『The Witcher』シリーズでブレイクしたCD Projekt REDが『Cyberpunk 2077』をアナウンスしてから4年以上の月日が経過した。『Cyberpunk 2077』というと、100時間以上のボリュームがあった『The Witcher 3: Wild Hunt』よりも規模が大きい上に、マルチプレイ要素まで用意するという壮大なプロジェクトだ。CD Projekt REDは 『Cyberpunk 2077』の開発状況について多くを語っていないこともあり、開発が難航しているのではという噂や、敵対的買収を受けているのではという憶測がメディアを賑わせてきた。そのたびに噂を否定するコメントを出してきたCD Projekt REDの発言からは、どこか余裕のようなものを感じ取れる。彼らの余裕は一体どこから生まれているのか。そこにはポーランド政府によるゲーム業界への厚いサポートが背景にありそうだ。
潤沢な国家支援プログラム「Smart Growth」
National Centre for Research and Development(以下、NCRD)は2007年に発足したポーランドの政府機関であり、幅広くサイエンス、イノベーション、そしてテクノロジーの分野で研究を進める企業の成長をサポートしている。経済活性化への貢献が期待できる企業に資金援助を行う Smart Growth Operational Programme 2014-2020(以下、Smart Growth)では、おもにテック企業の研究開発を促進することで雇用増と国家としての競争力を高めることを狙いとしている。7年間での予算は86億ユーロ(約1兆円)にもおよぶ。2007年から2013年にかけて設けられていた同様のプログラムである Innovative Economy Programme では約1万6000もの企業・団体が同プログラムを利用したという。
Smart Growthでは、ゲームエンジンの開発やVR技術の研究に当てる資金援助の申請も受け入れており、CD Projekt REDも当プログラムを利用している企業のひとつだ。申請リストに目を通してみると、CD Projekt REDは「City Creation」というプロジェクト名のもとでAIやオープンワールドの生成に必要な技術の開発に約993万PLN(約2億6400万円)、アニメーションの向上に約645万PLN(約1億7000万円)、別途映像技術に約486万PLN(約1億3000万円)、そして気になるマルチプレイヤー機能には約667万PLN(約1億7700万円)を要請している。なおマルチプレイヤー機能として記載されているのはマッチングやセッションのマネジメントといった大枠のみで、詳細までは把握できない。
Smart Growthプログラムを活用しているのはCD Project REDだけではない。同じくポーランドのデベロッパーであり『Dead Island』や『Dying Light』で有名なTechlandや、『Shadow Warrior 2』をリリースしたばかりのFlying Wild Hogも同プログラムを利用している。Flying Wild Hogの申請内容には「グラフィックエンジン RoadHog 2」という記載があり、自社エンジンであるRoadHog Engineのアップグレードを図っているようだ。
業界全体の発展すら見据えるCD Project RED
ポーランドのゲームデベロッパーはPolish Game Association という組合を組んでおり、上記のCD Project RED、Techland、Flying Wild Hogはいずれも加盟している。このPolish Game Associationは今年6月にポーランド政府と提携し、ゲームデベロッパー向けの投資ファンドを発足したばかり。ファンドの審査を通ったデベロッパーは開発費用の40%から80%をカバーしてくれるという。これはゲームデベロッパー向けの助成金プログラムとしてはヨーロッパ最大規模となる。ここでもまたポーランド政府がいかにゲーム業界の発展に力を入れているかが計り知れる。CD Projekt RedのStan Just氏はVenturebeat とのインタビューで「ゲーム市場が成長している米国やカナダでは資金援助を受ける手段が豊富にある。我々は彼らに追いつきたいのだ」と語っている。
こうしてポーランドのゲーム業界全体の発展を見据えるCD Projekt REDは、今月に入ってから11月29日に臨時株主総会を開催する旨を発表したことから、敵対的買収を受けているのではとの疑惑がかけられた。というのも、総会の議題が買収に向けた防止策と思わしき内容だったからだ。総会では70億円相当の株式買戻し、『The Witcher』シリーズおよび『Cyberpunk 2077』の商標権を保有する子会社CD Projekt Brandsと親会社CD Project REDの合併、そして定款の変更に関する是非が問われる。定款の変更には、株式保有率が20%を超える株主の議決権に制限を設ける内容が含まれており、疑惑を呼ぶ最大のポイントとなった。これに対しCD Projekt REDはあくまで定款の変更は予防策であり、実際に敵対的買収を受けているわけではないと海外メディアのWccftechに答えている。
臨時株主総会の結果がCD Projekt REDの思惑通りにいけば、彼らはより安定した経営を実現できる。10年前には無名の存在だった彼らだが、いまやポーランド政府さえも後押しするリーディングカンパニーへと成長した。CD Projekt REDの動向もそうだが、ポーランド政府、そしてCD Projekt RED率いるPolish Game Associationの厚いサポートにより、今後どのようなデベロッパーが頭角を現してくるのかが楽しみだ。