小島監督の新作『Death Stranding』めぐり飛び交う憶測、ティザー映像に秘められたメッセージとは

「E3 2016」のプレスカンファレンスにて発表されたコジマプロダクションのデビュー作『Death Stranding』。主演俳優とゲームタイトル以外の全てが謎に包まれている本作のトレイラーをめぐって、海外フォーラムやSNSを中心に様々な憶測が飛び交っている。

昨日、「E3 2016」のプレスカンファレンスにて発表されたコジマプロダクションのデビュー作『Death Stranding』。ティザー映像にいきなり登場した全裸のノーマン・リーダスに困惑したファンも多いだろう。主演俳優とゲームタイトル以外の全てが謎に包まれている本作のトレイラーをめぐって、海外フォーラムやSNSを中心に様々な憶測が飛び交っている。小島監督といえば、新作ゲームのティザー映像はもちろん、ゲームショーで着用するTシャツにまで、発売日のヒントや作品に込めたメッセージを散りばめることが、もはや恒例となりつつある。以前、『Silent Hills』のプレイアブルトレイラーとして配信されたゲーム『P.T.』は、国境を越えた推理合戦を巻き起こした。新生コジマプロダクションとして独立した今、小島監督が何を伝えようとしているのか。謎だらけのティザー映像から、その手がかりを紐解いていく。

 

ゲーム業界に残した賢者の遺産

『Death Stranding』というタイトルは、死んだクジラやイルカが海浜に打ち上げられる現象を意味している。こうした海洋哺乳類の集団座礁を、広義ではマスストランディングと呼ぶ。生きている状態であればライブストランディング。死んでいれば前述のとおりだ。ティザー映像の中でも、ビーチに乗り上げたおびただしい数の海洋生物が確認できる。タイトルについて小島監督は、「ある世界から何かが座礁する」ことを意味するものだと、会場内のインタビューで語っている。

サンディエゴで行われた3Dデータのスキャン Image Credit: Kojima Production
サンディエゴで行われた3Dデータのスキャン
Image Credit: Kojima Production

このほかに現時点で判明していることは、主役は『Silent Hills』と同じくノーマン・リーダスだが、ギレルモ・デル・トロ監督は関与していないということ。ゲームエンジンは、複数の候補から演出や用途に合わせた実験をしている最中で、何を採用するかは今のところ決定していないこと。そして、まだゲームジャンルは明かせないが、これまでの小島作品と同様にアクション要素が強い作品になるということだ。アクションゲームが好きなユーザーなら抵抗なく入っていける一方で、数時間プレイすれば今までにはなかった全く異なるゲーム体験であることに気が付くだろうと説明している。

それ以外は全てが謎。舞台となるのは本当に地球なのか。全裸のノーマン・リーダスは何者なのか。ほかに誰が登場するのか。小島監督は何も語らず、ティザー映像に多くのヒントを散りばめたとのコメントに留まった。早速、フォーラムサイトRedditNeoGAFでは、想像力を掻き立てるような憶測が飛び交っている。注目したいのは、左手に掛けられた近未来的なデザインの手枷と、産声を上げる赤ん坊に接続された人工的なへその緒だ。サイエンス・フィクションの要素が少なからず含まれていることを示唆している。気が付いただろうか。実は赤ん坊以外にも、ノーマン・リーダスを含めた全ての生物がアンビリカルケーブルに繋がれているのだ。

シュワルツシルト半径とディラック方程式 Image Credit: NeoGAF
シュワルツシルト半径とディラック方程式
Image Credit: NeoGAF

特筆すべきは、ノーマンが首にぶら下げているドッグタグを拡大してみると、シュワルツシルト半径の数式とディラック方程式が確認できる点だ。シュワルツシルト半径とは、一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式から導き出された数値で、情報伝達の境界といわれる事象の地平面(通称シュワルツシルト面、重力により周囲の時空が歪められた球面のこと)の半径を指す。重力半径とも呼ばれる。この内側では宇宙速度(ここでは重力を振り切るために必要な地表における初速度のこと)が光速を超えてしまうため、光すらも外に出られない。シュワルツシルト半径を超えて収縮した質量がブラックホールである。一方、ディラック方程式は、量子力学に特殊相対性理論を適用した相対論的量子力学の基礎となる数式。電子や陽子をはじめ、スピン1/2の素粒子の振る舞いを説明するための波動方程式である。

これらの理論がどのように関係しているかは定かではないが、映画「Interstellar」のようなSFミステリー作品である線が濃厚ではないだろうか。フォーラムユーザーの中には、全裸のノーマン・リーダスがブラックホールを旅してきたのではないかという発想もある。また、業界メディアKotaku Australiaによると、赤ちゃんはノーマンのクローンであるとの見解がTwitter上に散見されるようだ。さらに、彼の身体中に残された手形と、切開したような腹部の傷痕にも謎が残る。世界観の設定はさておき、赤ん坊が消えた後に残された重油や死屍累々の海岸風景には、環境問題に訴えかけるメッセージが込められているのかもしれない。

同時に、ノーマン・リーダスを小島監督本人、赤ちゃんをメタルギアシリーズの隠喩として、コナミとの決別で生まれた喪失感を表現しているとの見方もできる。メタルギアの遺伝子という子供を失いながらも、血や養分を送る臍帯(さいたい)だけは繋がったままだとしたら。全身の手形が組織に翻弄された葛藤の証だとしたら。腹部の縫合痕が愛する子供を取り上げられた悲しみの象徴だとしたら。もちろん、憶測や妄想の類に過ぎないが、無数の死骸に囲まれて全裸でたたずむ彼の背中からは、大きなものを犠牲にしてなお前に進もうとする人間の哀愁が漂っているように思えてならない。いずれにせよ、真実を確かめられるのはまだまだ先の話になりそうだ。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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