ゲーム開発者が自らの作品をリリースするにあたっては、特にSteam向けである場合、インフルエンサーなどを名乗る人物から「レビューしたいからSteamキーを送ってほしい」といった依頼が数多く寄せられる。ただ、その依頼者が実際にレビューを書いたり動画を出したりしてくれるとは限らず、むしろSteamキーの転売を目的とした詐欺であることも多いという。
ゲーム開発者向けマーケティング情報などを提供するGameDiscoverCoの創設者Simon Carless氏は10月16日、そうした詐欺業者の手口のひとつについて解説している。
Steam向けにゲームをリリースする開発者は、製品と引き換えることができるSteamキーをSteam運営元Valveに発行してもらい、メディアやインフルエンサーに提供したり、外部ストアでの販売に利用したりできる。メディアやインフルエンサーへの提供は、主にレビューしてもらうことが目的であり、作品のプロモーションに役立つ。
一方で、開発者に対して「レビューしたいからSteamキーを送ってほしい」と自ら売り込んでくる自称インフルエンサーが、リリース前後には大量に現れるという。そうした依頼者は、大抵はSteamキーの転売が目的の詐欺業者であるとされる。
とはいえ、本物のインフルエンサーであった場合には作品の周知につながるため、開発者には依頼者について精査が求められるだろう。Steamキーは無料で発行でき、詐欺業者に渡した段階では損害は発生しないものの、転売されれば結果として作品の売上減少につながる可能性がある。
そうしたSteamキーを要求する自称インフルエンサーは、そこそこ登録者数の多いYouTubeアカウントなどを示してくるとされる。開発者としては、そのアカウントが本当に依頼者のものかどうかを見極めることになるだろう。ただSimon Carless氏によると、当人のYouTubeアカウントであったとしても、詐欺である場合があるそうだ。
Carless氏は、問題のYouTubeチャンネルを具体的にいくつか指摘した。いずれも1万人台のチャンネル登録者がおり、定期的にゲームプレイ動画を投稿。サムネイル画像も作成された動画は、それぞれ1万回前後の視聴数が記録されている。動画の内容は、実況プレイではないようだが、ゲーム内容を紹介する音声と共に収録されている。一見すると、ゲームプレイ動画の投稿で活動している普通のYouTubeチャンネルのように思える。
ただ、各ゲームプレイ動画に寄せられた数十件のコメントを確認すると、どことなく違和感を覚える。Carless氏は、すべてのコメントが同時期に投稿されていることや、コメント投稿者のアカウント名がアジア系の名前ばかりであること、動画投稿者はイギリス出身であるとしているが、その英語が別地域の訛りであることが不自然であると述べる。またコメントの内容についても、同じゲームを紹介する他者の動画のコメント欄からコピー&ペーストしているのではないかと指摘した。
要するに、いかにも本物らしいインフルエンサーのYouTubeチャンネルを作り上げたうえで、開発者からSteamキーを騙し取ろうとする詐欺業者の仕業なのだという。労力に見合った効果があるのか気になるところであるが、怪しまれずに複数のチャンネルを運営することで、収益を増やしているのだろうとCarless氏は述べている。
Steamキーを騙し取り転売する業者の存在は、かねてより開発者を悩ませている。またValveは、Steam上でレビューを投稿するキュレーターに対し、開発者がSteamのシステムを使い直接キーを提供できるキュレーターコネクトという機能を対応策として導入したが、キュレーターに偽装する業者まで登場。以前には、依頼者を精査したうえでSteamキーを提供したものの、すべて転売されてしまったという事例が注目を集めた(関連記事)。
こうした状況もあり、たとえば『Frostpunk』や『This War of Mine』などで知られる11 bit Studiosは、SteamキュレーターへのSteamキーの提供を取りやめている。同スタジオは、キュレーターのレビューによる販促効果について疑問視していることもあって、Steamキー提供を一律で中止する判断を下したようだ(関連記事)。また、詐欺業者にコンタクトを取り、彼らが開発者のメールアドレスを取得する手口を暴いた開発者もいた(関連記事)。
今回Simon Carless氏によって紹介されたインフルエンサーらしいYouTubeチャンネルを偽装する手口は、以前より確認されていたものだという。現時点では、そうしたYouTubeチャンネルは手作業で作り上げられているとみられるが、Carless氏は生成AIを駆使して作成されるチャンネルが近い将来に登場することは間違いないと指摘し、巧妙な手法について警鐘を鳴らした。