“もう作ろうと思わない”アート系インディーゲームの雄「Tale of Tales」が最新作で商業的失敗

ベルギーのインディーデベロッパー「Tale of Tales」は、最新作『Sunset』が商業的に失敗したことを公式ブログにて明らかにした。

ベルギーのインディーデベロッパー「Tale of Tales」は、最新作『Sunset』が商業的に失敗したことを公式ブログにて明らかにした。『Sunset』の売り上げがわずか4000本程度であったことを報告しており、今後ゲーム開発からは遠のく姿勢を見せている。少なくとも商業向けゲームは手がけないという。

アート系ゲームの雄

1999年に出会い、2002年(法的には2003年)にTale of Talesを設立したAuriea氏とMichael氏
1999年に出会い、2002年(法的には2003年)にTale of Talesを設立したAuriea氏とMichael氏

Tale of Talesはアート系インディーゲームの雄であり、過去10年以上にわたり斬新なアイディアとコンセプトを公開してきたデベロッパーだ。優雅で情緒のあるインタラクティブなエンターテイメント作品を生み出すことを目的に、Michael Samyn氏とAuriea Harvey氏によって2002年に設立された。死期の近い老婆がただ歩くだけの『The Graveyard』や、「赤ずきんちゃん」をテーマに6人の少女の謎めいた物語を描いた『The Path』などで特に知られる。

最新作『Sunset』は、1972年の南アメリカにおける内戦をテーマにした作品でありながらも、雇われの家政婦が主人公という独自の設定を盛り込んだ作品である。ジャンルは一人称視点のアドベンチャーゲーム。プレイヤーは兵士でも英雄でもなく、一般人の視点で日々の仕事を通じて戦争を体感してゆく。

2014年6月にTale of Talesは、2万5000ドルの獲得を目指す『Sunset』のKickstarterファンディングを始動した。実際のゲームプレイ映像やスクリーンショットなどは一切登場しなかったが、前述した魅力的なコンセプトのほか、過去にリリースしてきたアート系インディーゲームでの実績もあり、最終的には6万7636ドルを獲得する。支援者の数は2228人にものぼった。開発は順調に進み、『Sunset』は2015年5月21日にリリースされた。

『Sunset』の失敗

「まちがいなく初月にたくさん売れる!」と考えていたとTale of Talesは公式ブログにて語っている。その期待とは裏腹に、セール時のものを含めた『Sunset』の初月の売り上げは、4000本を少し超える程度に終った。この約4000本には、Kickstarterで支援者に配布した分も含まれており、Steamなどにおける実際の初月の売り上げは2000本かそれ以下と見るのが妥当だろう。

Tale of Talesはこの失敗に深く失望しており、『Sunset』を評価するレビューやプレイヤーからの賞賛でこの気持ちに折り合いをつけることはできないと、その心情を吐露している。「少数の人たちは我々がやり遂げたことを正当に評価してくれている、それを素直に喜ぶことができない経済システムを呪うよ」。

Tale of Tlaesは、単純に「作ったゲームが売れなかった」と悪態をついているわけではない。彼らはPR企業に多額の広告費用を支払っており、メディアに『Sunset』を紹介してもらったり、親和性が高いと思われる「Rock, Paper, Shotgun」に広告を掲載するなど精力的に動いていた。何度もおおやけの場に登場し、Tale of Talesが『Sunset』を開発していると示してきた。だが公式ブログにて彼らは、PR費用を払っても1ビットも手助けにならず、掲載された広告は間違いなくAdBlockで停止されており、そしておおやけの場に出ようが出まいが売り上げに違いはなかったと結論づけている。

「それで、もう我々は自由だ。誰からも助言を受ける必要なんて無い。我々は間違っていた。『Sunset』に関して助言をしてくれた人々すべてが間違っていた」。

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当初はコンセプトのみで注目を集めた『Sunset』。目標額の2倍以上をKickstarterで獲得し、多数のプロモーションが展開されたが、最終的な売り上げはその規模以下に終った

Tale of Talesの日没

現在Tale of Talesの『Sunset』は、発売からおよそ1か月しか経過していないにも関わらず、50パーセントオフにてセール販売されている。「セールは楽しいよね。多くの人達が普段プレイしないゲームを遊んでくれて、ポジティブなフィードバックがたくさん来る。でももちろん、それだけがセールをやる理由じゃない。理由はいつだってお金が必要だからさ」。Tale of Talesは現在、『Sunset』の開発やプロモーションにて発生した債務を支払おうと試みている。

公式ブログにてTale of Talesは、「“ゲーマーのためのゲーム”を作ることに挑戦できて、とても幸せだし誇りに思う。『Sunset』では本当に尽力した、全力を尽くしたよ。そして失敗した」と締めくくっている。「だから我々は、もう二度と同じことを繰り返したくない。心のなかではまだ創造力が燃え広がっているけど、今回のようなことがあった後にビデオゲームを作ろうとは思わない。もし作るとしても、間違いなく商用ではない」。

公式ブログにて彼らは、Kickstarterの盛り上がりでその需要を見誤ったとも説明している。確かに、決してTale of Talesのゲームは多数のプレイヤーに受ける部類の作品ではない。アート的な表現のゲームの売り上げや、Kickstarterの使用方法といった点に問題はなく、需要以上にゲーム制作に費用を注ぎ込んでしまったことが、今回の失敗における最大の原因と言えるだろうか。

インディースタジオがひっそりと閉鎖したり、メンバー達が解散して音沙汰がなくなることは珍しくなく、今回のTale of Talesのゲーム開発終了宣言もその1つにすぎないと言える。とはいえ、彼らの生々しい心の声をつづった公式ブログのメッセージは、ゲーム開発が容易ではないことをあらためて如実に感じさせてくれる。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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