちろん、使用していないコンテンツ(アセット)が製品版のデータ内に残っているというのはよくある話であり、これがカットされた章の名残りである可能性は十分にある。GamingBoltがこのニュースの際に指摘した「アフリカの少年兵士など、過去のトレイラーで登場したシーンが本編には無い」などはその最たるもので、発売前のトレイラーで登場したシーンが本編からカットされるというのは定期的に聞く話である。

いくらでも可能性が考えられる現在、この「Chapter 3: Peace」と「The Boss」のテクスチャがなんなのかを結論づけるのは、まだ早すぎるだろう。

隠しエンディング

第3章の存在を報じたGamingBoltが伝えたこの情報は、海外のTwitterユーザーと『METAL GEAR』シリーズのコミュニティマネージャーRobert Allen Peeler氏のやりとりが元になったものだ。Twitterユーザーはゲーム内のとあるカットシーンの映像をPeeler氏に投げつけ、これがゲーム内で見ることができるシーンなのか、あるいはカットされたコンテンツなのかと詰め寄った。Peeler氏は「ネタバレをしないように」と再三注意したものの、ユーザーは何度も質問を繰り返し、最終的にPeeler氏は「『MGSV』はとても巨大なゲームだが、プレイヤーはまだすべてをやり遂げていない。誰かがこのシーンを自然に見たのなら、これは早いよ、感心する」と伝えた。

このやり取りを見て、GamingBoltはこのカットシーンが隠されたエンディングだと伝えたわけだが、現時点でこのカットシーンがどのような条件で見ることができるのかは明確に判明しておらず、そして実際にエンディングに該当するのかは明らかにされていない。カットシーンは、世界中に配備されていた核をすべて排除したことをDiamond Dogsの隊員に向かってカズヒラ・ミラーらが宣言するものである。

カットされた幻のエピソード51「蝿の王国」

ゲーム本編は全50エピソードにて構成されるが、実は幻のエピソードが存在している。カットされたのはエピソード51「蝿の王国」で、コレクターズエディションの映像特典Blu-Ray内にカットシーンの一部が収録されている、本物の未完エピソードである。本編からメタルギア「サヘラントロプス」を強奪し去っていったイーライのその後を描く内容で、Diamond Dogsとイーライ駆るサヘラントロプスの総力戦が描かれる予定だったという。

混乱

  • 全5章という噂は、海外のフォーラム住民による書き込みが元となっている。内容も怪しく信ぴょう性はかなり低い
  • 全3章という噂は、ユーザーが発掘したというアセットが元となっている。これが実際にカットされたものなのか、まだプレイヤーが誰も到達していないのか、DLCなどで後に使用できるのかは現時点で不明ある
  • 隠しエンディングと呼ばれるカットシーンは、実際にエンディングであるのかは不明である
  • 幻のエピソード51は実在する

『MGSV:TPP』の一連の騒動はこれ以外にも、一部のファンが求めていた『MGSV:TPP』の物語と小島監督が作り上げた物語が異なる点、先日より伝えられているコナミの制作環境を取り巻く変化、そして今回の又聞きで広まった様々な噂が混在し、まるで化学反応のように燃え広がっていったように感じる。インターネット上では驚くほど「実は『MGSV:TPP』は全5章だったらしい」と語る人が存在し、時には様々な噂が混ざり合って新たな噂を生成していることもあった。

『MGSV:TPP』が小島秀夫監督が想定していた通りの完成品であるかを知ることは、恐らくできないだろう。物語が完結しているかどうかはプレイヤーそれぞれが感じることになる。ただ、これらの噂が真実であるのか、嘘偽りであるのかを決断するには、もうしばらくは”静かに”待つ必要があるだろう。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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