その年にリリースされたビデオゲームへ「Game of the Year」を含む各アワードを授ける年末最大のゲームの祭典「The Game Awards」。この世界的なゲームイベントで長年司会者を務めるGeoff Keighleyが、今年度のアワードの選考についてある点を重視していることをPolygonのインタビューにて語っている。
Geoff Keighley氏は2016年度のThe Game Awardsではゲームプレイを重点においた選考をすると宣言。「美しいCG映像を数分間流すよりも、実際に遊べる作品をプレゼンテーションする」と語っており、「デベロッパーには自身の手がけるゲームに、より透明性を持ってもらうつもり」と話す。氏は今回の選考基準の変更の背景に『No Man’s Sky』の影響があったことを明かしている。
“期待されすぎた”ゲーム
The Game Awardsには「Best Multiplayer Game」や「Best Family Game」といった複数のアワードがジャンルごとに用意されている。任天堂から発売された国産TPS『スプラトゥーン』がBest Shooterに輝いたのは記憶に新しいだろう。重要なのは、昨年の「Most Anticipate Game(もっとも期待するゲーム)」が『No Man’s Sky』だったことだ。
『No Man’s Sky』は広大な宇宙を舞台とした探索ゲーム。美しいトレイラーや惑星と生物が無数に自動生成されるという野心的なシステムから大きな期待を集めていた。同作は今年8月にリリースされ発売直後からスマッシュヒットを記録した一方、数多の惑星が用意されているものの、イベントやクエストが欠如していることで、コンテンツ不足が指摘されてきた。また「実機の映像がトレイラーと乖離している」と落胆する声も多く、約6000円という“安くない”ゲームの価格が不評を加速させ、返金騒動に発展することもあった。Keighley氏のゲームプレイを重視するという発言は、こうした“トレイラーが美しすぎる”タイトルを意識してのことだろう。
開発者を担当したHello Gamesは、発売前からマルチプレイが存在するかのような言動を振る舞うなどやや誠実さに欠けていたとの指摘もある。The Game Awardsでの受賞や弊誌を含めたあらゆるメディアの情報が『No Man’s Sky』に対する期待を過剰に煽ってしまったことは否定できない。奇しくも『No Man’s Sky』はThe Game Awardsの前身となるSpikeTV’s VGX awards VGX 2013(主催はKeighley氏)にて発表されたタイトルである。そういった縁もあり、Keighley氏はHello Gamesの代表であるSean Murray氏と親しい仲であるという。(ただし今回のインタビューでは、2016年3月の時点で、Murray氏は強いプレッシャーからしばらくKeighley氏に会わないことを望んでいたとも語られている)
「誇大宣伝のブラックホールを生み出してしまった」
Keighley氏は友人という立場の影響もあってか、『No Man’s Sky』に対しては「数字はなんの意味もなさない(1800京個以上の惑星があるという宣伝を受けて)」「人々の期待を満たせなかった」と、自身の主催する配信番組LIVE with YouTube Gamingにて厳しい指摘を見せていた(参考動画 by gameslice)。9月には同番組に雲隠れ状態にあるMurray氏を招待することを試みていたが、最終的には失敗に終わっている。
氏は今回のインタビューでは『No Man’s Sky』について「8人のチームは最終的にビジョンを達成できなかった」としながらも、「我々が、デベロッパー自身で脱出することのできない誇大宣伝のブラックホールを生み出してしまった。作ってしまったのは私だよ。」と、誇大宣伝の責任の所在が自身にもあったことを示唆している。そういった意味で今回の基準の変更の裏には、『No Man’s Sky』への批判というよりは、Keighley氏含めた選考員達の反省があったのかもしれない。
発表時と製品版でグラフィックが異なるという現象は『No Man’s Sky』に限った話ではない。Ubisoftはこういった話題でやり玉にあげられやすく、『Watch Dogs』で批判を浴びて以来、プレイアブルのものを公開する方針に転換している(参考記事)。The Game Awardのような大きなゲームイベントでも同様の動きがあるのは興味深く、業界全体で徐々にスタンスが変わりつつあるのかもしれない。
The Game Awards 2016は12月1日(日本時間2日)にロサンゼルスのマイクロソフトシアターで開催される。本年度は従来のようにテレビ中心ではなく、ネットストリーミングをメインに据えるとKeighley氏は語っており、日本のユーザーも快適に視聴できそうだ。ノミネート作品一覧はこちらから閲覧することが可能となっている。