MMORPGのゲーム内通貨も「盗んではいけない財産」との判断が英国の裁判で下る。ゲーム内のデータであってもお金はお金

MMORPG『Old School RuneScape』のゲーム内通貨を巡った英国の裁判において、ゲーム内通貨を「盗難の対象となりうる財産」であるとする判断が示され、注目を集めている。

イギリスの裁判所がMMORPG『Old School RuneScape』におけるゲーム内通貨について、刑法上の「盗難の対象となりうる財産」に該当するとの判断を示した。オンラインゲーム内のデータが、刑事裁判の場で財産性を正面から問われるケースは珍しく、今回の判断は異例の司法判断として注目を集めている。

ゲーム内通貨「ゴールド」と「Bond」

『RuneScape』は、イギリスのゲームスタジオJagexが運営する基本プレイ無料のMMORPGで、2001年から長期にわたってサービスが続いている。サービス中には刷新もおこなわれ、一方では旧バージョンが復刻版『Old School RuneScape』として展開されてきた。中世ファンタジー風の世界を舞台に、プレイヤーはキャラクターを育成し、クエストの攻略やモンスターとの戦闘、資源集め、取引などを自由に行うのが特徴だ。また、基本プレイ無料で遊べる一方、より多くのエリアやコンテンツを利用できる有料会員制度も用意されており、長年にわたって多くのプレイヤーを抱えてきた。

『Old School RuneScape』

本作において、取引の基盤となっているのがゲーム内通貨の「ゴールド」だ。ゴールドは、装備やアイテムの購入、プレイヤー同士の取引に使われており、ゲーム内経済を支える基本的な通貨として機能している。一方で、ゴールドは現実の通貨ではなく、ゲームの外に持ち出したり、直接現金に換えたりすることはできない。

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ただし本作には「Bond」と呼ばれる公式アイテムが存在する。Bondは運営が現実の通貨で販売しているアイテムで、使用すると一定期間、有料会員として遊べる権利が得られる。とはいえBondは現金での購入のほか、Bondをすでに所持している他のプレイヤーとの売買を通じて、ゴールドを支払って入手することもできる。この仕組みもあってか、ゴールドは直接お金に換えられるわけではないものの、いわゆるリアルマネートレードもおこなわれている状況があるようだ。

元開発者による“不正取得”疑惑

今回の裁判の発端となったのは、『Old School RuneScape』の運営会社Jagexの元開発者が関与したとされる不正行為だ。Jagex側の主張によれば、この元開発者であるAndrew Lakeman氏は、業務上の立場を利用して複数のプレイヤーアカウントに不正にアクセスし、約7050億にものぼるゲーム内ゴールドを大量に取得したという。被害に遭ったアカウントは68件あるといい、取得されたゴールドはリアルマネートレードにおける購入者のアカウントに付与されていたとされる。被告は見返りとして、購入者からお金やビットコインの支払いを受けた疑いがもたれており、Jagex側はゴールドの被害総額を現実での取引価格に換算すると約54万ポンド相当(約1億円)に達すると見積もっている。一方で、Lakeman氏および弁護側は、これらの容疑について争う姿勢を示している。

第一審が否定した「財産としてのゴールド」

この事件は当初、刑事裁判として審理されたものの、第一審では起訴が退けられている。争点となったのは、ゲーム内ゴールドについて、英国の窃盗罪を定めたTheft Act 1968における「財産」に当たるかどうか、という点だった。第一審の裁判官は、『RuneScape』のゴールドについて、「誰かが持っているからといって、他の人が得られなくなるものではない」として、競合性がなく純粋な情報に近い存在だと判断した。

『Old School RuneScape』では仮に誰かが「ゴールド」という同じ性質を持つアイテムを大量に所持していても“富の独占”にはならず、他プレイヤーはゴールドを引き続き入手可能だ。そのうえゴールドの供給量はシステム上無限ともいえる。第一審ではこうした性質に着目し、有体物のように排他的支配の対象となる財産とは性質が異なる、“情報”に近い性質を持つと判断されたようだ。

控訴審が示した「無形の財産」

しかしこの判断に対し検察側は控訴。事件は英国のCourt of Appeal(控訴院)で改めて審理されることになった。控訴審では、第一審が示した「ゴールドは他人の取得を妨げないため、財産にはあたらない」という考え方そのものが問題視された。

出典:UK Court of Appeal 判決文(The National Archives)

というのも控訴審における判決では、『Old School RuneScape』のゴールドが同一の性質を持ち、供給が事実上無限である点についても、「それだけで財産性が否定されるわけではない」と指摘されている。たとえば、同じ形をした大量生産品であっても、特定の人が持つ分を奪えば、その人は使用できなくなる。本作のゴールドも同様で、特定のプレイヤーが保有しているゴールドを不正に奪えば、そのプレイヤーは確実に損失を被る、という考え方が示されたわけだ。このように控訴審では、ゴールドは単なる情報ではなく、特定の所有者が存在し、失われれば価値や利用機会が失われる「無形の財産」に当たるとして、第一審の判断を覆している。

今後の裁判の行方

もっとも、この控訴審の判断は、これだけで元開発者の有罪・無罪を最終的に決めたものではない。今回示されたのは、『Old School RuneScape』のゲーム内ゴールドは、英国法上、窃盗の対象となりうる財産に当たるという法解釈だ。控訴審は、第一審で否定されていた前提を覆し、事件を改めて審理できる段階に戻したにすぎない。今後は、実際に不正アクセスや取得が行われたのか、また窃盗罪の構成要件を満たすのかといった点が、あらためて裁判で争われることになる。

『Old School RuneScape』

今回の控訴審判断が注目されている理由は、個別の事件を超え、オンラインゲームにおける通貨やアイテムの扱いに影響を及ぼしかねない点にある。ゲーム内通貨は、長らく「サービス上のデータ」や「情報の集合」として扱われることが多く、刑事法の枠組みで明確に財産と認定される例はまれであった。今回、ゲーム内ゴールドが「無形の財産」として窃盗の対象になり得ると示されたことで、オンライン上の資産をめぐる法的な位置づけが、より厳密に問われる可能性が出てきたかたちだ。

過去にもあった「ゲーム内資産」裁判

なお、ゲーム内の資産が現実の法制度で問題になった例は、今回が初めてではない。2007年には、オンラインゲーム『Habbo Hotel』において、ゲーム内の家具を不正に盗んだとして、オランダで未成年のプレイヤーが逮捕される事件が起きている(Reuters)。この事件では、家具の入手に現実の通貨が必要だった点が重視され、ゲーム内の仮想アイテムであっても、現実の価値と結びついていれば窃盗の対象になり得ると判断されたようだ。オンライン上の行為が、現実世界の犯罪として扱われた事例として、当時大きな注目を集めた。

こうした過去の事例と比べると、今回の『Old School RuneScape』をめぐる裁判は、より踏み込んだ論点を含んでいる。争われているのは、特定のアイテムや課金要素に限らず、「ゲーム内通貨そのもの」が刑事法上の財産といえるかどうか、という点だ。ゲームにおいても、通貨やアイテムが現実の通貨と結びつく状況があれば、それらを単なるデータとして切り離して扱うことは難しくなりつつあるのかもしれない。

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Junya Shimizu
Junya Shimizu

ローグライクが大好きです。映画や海外ドラマも好きなので、常に時間に追われています。

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