DLC戦略、プレイヤーに許容されるラインとは


インターネットの普及とともに、拡張パックから続く新たなビジネスモデルとして定着した「ダウンロードコンテンツ」。トリプルA級タイトルならばDLC展開がない方が珍しくなった昨今だが、今月に入り、あらためて各所でDLCに関する様々なニュースが報じられている。

 


DLCの無料展開でプレイヤーの好感を得る

 

『The Witcher 3』
『The Witcher 3』

昨年11月、ポーランドのデベロッパーCD Projekt REDは、新作アクションRPG『The Witcher 3: Wild Hunt』にて、16種類のダウンロードコンテンツを無料配信すると明らかにした。プレイヤーは本作のDLCを入手するために、お金を払う必要も、予約購入する必要も、シーズンパスを取得する必要もない。

同社のCEOであるMarcin Iwinski氏は、DLCを無料配信する理由を、「プレイヤーは我々のゲームにフルプライスを支払っているからだ。我々は彼らの支払いに報いる義務がある」と説明している。10時間ものストーリーラインがあるような巨大なコンテンツは必要ないが、コストがそれほどかからない小さなDLCを提供するだけでも、プレイヤーたちはゲームをより良い作品だと感じ、冒険を楽しむことができるとしている。

またIwinski氏は、「DLCを無料提供すれば、海賊行為を思いとどまるプレイヤーが出てくるかもしれない」とコメントし、「ゲームを買い戻したり、売らずに棚に置いておくプレイヤーがいれば嬉しいが、ともかくプレイヤーたちが無料DLCで楽しむことを望んでいる」と続けた。

CD Projekt REDは、デジタルゲームプラットフォームGOGの運営元でもあり、PCゲームをDRMなどの規制をかけずに販売し続けている。ゲーム開発者向けカンファレンスGDCでは、海賊行為対策の無意味さを説くなど、昔からプレイヤー視点寄りでゲーム開発・販売を目指している企業だ。今回の無料DLCに関する海外メディアIGNの記事には、3000件ものコメントが投稿されており、プレイヤーから大きな反響が寄せられていることがわかる。DLCで実際に収益を挙げているわけではないが、それ以上にプレイヤーからの大きな信頼を獲得している。

 


DLCで莫大な収益を得る

 

EA2015会計年度第3四半期、デジタル関連収益の図。 緑色が追加コンテンツの割合にあたる。 出展:EA四半期報告
EA2015会計年度第3四半期、デジタル関連収益の図。緑色が追加コンテンツの割合にあたる。出展:EA四半期報告

しかし、誰もがCD Projekt REDと同じプレイヤー目線のビジョンを持っているわけではない。さらに、無料DLCがゲーム業界全体にとって良いことであるとも断言できない。パブリッシャーやデベロッパーが有料DLCにより得る収益は、無視できない規模にまでふくれあがっているからだ。

Electronic Artsは、DLC販売を重視するパブリッシャーの1つだ。『Battlefield』や『Titanfall』ではシーズンパスをローンチ前に販売し、発売後は有料の拡張パックを定期的に展開している。また、EA傘下のBioWareは、『Mass Effect 3』にて有料のマルチプレイヤー要素とマイクロトランザクションを導入した。

2015会計年度の第3四半期における決算報告によると、EAの過去12か月間のデジタル関連における総収益はおよそ22億ドルである。そのうちの9億2100万ドルが、DLCに当たる「追加コンテンツ」によるものだ。そのほかは、モバイルでの収益4億9700万ドル、フルゲームダウンロードでの収益4億2000万ドル、サブスクリプションや広告などの収益3億4000万ドルと続く。パッケージ版を購入したプレイヤーも追加コンテンツを利用する点には留意すべきだが、EAのデジタル関連収益において、追加コンテンツの割合は42パーセントにもおよぶ。

See also: 『Rise of the Tomb Raider』の「Xbox独占」を誤解しないためにたとえ大手パブリッシャーであっても、大規模なトリプルA級タイトルを開発し運営するには、多額の資金が必要だ。プロジェクトを始動し、さらに収益を出すとなれば、単純にパッケージを販売する以外の手段を取る必要があるだろう。『The Witcher 3』のCD Projekt REDとは違いがあるものの、彼らもある意味でDLCにて成功している1つの企業と言える。

 


許容されるラインは「DLCの必要性あるか」

 

「アリーシャDLC」期間限定無料提供のお知らせ
「アリーシャDLC」期間限定無料提供のお知らせ

コンテンツを開発し、それを販売していると考えれば、DLCで稼ぐことはけっして”悪”ではない。プレイヤーであっても、DLCで稼いだ金がゲームの運営費や次回作に回ると考えるのならば、悪い気分ではないはずだ。だが、その取り扱いや伝え方を間違えると、パブリッシャーはプレイヤー側から大きな批判を浴びることになる。特に「Day One DLC」と呼ばれる発売初日にリリースされるDLCや、発売直後に配信されるコンテンツは、プレイヤーが理解を示し難い存在の1つだ。

国内では、バンダイナムコゲームスの『テイルズ オブ ゼスティリア』に対する批判は記憶に新しい。バンダイナムコの過去の作品を見れば、有料コスチュームの数々はまだ予測できた。だが最大の問題となったのは、発売後1週間を待たずに1300円で販売することが発表されたDLC「アリーシャ アフターエピソード」だ。これはゲーム発売前からメインキャラクターの立ち位置で紹介されてきたアリーシャの後日談を描くストーリーコンテンツである。発売から一週間という発表タイミング、事前情報とゲーム本編中でのアリーシャの扱いの違い等から批判を呼んだ。バンダイナムコは、プレイヤーからの大批判を受けてか、同DLCを期間限定で無料配信することを急遽発表している。

2012年の話ではあるが、海外ではElectronic Artsが『Mass Effect 3』のDLC「From Ashes」を正式発表したときも、同様の批判を浴びている。新キャラクターを収録したストーリーDLCである上に、ゲームの発売日に同時リリースされることが明らかとなり、プレイヤーから不評を買っ た。『Mass Effect 3』は、同作のエンディング内容に関しても多くのファンから疑問が投げかけられ、人気シリーズ3部作を締めくくる存在としては苦味の残る作品となった。

これらのDLCに対しプレイヤーたちから投げかけられたのは、「利益を挙げるためにゲーム本編から切り離して販売しているのではないか」という疑惑だ。もちろん、パッケージ版のディスクを生産するためには、発売日直前よりも前にゲームを完成させる必要があり、その間にダウンロード販売できるコンテンツを作り上げた可能性はある。あるいは採算をとるために、どうしてもDLCとして販売せざるをえなかったのかもしれない。とはいえ、そのコンテンツが本当にDLCとして販売する必要があるのかを納得させないと、プレイヤーたちの疑惑は怒りへと燃えあがってしまうのである。

 


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。