とあるインディー作品開発元、「ソースコードがどっかに消えた」としてSteamでの販売を停止。バージョン管理してなかったことを正直に言っちゃう


Steamで販売されているとあるインディーゲームにおいて、7月24日に開発元みずから販売を停止した。作品が販売停止になる理由はさまざまであるものの、今回のケースはそのユニークな理由が話題になっている。

その作品のタイトルは『Quantum Lock』。2015年12月にSteamで発売されたゲームだ。本作のSteamストアページ上で7月24日に更新された公式ニュースによると、販売停止の理由はソースコードにアクセスできなくなったからだという。いわく、本作は「バージョン管理ソフトウェア(version control software)」をスタジオが導入する前の時代に作られたものであるとのこと。そのため、ソースコードにアクセスできない現状ではゲームに修正や変更を加えることができないという。そういった理由から、開発元みずから本作の販売を停止することを決めたようだ。

この発表の通り、本作は現在Steam上で購入不可能となっている。ゲーム内容は今となっては不明であるものの、ストアページの紹介によると、最大四人のプレイヤーで不正プログラム対アンチウイルスの陣営に分かれて対戦するゲームであったようだ。またローカルプレイ、オンラインマルチプレイにも対応していたらしい。

公式ニュースで言及されている「バージョン管理ソフトウェア」というのは、ソフトウェアのコードの変更を追跡および管理する方法のことだろう。その種類としてはさまざまなソフトウェアがあるものの、多人数で開発をする際にコードの変更履歴を追跡、そして開発中のコードの保全に役立てるものである。そのコードでどういった変更が行われてきたのかがわかるようにし、また過去のバージョンのバックアップを保存しておくことで、万が一問題が発生した場合はロールバックを行うことができる。ゲーム開発に限らず、コードを共同で開発する際には広く採用されている手法だ。

本作においてはこういったツールを用いないか、あるいはそれに準ずる施策を講じずに開発をしていたと見られる。公式ニュースによるとソースコードそのものにアクセスできなくなったとのことであるので、何らかの理由でソースコードそのものが紛失したのかもしれない。しかしバックアップやバージョン管理を行っていなかったため、復旧することもできず、結果本作のアップデートが不可能になってしまった、という事なのだろう。

開発を手がけるFAT BOMB STUDIOSはインディーゲーム開発会社だ。2015年にアメリカ・ニューメキシコ州にて大学生2名で設立されたという。『Quantum Lock』のリリースは2015年12月。本作においても2名体制で開発されたかどうかは定かではないものの、それに近い小規模な体制で開発をしていたことはうかがえる。スタジオのデビュー作というのもあり、バックアップやバージョン管理の十分な体制がなかったということについてもある種納得がいくかもしれない。

本作のいたって正直な販売停止理由はReddit上のSteamコミュニティでも話題になった。「インディースタジオ」らしいとしつつもバージョン管理の大切さを実感する声が多く、そもそもバージョン管理をせずにゲームを開発できるのかという純粋な驚きの声も見られる。バージョンを管理した方がゲーム制作にとって便利であるは間違いないものの、バージョン管理せずとも、ゲームを制作できることにはできるようだ。

また、開発中のソースコードが紛失してしまったという点において、2011年に起こった『Project Zomboid』の事例を挙げる声もあり、同作の開発者nasKo氏もそれに反応している。こちらのケースでは、当時『Project Zomboid』の最新パッチのソースコードの入ったPCが何者かに物理的に盗まれてしまったという事件が発生。これにより開発の進捗に遅れが生じてしまったという。ただnasKo氏いわく、オンライン上にバックアップは存在していたということで、ゼロから作り直すまでには至らず、開発を続けること自体はできたようだ。なお、nasKo氏はその当時からバージョン管理を実施していたとのこと。

『Project Zomboid』や『Quantum Lock』の例に限らず、ソースコードを紛失することは開発の大幅な進捗遅れや場合によっては開発の中止もありうる。そういった事態を避けるべく、バージョン管理やソースコードのバックアップが取られることが一般的であるものの、『Quantum Lock』においては小規模スタジオのデビュー作ということもあり、開発当時にはそういったノウハウがなかったのかもしれない。

なお『Quantum Lock』の販売を停止した理由については、前述の公式ニュース文章以外に発表されているものはない。販売停止することなく、サポートを打ち切って販売しつづけることや、無料版としてリリースすることもできたのではないかという意見も上述のRedditスレッドでは見受けられる。

とはいえ、本作においてはバグ修正やアップデートができない、言い換えれば開発側の手を離れた状況となってしまう。そういった状況で本作を販売しつづけることを避けたのだろう。販売停止理由としてはややユニークでありながらも、ある種誠実ともいえる理由がユーザーの中で話題となったかたちだ。

なお開発元のFAT BOMB STUDIOSは現在Steam上で『Light Bearers』『Galactic Feud』を販売中。その続編となる『Light Bearers 2』も2024年の発売を目指し現在も開発中だ。