VR対応のゲームというと、一人称視点のアクション、シューター、ホラーといったジャンルに目が行きがちだろう。VR対応のMOBAというのも魅力的かもしれない。ではVRでRTS(リアル・タイム・ストラテジー)のような戦略ゲームをプレイするというのはどうだろうか。「VRとRTS」という、一見かけ離れた2つを組み合わせる試みに挑戦したのがクリエイターのÁdám Horváth氏だ。Horváth氏はVRやAR技術を使った実験的なプロジェクトに取り組んでおり、過去にはARで服を試着できるFitnectを開発した。
下記のゲームプレイ映像はHorváth氏がUnreal Engine 4を用いて、2000年に発売されたRTSの名作『Command & Conquer: Red Alert 2』をVR向けにリメイクしたもの。HTC Viveをルームスケールモードにして撮影している。プレイヤーは天空からフィールドを見下ろす神視点で操作し、Viveコントローラと仮想タッチパネルでユニットの生成から指令、建物の建築までをこなしていく。
Horváth氏のプロジェクトは製品用ではなく、あくまで「VRでRTS」というコンセプトに可能性があることを証明するためのデモンストレーションである。そしてHorváth氏の狙い通り、上記の映像は衰えつつあるRTSシーンの現状を打破する道筋を示してはくれないだろうか。
思えば『StarCraft』のカスタムマップである「Aeon of Strife」および『WarCraft 3』のModとして生まれた『Defense of the Ancients』の登場以来、RTS市場はMOBAの勢いに飲まれていった。それは避けようのない出来事であったのだろう。RTSに求められる鬼のような操作量と操作速度(APM = Action Per Minutes)、前線と拠点両方の状況を把握するマルチタスク性、相手チームとの戦略の読み合い、そしてチームメンバーとのコミュニケーション。これが30分から40分近く続く。これでは新規参入するにはハードルが高すぎる。奥の深さを残しつつもRTSの煩雑さを緩和したMOBAにプレイヤー人口を奪われるのも無理はない。
もちろん、近年でも『StarCraft II』を筆頭に『Warhammer 40,000: Dawn of War II: Retribution』『Sins of a Solar Empire』『Company of Heroes』シリーズなど、奮闘しているRTSタイトルは存在する。だが今年9月にアクティブユーザ数が1億人を突破した『League of Legends』や今年6月に月間1300万ユニークユーザ数を達成した『DOTA 2』には敵わない。お気に入りのヒーローに投資するというF2P(基本プレイ無料)モデルを採用しやすいジャンルであることもMOBAの人気を後押ししている。e-Sportsとしても戦場で何が起きているかを理解しやすく、視聴者フレンドリーだ。一方のRTSは相変わらず新規参入の難しさがネックとなっている。APMに頼らない『Offworld Trading Company』といったユニークなタイトルも登場したが、ジャンルを蘇らせる突破口とはならなかった。
ここでHorváth氏のプロジェクトに話を戻そう。RTSジャンルへの入門を躊躇させる最大の要因はその慌ただしい操作にあると思われるが、Horváth氏の映像で披露された直感的操作をさらに洗練すれば、ジャンルのとっつきやすさは格段に増すだろう。それに固定のヒーロー1人を操作するMOBAではなく自軍全体を指揮するRTSだからこそ、VRでの神視点に臨場感が生まれる。
ただし商品化を考えると問題点がないわけではない。既存タイトルをVR向けにリメイクするとなると、VR向けのコントローラだけでは操作量に限界がある。とくに戦場が入り乱れるマッチ後半では処理速度が追いつかないだろう。またキーボード操作のプレイヤーとVRコントローラ操作のプレイヤーが対戦すれば、操作量の点から後者が圧倒的に不利となる。VR化にあたってはこれらの点をクリアしていく必要がある。キーボード操作を前提にバランス調整された既存タイトルのリメイクよりは、VR向けのRTSを新規につくりあげる方が現実的だろう。
それにVR技術を導入したとしても、RTSがMOBAのような世界的人気を獲得するとは考えづらい。だがVRという新しい光に照らされたRTSは、新規ユーザを取り込む入り口としても話題性としてもうってつけではないだろうか。実のところVRにより化ける可能性が高いのは一人称視点のアクションやホラーではなく、VRから最も遠いとされてきたRTSなのかもしれない。