「Kickstarterの金を酒やストリップに」「いや個人口座に金を移した」、子供のころからの友人で結成された『Ant Simulator』開発スタジオの空中分解

開発スタジオEteeskiは、蟻シミュレーター『Ant Simulator』や3Dゲーム開発のチュートリアルシリーズ「Ultimate Gamedev Tutorials」を制作していた海外のデベロッパーだ。夢に向かって突き進んでいたはずの3人のスタジオの中心人物たちが現在、インターネット上でお互いをバッシングする骨肉の争いを繰り広げ始めている。

すべてのビデオゲーム・プロジェクトが“完成”にたどり着けるわけではない。現実味の無い巨大すぎるコンセプトを立ち上げたために完成形にたどりつけなかったり、進行役が存在せず開発が遅々として進まない内に資金が底を突いたり、そもそも経営陣や投資家たちを納得させられず開発資金を集められなかったり。ゲームを完成させ賞賛を浴びるデベロッパーも存在する一方で、さまざまな理由で一部のプロジェクトは今日も頓挫している。

そして頓挫する理由のなかには、かつて夢のゲームを開発するため結成したチームが、関係悪化により空中分解してしまうというものもある。

開発スタジオEteeskiは、蟻シミュレーター『Ant Simulator』や3Dゲーム開発のチュートリアルシリーズ「Ultimate Gamedev Tutorials」を制作していた海外のデベロッパーだ。前者はPC/PS4向けにリリース予定の期待の新作、後者はKickstarterで149人から4459ドルを集めることに成功した企画。夢に向かって突き進んでいたはずの3人のスタジオの中心人物たちが現在、インターネット上でお互いをバッシングする骨肉の争いを繰り広げ始めている。

働き蟻としてプレイするサバイバルゲーム『Ant Simulator』。もとはゲームジャム向けに開発された作品だったが、有名YouTuberたちの目にとまり一躍人気に。後にフルタイトルとして開発されることが決定した

 

酒やストリップに金を使った?

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Eric Tereshinski氏

事の発端となったのは、先週末にYouTubeへと投稿された1本のメッセージ映像である。この映像を投稿したのは、『Ant Simulator』の開発に1年以上参加してきたというメインプログラマーのEric Tereshinski氏。Terenshinski氏は映像のなかで、『Ant Simulator』の開発はキャンセルになるだろうと伝え、さらに元同僚たちが『Ant Simulator』の開発資金や「Ultimate Gamedev Tutorials」のKickstarterキャンペーンで集めた金を使い込んでいると内部告発を敢行したのだ。

Tereshinski氏: 「『Ant Simulator』はキャンセルになるだろう。これ以上もう『Ant Simulator』で働くことはできない。以前のビジネスパートナーたちがひそかに会社の金を使い込んでいるのを見つけてしまったんだ。彼らはKickstarterのお金と『Ant Simulator』への投資金をほとんど使い込んでしまった。酒やレストラン、バー、さらにはストリッパーたちへの支払いなんかにね」

Tereshinski氏は元同僚たちとパートナーシップ契約を結んでおり、そして『Ant Simulaotr』を勝手にリリースすれば訴えると彼らから告げられたという。「お金を失ってしまったことに怒りがこみ上げてくる。1年間の仕事も無駄になってしまった。SteamやPS4でリリースするつもりだった誇らしく愛すべきゲームも失ってしまった」。Terenshinski氏は抑えられない悔しさをにじませながらも、今後もゲーム開発のキャリアを続けていくとメッセージをしめくくっている。

 

2人の元ビジネスパートナーの反論

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Tyler Monce氏

先週末に投稿されたこのメッセージ映像は複数のメディアの目にとまり、「『Ant Simulator』の開発陣が酒やストリップに金を使い込んだ」との見出しで報じられた。クラウドファンディングで資金を集めた会社がまた失敗したのかといった雰囲気で注目を集めるなか、Game Informerは独自にTereshinski氏のビジネスパートナーだったTyler Monce氏とDevon Staley氏に接触する。すると彼らの言い分は、Tereshinski氏のそれとは真逆の内容となっていた。

経理担当のMonce氏は「彼が描いた絵は100パーセントたわごとだ」と、Tereshinski氏の発言を否定している。会社のお金は実際にレストランやバーなどで使われたものの、それは一般的な企業の範疇のレベルであり、すべての経費はIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)に報告されていると続ける。これら財務上のデータはすべてアクセスすることが可能なため、横領や着服をすることも不可能だという。また会社の資金は、3Dモデラーや環境アーティストなど9人から10人のフリーランスを雇うためにも使用されていたと2人は説明した。

映像メッセージにてTereshinski氏は、Monce氏とStaley氏を会社のお金を使い込んだ不届き者と糾弾した。一方でGame Informerの取材に応じたMonce氏とStaley氏が語るTereshinski氏の像は、横暴なワンマン経営者そのものだ。

2人によれば、2015年の11月までEteeskiスタジオは順調にゲームの開発を進めていた。しかし感謝祭を終えたあと、今回メッセージ映像を投稿したTereshinski氏は会社との縁を切ることを決めたという。そのなかで彼は、会社の保有していたビジネスアカウントを一方的に削除し始めた、というのが2人の主張である。彼は現在まで会社の物理的な資産や銀行口座、ソーシャルメディアのアカウントにWebサイトなどすべてを1人で管理し、さらに会社の資金を自身の個人口座に移していたとも2人は指摘する。

Monce氏: 「個人的見解だが、彼は我々を閉め出して、すべてを自分自身でやりたいと考えていたんだろう。彼にそうさせようとしたわけではないことは明白にしておきたい。我々にはそうしないモラルと法の権利があったのだから」

 

1人の開発者と2人の経営陣の溝

メッセージ映像を投稿したあと、Tereshinski氏は海外メディアPolygonの取材を受けていた。経営陣の2人は有限責任会社としての地位を守り税務申告をするために売上が必要と延べ、『Ant Simulator』の早期アクセス版を販売するように強要した。またゲーム開発者向けカンファレンス「GDC 2015」にてソニーと関係を持ったあと、PS4の開発キットを入手するため努力していたように自身をあざむき、よりクオリティの高いデモを提出したいと開発を急がせた。Tereshinski氏はさらにMonce氏らを糾弾し続けていた。

一方でGame Informerの取材を受けていたMonce氏らはPS4の開発キットの件について、1000ドルの必要な設備投資をしたにも関わらず、必要だったプレイアブルデモをTereshinski氏が用意できなかったと反論した。モデラーやアーティストたちが用意した素晴らしいアセットがすでにあった一方で、ゲームプレイの開発は遅々として進まなかったと指摘し、Tereshinski氏の開発の遅れが開発キットが入手できなかった理由だと示唆した。

泥沼の空中戦。双方の話はまったく食い違っているが、ひとつだけ一致している部分がある。それはこの3人が、もとはミドルスクールのころから付き合い始めた11年来の友人だったということだ。メッセージ映像やインタビューのなかでも、双方は互いに友人であり、信頼関係が築けていたことを認めている。3人の友人たちは会社を設立し、過去20か月間にわたり自身の会社に投資を続けてきた。Monce氏とStaley氏は合わせて5000ドル。またTereshinski氏も、この額にはおよばないようだが、投資をしたようである。Tereshinski氏の友人も、少額ながら資金を投入しているという。

Monce氏側は海外メディアGame Informerに対し、今回の一件に関してTereshinski氏を訴訟する考えがあることを明らかにしている。開発者であるTereshinski氏と、経営を担当していたMonce氏とStaley氏、ゲーム開発を夢見た1人と2人のあいだに広がった溝が埋まる様子はない。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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