ピーター・モリニューの『Godus』における失敗

一見すると、『Godus』は順調に成功しているように見えるかもしれない。だが現在、モリニュー氏や22Cansは、コミュニティと支援者から大きな批判を浴びている。

2015年に入り、国内でもiOSとAndroid向けに配信が開始された『Godus』。本作は、ゴッドゲームの生みの親であるピーター・モリニュー氏が率いる22Cansスタジオが開発中の最新作だ。かつてモリニュー氏がデザインした『ポピュラス』の精神を受け継ぐ新たなゴッドゲームである。2012年にKickstarterでのクラウドファンディングに成功しており、52万ポンド以上の開発資金を獲得した。2013年にはWindowsやMac向けにSteam早期アクセス版がリリース。海外では日本に先駆け、2014年にFree-to-Playモデルのスマートフォン版が配信されている。

一見すると、『Godus』は順調に成功しているように見えるかもしれない。だが現在、モリニュー氏や22Cansは、コミュニティと支援者から大きな批判を浴びている。PC版の開発の難航や、Kickstarterでの約束の反故など、本作の問題が2015年に入ってから大きく露見しているからだ。モリニュー氏自身も、『Godus』において”過ちを犯した”と認めている状況である。

 


『Godus』における過ち

Kickstarterで52万ポンド以上を集めてから2年が経過したものの、PC版『Godus』は完成に至っていない。現在も開発中のバージョンを販売するSteam早期アクセスにて、15ドルで売られている。Kickstarterで当初発表していたような『Godus』は、まだ登場していない。明らかに開発は難航している。さらに本作のゲームデザイナーKonrad Naszynski氏が、Kickstarterにて発表していたマルチプレイヤー要素の多くが実装されないことを、今年に入り示唆した。これらの一連の動きが最近になって大きく取り上げられ、モリニュー氏が動画で謝罪する事態へとつながった。

2015年2月9日、モリニュー氏と22Cansのメンバーは、PC版『Godus』を待つコミュニティ向けに、動画「Godus Community Update」を投稿した。「過ちを犯したことをみなにお詫びします」と、モリニュー氏は『Godus』における失敗を認めている。「あなたたちは我々に厳しく接してきたが、これからもそうして欲しい。『Godus』には辛辣に当たってほしい、我々は過ちを犯したのだから」と続けている。

 

 

モリニュー氏が「あなたたちは厳しく接してきた」と語るように、『Godus』への批判は今に始まったことではない。Kickstarterで多額の資金を集め、さらにSteam早期アクセスで開発中のビルドを販売してきたにも関わらず、月日が過ぎてもPC版の開発に進捗はほとんど見られなかった。マルチプレイヤー要素だけでなく、Linuxバージョンの配信や、支援者へのリワードであるアートブックなどの提供も遅々として進んでいない。当初の約束を実現しない22Cansと、待たされ続け怒りに燃えていたコミュニティ、両者の関係はひと目でわかるほど険悪だった。海外メディアGameindustry.bizのインタビューにて、モリニュー氏は自身や自身の家族にも脅迫がおよんだことを明らかにしている。

『Godus』の開発はまだ継続されるが、担当するチームの規模は小さくなり、昨年末に発表された最新作『The Trail』へ開発の人材や資金は集約される見込みだ。PC向け『Godus』がいつ正式にローンチされるのか。それはまだ明らかとなっていない。

 


クラウドファンディングと早期アクセス、神の失敗例

 

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クラウドファンディングと早期アクセスを利用したゲームの開発が難航する。ビデオゲーム業界では、ここ数年でよく見るようになった光景だ。だが数々の名作を生みだし、権威ある賞を受賞してきたピーター・モリニュー氏が、その光景の一部と化したことには、強い印象を受ける。モリニュー氏が自身のゲームについて大げさに語るのはよくあることだが、今回はそれがKickstarterやSteam早期アクセスの潮流と絡み合ってしまったようだ。

大手海外メディアは語調を強め、今回のモリニュー氏の失敗を深く追求している。最初に問題を大々的に取り上げたRock,Paper,Shotgunは、モリニュー氏へのインタビューでまず「自分が病的虚言者であることをどう思う?」と刺々しくたずねた。Eurogamerは取材にて、プロモーションゲームとして販売されていた『Curiosity』の現状を追っている。『Curiosity』の勝者であるBryan Henderson氏は、『Godus』に”神々の神”として登場するはずだったが、そのプランは進展しておらず、まだTシャツをプレゼントされただけだという。GameSpotは22Cansの元従業員とコンタクトをとり、ここ数週間でスタジオからキーとなる人材が退社していると報じている。

なぜ『Godus』の開発は難航してきたのだろうか。本作のデザイナーKonrad Naszynski氏は、『Godus』において決定されたゲームデザインの数々が、スマートフォン版とPC版の両方に噛み合わない内容であったことを認めている。開発者らがクリエイティブの壁にぶつかったことは事実なのだろう。だがそれ以上に、モリニュー氏らがクラウドファンディングや早期アクセスの使用法を間違えたことは明らかだ。モリニュー氏自身も昨年12月、『The Trail』の発表に際し、「KickstarterやSteamアクセスを利用するならば開発の終盤に」とその教訓を語っている。またモリニュー氏は、自身が表舞台から姿を消し、今後はメディアに対して大々的にゲームを語らないとThe Guardianのインタビューにて約束している。かつて素晴らしいゲームデザインの数々とゴッドゲームを生みだした”神”は、自ら犯した過ちによって、人民の目が届かない場所へ姿を消そうとしている。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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