NVIDIAが、「GPUを使って犬の心疾患の有無を診断する研究」を紹介。犬の心音に潜む“雑音”を見事に判断、実用化に向け一歩前進

NVIDIAは11月12日、犬の心臓病の早期検出を目指した研究において、NVIDIA製のGPUを活用して機械学習アルゴリズムが作成されたと紹介。このアルゴリズムは、心雑音の検出において高い精度を達成したとされている。

NVIDIAは11月12日、Technical Blog上で記事を更新。犬の心臓病の早期検出を目指した研究において、NVIDIA製のGPUを活用して機械学習アルゴリズムが作成されたとのこと。このアルゴリズムは、心雑音の検出において高い精度を達成したとされている。

NVIDIAは1993年に設立された、アメリカ・カリフォルニア州に本部を置く半導体メーカーだ。特にGPU(Graphics Processing Unit)の開発を手がけてきたことで知られている。PCゲーマーであれば、「GTX」「RTX」といったGPUのシリーズも聞き覚えがあるかもしれない。また近年では機械学習やディープラーニングなどの分野で台頭。今年においては時価総額世界一位を達成するなど、実績も勢いもある企業だ。


そんなNVIDIAはTechnical Blogにて、英ケンブリッジ大学のチームによる研究を紹介。研究では犬の心疾患において、電子聴診器を用いた心雑音の検出を、機械学習アルゴリズムによっておこなうことが目的とされている。心雑音とは心臓の鼓動(心音)とは別の音で、心臓弁の開閉や、血液が心臓弁/心臓近くの血管を流れる際に鳴る音だ。一部は病気には結びつかないものの、一般的には、そうした弁などの機能に問題がある際に検出されるという。

研究チームは、犬の心雑音の判断には、臨床的な専門知識が必要であるとしている。加えて正確に雑音を評価するにあたっては、X線検査や心エコー検査など、費用が掛かる検査をおこなう必要がある。さらに獣医の元に犬を預ける必要があり、慣れない環境で心臓へのストレスがかかることも、心雑音の正確な判断を難しくしているという。犬の負担軽減や、診察などにおける費用軽減といった観点から、自動で心雑音を検出できる仕組みが求められている状況があるようだ。

とはいえ、人間の心音解析はこれまで蓄積されてきた大規模なデータセットがあるものの、犬の心音についてはデータが乏しいという。そのため今回の研究がおこなわれているかたちだ。研究においては、GPU「GeForce GTX 10シリーズ」上で、GPU向け開発環境「NVIDIA CUDA」やPythonの機械学習ライブラリ「PyTorch」を用いて学習モデルがトレーニングされ、検出に用いられたようだ。ちなみにトレーニングにあたっては、犬の心臓と似ているという、人間の心臓における心雑音検出用アルゴリズムを活用して調整がおこなわれたとのこと。


この機械学習アルゴリズムを使った研究は、英国のリファーラルセンターに通院している756匹の犬を対象としている。なおこのうち407匹が、代表的な犬の心疾患である僧帽弁粘液腫様変性(MMVD、僧帽弁なる弁の閉鎖不全により血液逆流を生じる)を患っており、215匹がその他の疾患、134匹が正常な心臓であると人の手によって診断されている。これらの犬は心疾患の有無にかかわらず診察され、電子聴診器の記録から、アルゴリズムが心雑音をもとに心疾患を検出できるかが評価された。

診察と検出の結果としては、あらゆる階級の雑音を87.9%の感度で検出できたという。またMMVDには進行度合いによってステージが存在しており、心雑音からアルゴリズムが判断するステージ分類においても、記録のうち57.0%が専門医の判断と一致したという。研究チームはこの結果について、電子聴診器によって犬の心雑音を正確に検出できたとしつつも、実用化に向けてはさらなるトレーニングが必要との議論を残しており、今後はプライマリケアの臨床環境においてデータ収集を進めていくそうだ。なお詳しい分析の内容については研究論文(英語)を参照されたい。

ゲーミングPCなどで利用されることが多いGPUだが、近年ではCPUよりすぐれた並列演算性能を買われ、AI開発・運用においてGPUが用いられるなど、さまざまな分野で存在感を見せている。「動物の医療研究」に利用された今回の例も見るに、さらに活用の場は広がっていくかもしれない。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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