『ウマ娘』新実装のスティルインラブ育成シナリオ、“様子がおかしい”とざわつく。侵食するメタ的恐怖

Cygamesは8月24日、『ウマ娘 プリティーダービー』にて新しい育成ウマ娘として「スティルインラブ」を実装した。SNS上の反応は異様な雰囲気に包まれている。

Cygamesは8月24日、『ウマ娘 プリティーダービー』にて新しい育成ウマ娘として「スティルインラブ」を実装した。サービス開始から4.5周年の節目に、史上2頭目の牝馬三冠を達成した名馬をモチーフとしたキャラクターが実装されるとあって注目を集めたが、SNS上の反応はそれだけに留まらない異様な雰囲気に包まれている。本稿にはスティルインラブの育成についてのネタバレが含まれるため留意されたい。

『ウマ娘 プリティーダービー』(以下、ウマ娘)は、実在する競走馬たちの名前や魂を受け継いだウマ娘たちの物語を描くクロスメディアコンテンツである。ゲームでは、プレイヤーはウマ娘を育成するトレーナーとなり、トゥインクル・シリーズと呼ばれる約3年間の競争生活をともに歩むことになる。

本作の中心的なコンテンツである「育成」では、選択したウマ娘ごとに固有のストーリーが展開される。多くは目標達成のためにひたむきに頑張るウマ娘を、プレイヤーがトレーナーとして支えるような、スポーツ漫画のような雰囲気が漂うものだ。ところがスティルインラブの育成シナリオは打って変わって、「ホラー」的な演出があるとして話題になっている。

ウマ娘スティルインラブの育成シナリオでもっとも特徴的な演出は、トレーニング画面の変化だ。育成開始時に表示される設定で特殊演出の表示をオンにすると、育成中の一部の期間にトレーニング画面に赤黒いモヤのようなものがかかる。これまでの育成シナリオではトレーニングは、物語とは切り離されたゲーム部分として描かれてきた。しかし、今回は物語がトレーニング画面にまで影響を及ぼすのだ。

この他にもホラー的な演出は複数存在し、中にはトレーナーであるプレイヤーの意思を反映する「選択肢」を利用したものもある。特定の選択をした場合に、ふたたび同じ選択を求められ、プレイヤーが選んだものは文字化けして読めなくなってしまう。こうしたこれまでの『ウマ娘』の王道とは異なるメタ的な演出が、4.5周年を飾る牝馬三冠ウマ娘の育成シナリオで使われたことが、大きな話題を呼んでいる理由であろう。

今回モチーフとなった競走馬スティルインラブは、史上2頭目の牝馬三冠を達成した名馬中の名馬ながら、牝馬三冠を達成した後は一度も勝利していない。牝馬三冠の最後を飾るレース「秋華賞」の翌月に開催されたG1「エリザベス女王杯」では2着に敗れ、その後は翌年のG3「府中牝馬ステークス」で3着となったのを除いて、掲示板(5着以内)も逃している。

こうした戦績や、牝馬三冠のかかったレースのすべてで2番人気だったことが、普段は控えめで影が薄く、レースになるとまるで別人のようになる二面性に表れているのかもしれない。また、競走馬スティルインラブは、デビューから引退までのすべてのレースで幸英明(みゆき ひであき)氏が騎手を務めた。このことはスティルインラブとトレーナーが一途に互いのことを想い合う一面に現れているものと思われる。

ちなみにスティルインラブが牝馬三冠を達成した2003年の時点で幸氏は20代であり、スティルインラブとともに初勝利を飾るまではもっともグレードの高いG1レースでの勝利経験がない若い騎手であった。そんなスティルインラブと幸氏は、牝馬三冠の前哨戦とも言えるレース「チューリップ賞」に臨み、1番人気に推されながらも2着と、惜しくも勝利を逃してしまう。

このことを幸氏は、期待のかかっている馬を自分の未熟さゆえに勝たせてやれなかったと悔やんだようだ。G1勝利経験のない自分はきっと牝馬三冠がかかる最初のレース「桜花賞」で外されてしまうだろうと考え、「このまま、この子(スティルインラブ)と、遠くへ逃げたい」とさえ思ったという(東スポ競馬)。このエピソードはウマ娘スティルインラブにも反映されているようで、育成シナリオで「愛」がテーマのひとつとなっているほか、チューリップ賞での隠しイベントとしても描かれているようだ。

『ウマ娘』の育成シナリオでは、史実の競走馬が残した記録を土台として、現実とは違った運命をたどる「If」のストーリーが展開されることが多い。あの時もしこうだったらという空想を、ひとつの物語として楽しむことができるわけだ。こうした運命の変化は、一部の例外を除いてプレイヤーが関わることでしか起こり得ず、運命が変化した際には専用の効果音が鳴り響く演出が通例となっている。

ウマ娘スティルインラブも、運命に導かれるように牝馬三冠を目標として掲げる。そして、その大きな目標のためには二面性を持つ彼女の「内なる獣」のような存在に頼るほかないとして、ある種の取引さえ危険を承知の上で交わしてしまう。もしも運命を変えることまで望んだ場合、その代償はいかなるものか。ウマ娘スティルインラブとその担当トレーナーとなるプレイヤーが牝馬三冠のレース後にたどる顛末は、4.5周年にふさわしい“挑戦的”な演出で“美しく”描かれている。

ちなみに、ウマ娘たちはほとんどが2人1部屋の寮生活を送っている。スティルインラブとその同室であるネオユニヴァースは、「騎手に深く愛された存在」だったことが共通点として描かれており、専用の会話も存在している。ウマ娘ネオユニヴァースの育成シナリオも「騎手」との絆がテーマとなっていたが、スティルインラブとは演出の傾向がまるきり違っている。両者の「愛」のかたちを見比べてみるのも、おもしろいかもしれない。

ウマ娘 プリティーダービー』は、PC(Steam/DMM GAMES)/iOS/Android向けに配信中だ。

Naoto Morooka
Naoto Morooka

1000時間まではチュートリアルと言われるようなゲームが大好物。言語学や神話も好きで、ゲームに独自の言語や神話が出てくると小躍りします。

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