デッキ構築型ローグライトなのに、初手で『風来のシレン』モンスターハウスみたいなのがあり、勝手に敵が消えていく。風変わりゲーム『Slot & Dungeons』開発者に話を訊いた

ゲームを始めると目まぐるしくダンジョン内でスロットが周り、敵がダメージを受け出し、そうした時間を経てやがてプレイヤーが行動可能となる。いわゆるデッキ構築型ローグライトとはかなり一線を画す設計になっている。

MUC GAMESは10月31日、『Slot & Dungeons』をSteam早期アクセス配信する。同作は、デッキ構築型ローグライトだ。デッキ構築型ローグライトといえば、『Slay the Spire』のようなカードを切っていくゲームが想起されやすいだろう。

しかしながら本作には、カードは存在せず、ダンジョン攻略型のゲームになっており、かつ「スロット」要素が絡んでいる。ゲームを始めると目まぐるしくダンジョン内でスロットが周り、敵がダメージを受け出し、そうした時間を経てやがてプレイヤーが行動可能となる。いわゆるデッキ構築型ローグライトとはかなり一線を画す設計になっている。どのようなゲームで、何を狙いとするのか?開発者のすぱうい氏に話を訊いた。

——自己紹介をお願いします。

SparkWingGames氏(以下、すぱうい氏):
SparkWingGames(すぱうい)と申します。現在 『Slot & Dungeons』 を開発しています。新卒でSIerに入社後、転職してスマホゲーム開発に10年以上関わってきました。その後フリーランスになり、現在はMUC GAMESの初期メンバーとしてお世話になっています。基本的にはずっとエンジニアをしてきたのですが、サーバーサイド/クライアント(Unity)/インフラ(AWS/GCP)/Webフロントエンド/テクニカルアーティストと様々な職種を経験してきたので、守備範囲の広さが強みかもしれません。

趣味でいろんなゲームをやり込んでいたので、ゲームの企画・立案や、仕様決定に関わっていくのも得意としていました。今は『Slot & Dungeons』 の仕様を、ひとりで好き勝手に考えて作れているのがとても楽しいです。

——『Slot & Dungeons』はどのようなゲームでしょうか?

すぱうい氏:
ジャンルとしては、デッキ構築型ローグライトゲームとなっています。宝箱から入手したアイテムや魔法がプレイヤーのかばん(デッキ)に追加されて、ダンジョンに登場するようになります。画面がわちゃわちゃして複雑なゲームだと思われがちですが、プレイヤーのやることは移動と宝箱の報酬選択ぐらいなので、シンプルなゲーム性となっています。

ダンジョンに入るとスロットが回って敵やアイテムの位置が決まり、魔法が自動で発動します。配置の運が良かったり、強力な魔法ビルドができていると、このタイミングで敵が全滅して次の階に行けたりします。全滅させられなかった場合は、プレイヤーキャラを自分で移動させて残党を倒し、宝箱を開けて強化しながら最終フロアを目指して進みます。

——ありがとうございます!個人的には、ジャンルこそ「デッキ構築型ローグライト」ですが……プレイしてみると全然イメージどおりじゃないというか、かなり独自性の強い作品に感じました。「どんなゲームに似ている?」と聞かれると困りませんか?

すぱうい氏:
そうですね、私も今のところ同じ仕組みのゲームを見つけられておらず、「あのゲームみたいな感じです」という説明ができずに困ることはあります。影響を受けているゲームとしては、『幸運の大家様』と『不思議のダンジョン』シリーズで、強いて言えばスロットを回して出来上がったモンスターハウスを攻略していくイメージでしょうか。

デッキ構築の部分は 『Slay the Spire』 を参考にしている部分が多く、レリックとのシナジーで爆発的に強くなるビルドを探す楽しみを作りたかったです。また、スロットで配置が運任せに決まるところは、カードゲームでいうドローに近い感覚かもしれません。

——言われてみれば、本作のステージ攻略「モンスターがみっちり敷き詰められたダンジョン」に入るところから始まるため、たしかに「モンスターハウス攻略」がしっくりきます!本作の開発におけるテーマやコンセプトはどうなっているんでしょうか。

すぱうい氏:
まず最初のコンセプト決めですが、言葉ではなくいきなりモノを作って、最終的にここに辿り着いた感じになります。というのも『Slot & Dungeons』は、72時間ゲームジャムで作った作品をベースにしていて、ほとんど言語化をせずに開発してきました。そのゲームジャムに参加した時のメモ書きが残っているんですが、そのメモを読み返すと、いちばん最初は新しく使い始めたゲームエンジンを学ぶためにスロットの仕組みを作ってみたのが始まりです。

ゲームジャムでもその仕組みを使ったスロットダンジョンゲームを作ってみたら高評価を得たので、それを更にブラッシュアップしてSteamで発売してみよう、となったのが『Slot & Dungeons』になります。

ブラッシュアップをする際に、私が個人的に面白いと思ったゲームの『幸運の大家様』や『Slay the Spire』の要素を参考にして肉付けしていきました。仕様書も特に整備しておらず、色々実装を試してみて、面白くなる方向性を探りながら作ってきました。

——すぱういさんのXアカウントを見ると、「コレ思いついたから入れました」みたいな、ライブ感がだいぶ強い開発スタイルですよね。

すぱうい氏:
ライブ感はかなり強いですね(笑)後から追加した「コンボシステム」も、その当時ハマっていた『StarVaders』があまりにも面白くて、なんとかこの面白さを参考にできないかと思い、2日ぐらいですぐにコンボシステムを実装しました。ありがたいことに、結構ユーザーからの評判も良く、実装してみて良かったなと思います。

私は思いついたらどんどん変更していきたいタイプなので、アジャイル的な開発のほうが好きですね。特にゲーム開発は実際にプレイしないと出来栄えが分からないので、まずは遊べるようにして、フィードバックを貰ったうえで柔軟に対応できる手法がやりやすいです。大規模チームや、スケジュールが厳しいプロジェクトでは難しいと思いますが……。

ちなみに、『Slot & Dungeons』の体験版をリリースしたのがちょうど1年前なのですが、レビューやフィードバックをいただけるおかげで、完成度がはるかに上がり、最初とはまったく別物と言っていいくらいのゲームになりました。

——なるほど、そのあたりはインディー・個人開発ならではですね。

『Slot & Dungeons』は、プレイヤーにどのようなゲーム体験を提供することを目指して制作されたのでしょうか。ユーザーに「本作のここが楽しいんです!」と売り込むポイントを教えてください。

すぱうい氏:
正直、ちょっと変わったゲームなので、最初は何が起きているか分からないかもしれません(笑)勝手にスロットが回って、いろいろ魔法が発動した後に動けるようになるので、自由に宝箱を開けたり敵を倒してください。回復アイテムを少し確保しつつ、攻撃魔法を多めに取得していくとスロットがどんどん派手になって視覚的にも楽しくなります。うまく攻略ができると、一歩も動かずに魔法攻撃だけでラスボスを倒すことも可能なので、ぜひそれを目指してみてほしいです。

――なるほど。『Slot & Dungeons』のデモ版の評価はいかがですか?どういう評価をされていますか。

すぱうい氏:
デモ版公開後にもアップデートを繰り返したのもあって、ありがたいことに Steam レビューでは「非常に好評」の状態になっています。デモ版にも関わらず、3時間以上遊んでくださるユーザーの割合も結構多くいまして、ハマる人にはハマるゲームになっているのかなと思います。中には、「レベル1クリア」や、「回復無しクリア」などの縛りプレイにチャレンジしているユーザーもいらっしゃって、ありがたいですしバランス調整の参考にもなっています。

――本作はちょっと特殊なゲームなので、導入で面食らう人もいるかと思います。ハマったプレイヤーは「ルール理解するとハマる」型でしょうか?

すぱうい氏:
レビューにもよく書かれているのですが、圧倒的に「ルール理解するとハマる」型ですね!それこそ、『幸運の大家様』と『不思議なダンジョンシリーズ』の両方を遊んだことのある方が「その組み合わせなんだな」と分かってくれる時があるぐらいで、すっと理解される方は少ないと思います。チュートリアルの作りがまだまだ甘いという点もありますので、順次分かりやすいように改善していきたいと思っています。

――ちなみに一番遊ばれた方は、どのくらい遊ばれていますか?

すぱうい氏:
縛りプレイのやり込みをしてくれているユーザーさんですが、88時間も遊んで頂けています……!

――それはすごいやりこみですね。すぱういさん自身が「ここに中毒性があるだろう」と考える部分はどこでしょうか!

すぱうい氏:
とにかくランダム性の連続なのかなと思います。まずスロットでフロア構成がランダムに決定しますし、アイテムや魔法、レリックの組み合わせによって、負けてしまうこともあればあっさりクリアできたりするのが楽しいのかなと思います。レリックや敵の種類も現時点で結構たくさん用意しているので(レリックは200種類ほど、敵は150種類ほど)、同じステージに挑戦してもプレイ体験が変わることが多いです。

ただ、他のスロット系ゲームと比べると、クリアできるかどうかにかかるランダム性の比率は少なめかもしれません。スロットが止まった後は、どういう順番で敵を攻撃してアイテムを取得するかのプレイヤースキルが結構重要になっていて、慣れてきたら毎回クリアできるぐらいに習熟できるようになっています。

――ちなみに、デモ版時点でも更新頻度は高いです。早期アクセス版はどの程度アップデートされますか。

すぱうい氏:
リリースしてしばらくはバグ修正や改善に追われると思いますが、アーリーアクセス中にもステージやさらなる難易度、新要素を追加しようと考えています。新キャラクターやエンドレスモード等の大きな更新は、正式リリースのタイミングで追加予定ですのでお待ち頂ければ幸いです。

――ありがとうございます!期待してます!ちなみにすぱういさん自身もよく呟かれていますが、いまスロット題材にしたローグライクが増えています。それらとの内容は被っているものは……ないですよね?(笑)

すぱうい氏:
そうですね、ないはずです!たまたま同時期にスロット題材ゲームが複数発売されているので、盛り上がりを感じて嬉しいです。私もチェックしているのですが、見事にみんな内容が異なっているので安心しています。

――ところで本作はGodot Engineで作られているとのことですが、なぜ同エンジンを採用されたのでしょうか。

すぱうい氏:
まず「軽い」というのが一番の使い心地の良さですね。起動やビルド時間なども短いので、エンジンに対するストレスがあまりかからないです。

前職では Unity を業務で使っていたのですが、Unity と Godot Engine の UI は結構似ているので、すぐに慣れることができた部分も大きい要素です。他のゲームエンジンもいくつか試してみたのですが、UIや思想が大きく異なっていて理解に時間がかかりそうな気配がしたのに対して、Godot Engine を触ってみたらすぐにUIが理解できました。

また、2Dドット絵ゲームの開発がやりやすい点も採用理由になります。3Dに関する機能や表示をオフにすることができるので、2D開発に集中することができます。ゲーム内オブジェクトの座標もxyの2次元だけで表現できて、単位は最初から px(ピクセル)単位となっています。私は基本的に2Dのドット絵ゲームを中心に作っていこうと思っていたので、自分との相性の良さを感じました。

――ちなみにドキュメントなどはまだUnityほど揃ってないイメージですが、どこで勉強されましたか。

すぱうい氏:
まずいきなり 『Godot Wild Jam』 という Godot Engine 限定のゲームジャムに参加して、実際にゲームを作りながら学びました。今思えば結構無謀なことをしたなと思います(笑)。起動して何となく Unity と同じだと分かったので、後は分からないことだけ公式ドキュメントやYoutubeの解説動画を観ながらゲームを完成させました。

その後は、公式ドキュメントの有志翻訳に参加した時期もあり、翻訳するためにドキュメントを読み込んだのも勉強になりました。今は YouTube のチュートリアル動画がたくさんあがっているので、割と勉強しやすいと思います。

Unity などの大きなゲームエンジンの方が機能面は揃っていると思いますが、機能を絞っているからこそエンジンが軽快で開発がやりやすいので、アップデートを頻繁にしやすいとか、ゲーム内の要素をたくさん追加しやすいという点がユーザー側のメリットになるかもしれません。あと、出来上がったアプリのサイズは比較的小さめになると思います。

――ありがとうございます、機能が多いというより使い勝手が良く開発がスムーズに進んだと。

すぱうい氏:
そうですね、少人数・小規模ゲーム開発だったらサクサク作れて良いなと思います。

――最後に、ゲームを気になっているユーザーにメッセージをいただけますでしょうか。

すぱうい氏:
『Slot & Dungeons』は、スロットとローグライクを融合させた、少し変わったゲームです。最初は「何が起きているんだ?」となるかもしれませんが、仕組みを理解してくるとコンボが繋がったり、魔法が一気に発動して敵を一掃したりと、どんどん気持ち良くなっていくと思います。今後のアップデートでも、まだまだ新しい要素を追加していく予定ですので、ぜひ気長に見守ってもらえたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

『Slot & Dungeons』はPC(Steam)向けに10月31日より早期アクセス配信中だ。

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