『マリオ64』で新たな「誰も取れないコイン」が発見される。コイン出現パターンの研究から存在が判明

任天堂から1995年に発売された『スーパーマリオ64』(以下、マリオ64)にて、新た取得不可能なコインが存在していたことが明らかになった。

任天堂から1995年に発売された『スーパーマリオ64』(以下、マリオ64)にて、新たに取得不可能なコインが存在していたことが明らかになった。『マリオ64』では、2014年にコース13の「ちびでかアイランド」の山頂近くにある取得不可能とされていたコインが回収されたことが記憶に新しい。取得に成功したpannenkoek2012氏は当時、マリオを操作し山の傾斜の部分にヘッドスライディングで飛び込み、山の内部に存在する“水”へと侵入するといった手順で見事謎のコインを回収した。発売から20年が経過し、これでコインに関する謎はコース10「スノーマンズ」の山小屋のコイン(通称、misplaced coin)を含みすべて解かれたかと見えた。しかしその2年後、また新たな入手不可能なコインの存在が判明した。新しいコインの存在を発見したのは、前回コインを回収したのと同じpannenkoek2012氏。興味深いのは、氏がコインの並ぶメカニズムを解明している最中に、新たなコインの存在を見つけたことだろう。

pannenkoek2012氏は弊誌でもお伝えしたように、20年間『マリオ64』を研究し続ける情熱家だ。以前は学生で時間があったということもあり、『マリオ64』の研究を重ねてスーパープレイを披露しYouTubeに頻繁に投稿していたが、現在はゲームのメカニズムを解明し視聴者にレクチャーするという方式をとっている。「キャラクターごとの瞬きの仕組み」に関する研究を終えた氏は、次にコインについての研究をおこなっていた。

たとえば、『マリオ64』内のコインの配置にはある特定の性質がある。地面に並ぶコインは横1列の5枚型、円の8枚型、矢の形をした8枚型の3種類のパターンがある。一方、空に浮かぶコインは縦1列5枚型と横1列5枚型、小さな楕円形の8枚型、円の8枚型がある。ゲーム内のコインの配置はこの地上3パターン、空中は4パターンの合計7パターンで構成されている。しかし、前回の発見と同じワールドであるちびでかアイランドの山頂近くの斜面には、コインが1列に並んでいるにもかかわらず、4枚しか出現しないポイントが存在しているのだ。そう、この坂には、本来は顔を出すであろうはずの5枚目のコインが埋められている。それが「誰も取れないコイン」の正体だ。

Image credit: pannenkoek2012
Image credit: pannenkoek2012

pannenkoek2012氏は、このコインの出現のメカニズムについても仮説を立て説明している。『マリオ64』内のコインは、原則的に表示処理の関係で地形の下に沈んでいる。プレイヤーのマリオが近付いた時にだけ地表に出現するというわけだ。そのコインの配置は先程言及したパターンで決まっている。問題は、今回のポイントとなるエリアは傾斜部分というところだ。プログラムは傾斜を空中だと認識し、空中の横1列並びにコインを配置する。しかしそれだとコインが浮いてしまう。そこで無理やり空中にある1列のコインの高度を下げることでコインを配置しているのだという。そういったコインの配置が調整された結果、埋もれてしまうコインが1枚出てきてしまうというからくりだ。実際にpannenkoek2012氏は、ロムをハックしコインの高度を調整することで“消えた”5枚目のコインの出現させている。

氏はこの現象を踏まえてさらに「Slope X」と呼ばれる仮説を提唱する。その内容とは、ざっくり言うと、『マリオ64』ではゲーム内の傾斜は2面で構成されているが、ゲーム開発中に1面であったものを変更した形跡があるという理論だ。この「Slope X」理論は、一連の取得不可能のコインと大きな関連があると予測され、今後さらなる検証が進められるとのこと。

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redditやYouTubeのコメント欄ではpannenkoek2012氏を称えるコメントであふれているが、それは「取得不可能なコインを発見した」事実に対してよりも「コイン出現と坂に関するメカニズム」を発見したことに対する賛辞というのが興味深い。pannenkoek2012氏も今回発見した取得不可能なコインの回収に熱意を燃やすのかと思いきや、「通常のプレイでは取れないコインである」と明言し、クッパと対峙する「てんくうのたたかい」ステージに特定条件下で出現するクリボーの謎の解明に意欲を見せている。このように、熱心なコミュニティにとって『マリオ64』はもはや学問になりつつある。「TASといったツールを用いて華麗なゲームプレイをする」というステージを超え、「ゲーム内メカニズムをどこまで解明できるか」という域で競り合いが展開されている。氏の投稿している動画も一見学問に関するようなものばかりで、我々の知るゲーム動画とは異なる印象を受ける。

『マリオ64』は20年前に発売された作品ながら、いまだに多くの謎を残している。対するpannenkoek2012氏はその謎を解き明かすまでその研究の手を止めないことも明かしている。氏の情熱と、『マリオ64』の奥深さ。どちらが先に果てるのだろうか。20年以上続く飽くなき闘いには、まだまだ目が離せない。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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