任天堂、「発売前ゲームのプレイ動画を配信」した配信者を提訴。任天堂に挑発メッセージ送り、海賊版ソフトへの誘導までしていた様子


米任天堂(Nintendo of America)は11月6日、とある海外配信者を相手取って訴訟を起こした。主に発売前のゲームを違法に配信することで、米任天堂の著作権を侵害し、海賊版コンテンツの提供、そして流通を助長しているとして、損害賠償および同氏の活動停止を求めている。海外メディアPolygonなどが報じている。

今回米任天堂より訴えられたのは、個人配信者のJesse Keighin氏。同氏は「Every Game Guru」、「everygameguru3」などのユーザー名で、主に任天堂のゲームを含むタイトルのゲームプレイ動画を発売日前に配信していたという。YouTube、Discord、Twitch、TikTok、などをはじめとした複数の配信プラットフォームで活動していた。

Polygonにより公開された訴状によれば、Keighin氏は少なくとも2022年から、最低でも10本以上の発売前の任天堂ゲームタイトルを、50回以上違法に動画配信してきたとのこと。ここ数週間では、11月7日に発売された『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』を発売日前に繰り返しプレイ配信。その他にも『スーパー マリオパーティ ジャンボリー』、『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』などのタイトルを、Windows PCまたは改造されたNintendo Switchを用いて、発売前に違法にプレイ配信したという。

米任天堂は、過去にKeighin氏の違法な配信を削除させるため何十回もの削除通知を提出。実際YouTubeやTwitchなどの複数のプラットフォームでは、著作権侵害を理由にチャンネルが閉鎖されている。しかしKeighin氏はその都度新たなアカウントを作成し、複数のプラットフォーム間で配信を続けられる状態にしていたという。そしてKeighin氏は米任天堂に対し、自身は配信するための「1000の使い捨てアカウント」を持っており、そうしたいたちごっこを「一日中できる」と自慢するような便りを送っていたことも明かされている。


訴状の中では、Keighin氏の配信行為に対して、配信されたゲームが当時発売前のものであったことは特に悪質であり、米任天堂の「公の実演権(right of public performance)」を侵害する行為であるとしている。またKeighin氏は、ゲームを早期に入手する方法を視聴者に提示したり、海賊版ROMファイルの保管場所のリンクや海賊版Switchエミュレーターのリンクを掲載したりしていたという。

米任天堂は訴訟の中で、これらの行為は海賊版のプレイおよび不正コピーを防止する技術的保護措置を迂回しており、海賊版の流通を助長し、奨励していると訴えている。この種の侵害により、ゲームの売上機会損失を通じて同社に数百万ドル相当の損害が生じたと述べられている。

また訴状の中では、Keighin氏の行為が「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」に明確に違反していることも述べられている。ガイドラインの中では「正式な発売日またはサービス開始日を迎えた任天堂のゲーム著作物を、投稿に利用する」ことができるとされており、ガイドラインに従わない投稿に対して、任天堂は法的措置を講じる権利を保持していることも明示されている。


米任天堂は裁判所に、Keighin氏の活動停止、配信された動画の削除、エミュレーターや海賊版ゲームが保存されているハードディスクドライブの押収を要求している。また米任天堂は、著作権法に定められた任天堂の権利の侵害の疑いで 1 件につき 15 万ドル、著作権法の回避および不正取引の防止規定の侵害の疑いで 1 件につき 2500 ドルの賠償を求めている。

なお海賊版やそのプレイにしばしば利用される非公式エミュレーターに対して任天堂は、法的措置など対策の姿勢を強めている。今年2月には、Nintendo Switchの非公式エミュレーター「yuzu」の開発元Tropic Hazeを提訴。結果Tropic Hazeは任天堂側の訴えを認め、約3億円の支払いなどがおこなわれることが決定していた。さらにその後、任天堂はNintendo Switchの海賊版ソフト起動に使われるツールへの誘導にも広範に対処しており、今年7月には海賊版コミュニティのモデレーターが提訴されるなど、その取り締まりを強めてきた経緯がある。(関連記事1234)。

今回の訴訟は、過去のケースのように海賊版ツールの販売業者やその開発者を相手どったものではなく、発売前ゲームのプレイ動画を違法に配信していた配信者に対して起こされたものとなっている。任天堂が海賊版行為に対して、さまざまな側面で取り締まりを強めている動きがあらわれた訴訟ともいえそうだ。今後の行方も注目される。