『Rise of the Tomb Raider』の「Xbox独占」を誤解しないために

『Silent Hills』のティーザーであることが判明し大きな注目を集めた『P.T.』とは対照的に、今年のgamescom 2014で大きな批判を浴びたのが『Rise of the Tomb Raider』のXbox独占契約だ。Microsoftのカンファレンスにて明らかとなったこのサプライズに対し、多くのファンより向けられたのは驚きというよりも困惑だった。前作『Tomb Raider』がPCとPS3およびXbox 360で発売されたのに、次回作の『Rise of the Tomb Raider』はXbox独占となる。PCゲーマーやPlayStationオーナーのシリーズファンにとっては納得のいかない発表だっただろう。

発表直後、『Tomb Raider』の公式ブログは記事を投稿して「PlayStationとPCのファンから離れるわけではない」と、今後べつのプラットフォームでも発売される可能性を弁解気味に示唆した。それでもファンたちはヒートアップし、また海外メディアも連日Microsoftや開発のCrystal Dynamicsへこの件についての取材を続けた。

この状況をうけてか、Microsoft StudiosのXbox部門ヘッドPhil Spencer氏は、Eurogamerを通して今回のXbox独占が”時限独占”であることを明言した。開発者がファンから質問責めにあい時限独占を示唆することはよくあるが、ハード会社側がネタばらしをしてしまうのはめずらしい。

結局のところ、『Rise of the Tomb Raider』は完全なXbox独占ではなく、待てばPCやPlayStationで遊べることが明らかとなった。先行発売によって多少Xbox版のセールスは伸びるかもしれないが、それ以上に「カネで時限独占を買った」とのネガティブなイメージがMicrosoftに重くのしかかっている。そもそもMicrosoft側の狙いはどういったものだったのだろうか。Eurogamerの2度目の取材に対し、Phil Spencer氏がふたたび答えている。

 

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まずPhile Spencer氏にとって『Rise of the Tomb Raider』の発表は念入りに計画していたサプライズというよりも、むしろCrystal Dynamicsとの友好関係の延長線上で発生した”出来事”であったようだ。Spencer氏は2011年から前作『Tomb Raider』をMicrosoftカンファレンスにて披露してきたことを説明したうえで、その関係から今回のXbox独占が決定したと伝えている。そういう土壌を前提とした契約であり、マネーパワーのみで独占を勝ちとったわけではないようである。

ではXbox独占にいたったそもそもの理由は? Spencer氏は資金的な理由があることを示唆した。それはMicrosoftがXbox独占の『Tomb Raider』による稼ぎではなく、Crystal Dynamicsとパブリッシャーのスクウェア・エニックス側が安定した状況で開発を進めるための、”カネのサポート”である。「Crystal Dynamicsとスクエニに対価を支払った」とは明言していないが、Spencer氏はインタビューの中で昨今のトリプルA級タイトルの開発費がいかに高額であり、リスクが高いかを何度も強調している。

そしてMicrosoftにとってXbox向けタイトルの確保はつねに念頭にある事項であり、『Tomb Raider』はMicrosft側にはない『Uncharted』ジャンルの作品でもあると続ける。Crystal Dynamics側はMicrosoftからのサポートやプロモーションでの優遇を確保し、MicrosoftはXbox向けの有力なタイトルを確保する。Spencer氏はおたがいにこの利益が一致したうえでの独占契約であると説明した。そしてコンソール独占が巨大フランチャイズを運営する開発スタジオにとって、生きぬいていくための1つの有効なプランであることを指摘している。

今回の契約にサインしたCrystal Dynamicsとスクエニは見返りが必要だったのか? ただたんにEurogamerのインタビューを読みほどくだけでは、なぜ両社がこの契約にいたったのかを知ることはできない。2013年、多数の有力タイトルをリリースし高評価を獲得しながらも、スクエニ傘下の海外スタジオは決して順風満帆ではなかった。当時社長であった和田洋一氏は2013年4月の業績予想修正説明会にて、『Hitman: Absolution』や『Sleeping Dogs』とともに『Tomb Raider』が予想以上に売れなかったと発言している。同年、スクエニはIO Interactiveのレイオフと『Hitman』フランチャイズへの開発一本化に始まり、英国とロサンゼルスのスクエニスタジオにてレイオフを敢行するなど、海外開発スタジオの再編に着手した。

Crystal Dynamicsではヘッドの入れ替えがあった一方で、およそ12人を対象とした小規模なレイオフで済んだ。しかしEurogamerの過去の取材によれば、同スタジオの『Tomb Raider』が黒字へと転換したのは2013年末のことである。あらたに発売された次世代機向け『Tomb Raider: Definitive Edition』の売上を考慮しても、財政的にCrystal Dynamicsと海外スクエニが安易な決断で次世代機向けタイトルを投入できる状況になかったのは想像にかたくない。

 

2013年はスタジオの再編とレイオフを進めたスクエニ。2014年第一弾となった大型タイトル『Thief』は、予想を下回る低い評価で海外メディアから迎えられた。
2013年はスタジオの再編とレイオフを進めたスクエニ。2014年第一弾となった大型タイトル『Thief』は、予想を下回る低い評価で海外メディアから迎えられた。

 

こうして全体像をみると、MicrosoftとCrystal Dynamicsの独占契約は理に適っているのかもしれない。しかしファンと『Tomb Raider』シリーズの関係性からみれば、パーフェクトな答えではなかったのは明白だ。流血の覚悟でCrystal Dynamicsが開発資金を捻出し『Tomb Raider』新作を手がけるべきだったのか、それとも新作などそもそも出すべきではなかったのか。どれが最善の答えであったのかを決めつけるなど不可能だが、すくなくともMicrosoftが横暴な野心で進めた結果が今回のXbox独占ではないようだ。それはPhil Spencer氏が『Rise of the Tomb Raider』のIPをMicrosoft側が所有していないと断言してるところからもみてとれる。

Spencer氏はEurogamerによるインタビューの中で「これが表沙汰になったときいくらか反発があるだろうということは知っていた。一部の人々は信じられないかもしれないが、独占契約は邪心からきたものではない。われわれがジャンル面で必要だった作品を取り入れると同時に、パートナーが協力体制を探しだすことができるチャンスがあったからなんだ。ほかのパートナーとも契約はできただろうが、うまくわれわれの状況と合致した契約だった。私は独占契約は長期フランチャイズとCrystalおよびスクエニ、そして我々を手助けすることができるると考えている」と伝えている。

 

【Source】 gameindustry.biz, Game Informer, Massively, IGN, Game Informer

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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