ValveはゲームプラットフォームSteamのレビューシステムにいくつかの変更を加えたことを告知した。Steamストアには2013年の11月から各タイトルページにレビュー欄が設置され、スクリーンショットとゲーム情報ととともにユーザーの感想を手軽に見られるようになった。しかし導入された直後から、ゲームさえ所持していれば短時間のプレイで絶賛や酷評ができるなど、工作的な投稿をすることも可能であることが指摘されていた。Valve自身もレビューシステムにまだまだ課題があることは認めており、投稿者のプレイ時間の表示や、総合評価と最近の評価を切り分けるなど、さまざまな改善を試みてきた。そして今回の更新にてさらなる変更が加えられた。
Steamタイトルのストアページを下にスクロールしてみれば、新たなインターフェースが見える。これが今回の更新のメインである「フィルタリングシステム」だ。このインターフェースにはフィルタリングに関する機能が集積されている。ポジティブ/ネガティブレビューのみを閲覧したり、好きな言語のみを表示させたり、これまでよりも直感的にSteamレビューの見たい情報を閲覧できるようになった。そして目玉はフィルタリング項目の「Steamで購入したか/キーによって有効化したか」の部分だろう。
「キー」というのは、Steam以外デジタルストアが販売している、Steamライブラリにゲームを登録できる製品コードだ。近年になりSteamはあらゆるPCゲームを集積するライブラリボックスとしての需要も高まりつつあり、PCゲームをプレイする際にはSteamを経由したいと願うユーザーも多くなった。そういった「Steamに紐付けられたゲーム」の価値が向上していくにともない、Green Man GamingやHumble Storeなど多くのストアがSteamキーの販売をおこなっている。
また、容量の多いPCゲームをクライアントWebから配信するよりも、ユーザーにキーを渡しSteamクライアントからゲームをDLしてもらう方が手っ取り早さもありコストも安価で、手軽な引換券としても認知されている。
そういった意味でキーは、今やPCゲームのマーケットにおいて重要な価値を持つ。しかし今回の更新によって、キーを経由したゲームを入手したユーザーはレビューを書くこと自体は可能でありながら、そのレビューはスコアに反映されない仕様となった。ゲームレビューにおいて、Steamに直接お金を落とすユーザー以外を締めだしたと思われても仕方がない。Valveは苦渋の選択だったとしながら、決断の理由を述べている。
“レビューを導入したのは、ユーザーのゲーム体験をさまざまな人に共有してもらうことが目的だった。ユーザーが遊んだ作品が、人に推薦できるものなのかを示すために、ポジティブの比率なども見えるような可視的スコアの表示を始めた。しかしこの機能に注目しすぎたデベロッパーは業者を雇い偽装工作をするようになった。こういった工作にはSteamキーが用いられているんだ。今までは工作をするのがあまりに容易すぎた。”
Valveによれば、少なくとも160を超えるタイトルが、Steamから直接購入したユーザーレビューよりも、キー経由でゲームしたユーザーのレビューから多大な「ポジティブ」を得ているという。Valveはこういったタイトルには、Steamで配信される前から熱心なファンがついており、デベロッパーが彼らにキーを渡したという可能性なども考慮しながらも、「ほとんどのケースがデベロッパーのアカウントに紐付けられており、工作の形跡がある」と述べている。Valveはこうしたニセのレビューに今すぐペナルティを与えることはないものの、違反が続くようであれば工作元のデベロッパーとの契約を終了するとはっきり宣言している。
実際にこういった工作をおこなうデベロッパーは国内外で確認されている。今年2月にクラウドソーシングサービスでSteamゲームのレビューを依頼した業者がいたのは記憶に新しく、海外においてもインディータイトルを含めキーと報酬を送るかわりにSteamでレビューをしてくれと仕事を持ちかける怪しい人びとが後を絶たない。また逆に、最近ではユーザー側からデベロッパーに「キーをくれたらレビューを書いてやる」と直談判するケースも多く見られている。なんにせよ、Valveの目指すユーザーレビューからかけ離れた企みを持つ人々は多く、その計画の根底にはたいていキーが存在しているのである。
しかし、実際のところ、こういったレビューの工作を見分けるのは困難だ。試行錯誤を重ねながら最終的にValveは「キー経由でゲームを入手したユーザーは、レビューそのものはできるが、レビュースコアが反映されない」という仕様で決着をつけた。今回の仕様変更により、全体の14%の作品が影響を受けた。多くのタイトルはポジティブが1~2%下落するという若干の変更をうけて、「好評」から「賛否両論」にスコアのステータスが転換されているという。また、ごく少数のレビュアーによってスコアが形成されていた200近くのタイトルは、Steamから直接購入されたユーザーのレビューが集まるまでスコアが非表示になるとのこと。
そしてValveは、今後に向けて次の三つの課題の解決にあたる旨を表明している。ひとつめは、ユーザーレビュー欄の最上部に出てくる「最も参考になった」が実際には参考にならないことがあるという点。ふたつめは、一部のユーザーが特定のレビュアーについて「参考になる」を投票するがゆえにゲームに対する評価が歪んでしまうという問題。そしてレビュー内容がただ面白いという理由で「参考になった」という投票が集まりやすいといった点だ。こうした課題に取り組みながら、ユーザーレビューが“真実の声”を届けられるように全力を尽くすとValveは決意を新たにしている。
この仕様変更の対象はあくまで工作を目論むデベロッパーであることはおわかりいただけたと思うが、一方で今回のレビューシステムの更新で苦しんでいる人々もいる。その中心はクラウドファンディングを成功させたデベロッパーだ。KickstarterやIndiegogoといったクラウドファンディングのキャンペーンを成功させたデベロッパーは、ゲームタイトルが完成しリリースする際に、前もって購入してもらったユーザーにキーを配布することになる。キー経由のユーザーがスコアの対象にならなくなるということは、Steamリリース以前からゲームを支持する熱狂的なファンの影響力がスコアから失われるということを意味する。
実際にいくつものケースが報告されており、『Maia』を手がけるSimon Roth氏は「クラウドファンディングのユーザーの支持があったからこそスコアが保たれていた。これじゃあ失職してしまう」と自虐する。Kickstarterのサポートもあり大ヒットを記録した『Divinity : Original Sin』でライターを担当したKieron Kelly氏は「Kickstarterという最も情熱的なファンの声を消してしまった新たなレビューの仕様に傷ついている」と嘆いている。
That's me probably going out of business then. My crowdfunders and direct sales were how I hoped to improve my score pic.twitter.com/pvxXGQhweL
— Simon Roth (@SimoRoth) September 13, 2016
ほかにも『The Sea Will Claim Everything』を手がけたJonas Kyratzes氏は、レビューの半数が消えてしまったと肩を落とし、『Legacy of the Elder Star』を手がけたJosh Sutphin氏も同様に「半数以上のユーザーレビューがなくなった」と悲しみの声をあげている。
一方で、『X-COM』シリーズや『Chaos Reborn』を手がけたJulian Gollop氏は「Kickstarterユーザーの後ろ盾がなくなり、評価が激変すると思ったが、そういったことは起きなかった」とPCgamerに語っており、「意外にも影響はない」と語るクリエイターも少なくない。また、『Shardlight』をはじめ多くのアドベンチャーゲームを手がけてきたDave Gilbert氏は、現在までのSteamレビューの工作にはうんざりしているといい、Valveの方向性を支持することを表明している。
仕様変更の影響が及ぶのは開発者だけではない。Indie GalaやHumble Bundleのようなバンドルサイトでゲームを購入していたユーザーも、スコアに関係するレビューをすることが不可能になった。もちろん、これまで同様にキーの有効化などは可能でありレビュー自体を書くことはできるが、レビューを書いて他者に情報を発信することを好んでいたユーザーからすれば、決して無視できない変更なのは間違いない。
今やSteamキーを利用したトラブルは頻発しており、Valveを悩ませる大きな課題だ。今回の動きがやや急進的であることは否定できないが、いずれ解決すべき問題であったことであり、レビューの仕様変更を支持するユーザーも多い。痛みの伴う改革ではあったが、避けられなかった道なのかもしれない。
ちなみにValveもこういった賛否両論の声に耳を傾けているようで、Doug Lombardi氏はGamasutraに「今回の変更において、多くの好意的な声といくつかの批判を耳にしている。今までやってきたように、コミュニティの反応を見ながら、次の更新の際には全員にとって改善となるアプローチをしていきたい」と語っている。Valveは時にユーザーの声にあわせて大胆な路線変更をすることもあり、今後の動向が注目される。