『TES V: Skyrim』スピードランに新たな裏技、馬と斜面を利用したグリッチでゲーム内をマッハ移動


『The Elder Scrolls V: Skyrim』(以下、TES V: Skyrim)のPC版をクリアするまでのタイムを競うスピードランにおいて、ゲーム内を超高速で移動できるようになるグリッチが新たに発見された。シュールなゲームプレイを披露する解説動画が海外で脚光を浴びている。動画投稿者は先日タイムアタックを更新したばかりの世界記録保持者でもあり、その際にも同様のテクニックを披露していた。「無限スプリント」や「バケツワープ」に次ぐ新たな移動手段は一見の価値ありだ。

 

新たに発見されたHorse Tiltingとは

『TES V: Skyrim』は、2011年にBethesdaからPlayStation 3/Xbox 360/Microsoft Windows向けに発売されたロールプレイングゲーム。『The Elder Scrolls III: Morrowind』『The Elder Scrolls IV: Oblivion』に続くシリーズ5作目で、『Fallout 3』や『Fallout 4』と並んで、Bethesda Game Studiosが手がけるオープンワールドRPGの金字塔といえる。特にPC版では、コミュニティサイトNexusやSteam Workshopを通してModに対応しており、今もなお根強いユーザー層に支持されている。2012年に、3つの追加ダウンロードコンテンツ「Dawnguard」「Hearthfire」「Dragonborn」が発売。先月には、PlayStation 4/Xbox One/PC向けにリマスターした『TES V: Skyrim Special Edition』がリリースされた。

馬の頭が地面にめり込む姿勢がポイント
馬の頭が地面にめり込む姿勢がポイント

主人公をとんでもないスピードで移動させるグリッチ“Horse Tilting”は、その名のとおり地面からの馬の傾きを利用したテクニックである。馬と斜面があれば理論上はゲーム内のどこでも発動できる。YouTubeに投稿された解説動画では、スピードランの序盤から利用する都合上、ゲーム開始地点に近い「Whiterun Stables」の側にある瓦礫でデモンストレーションしている。なお、この場所で馬も手に入る。まず、騎乗した状態で斜面を上る姿勢を保ったままゲームをセーブする(何度も使うのでシングルキーでロードできるクイックセーブを推奨)。次に、馬から降りて高速移動を開始したい位置(今回のスピードラン解説では厩舎の屋根上)へ移動して三人称視点で別のセーブファイルを作成する。

これら2つのセーブデータを交互にロードすることで、通常のゲームでは想定していない物理法則でキャラクターを移動させるという仕組みだ。最初のセーブデータがグリッチを発動させる鍵となる。斜面で騎乗したままのデータをロードし直したら、そのままゆっくり直進して馬の頭が地面にめり込む寸前の前傾姿勢でストップ。この状態から馬を降りようとすると主人公が勢いよく投げ出されるモーションに入る。その瞬間にEscキーを押して移動開始地点でセーブした2つ目のデータをロードすると、プレイヤーは目にも留まらぬスピードでワールドを移動できるようになる。なお、馬から投げ出された距離が長ければ長いほど移動スピードが速くなる。あまりにも高速過ぎると、ジャンプした際などに地面に激突して死んでしまうので注意が必要だ。

“Horse Tilting”は馬から放り出される準備ができた直前のセーブデータを残しておけば、世界のどこからでも何回でも発動できる。また、移動中の事故で死亡した際には、1つ目のセーブをロードし直さずとも移動開始位置のファイルをロードすれば、そのままの速度で再び移動できる。停止したい時はカメラを主観に戻すか、パワーアタックを繰り出せば止まる。なお、動画内では触れられていないが、この現象はキャラクターが馬から吹っ飛んだ瞬間の速度ベクトルが、ゲームメモリに保存されたままの状態で別のセーブファイルを読み込むことで実現していると考えられる。馬から投げ出された距離に応じてスピードが変化しているのはそのためだろう。実際、解説の中でもスタート位置のセーブを読み込んだ瞬間に意図しない方向へ荒ぶる挙動について言及している。

 

これまでにも無限スプリントやバケツワープ

スピードランとは、主にエミュレーター上で起動させたコンシューマーゲームや、PCタイトルの最短クリアを目指すタイムアタックを指す。前者では、フレーム単位で状態保存が可能なツールを使ったTAS(Tool Assisted Speedrunの略、スーパーファミコンやニンテンドー64といったレトロゲームで人気)が一種の競技として親しまれているが、PCゲームでも『Fallout 3』や『TES V: Skyrim』といったオープンワールドゲームに、“Any%”(やりこみ度は考慮しないという意味)クリアで挑戦するスピードランナーが切磋琢磨している。タイムアタックにはゲーム内の記録時間のみを競うものと、ゲーム操作やロードにかかる時間を含めたRTA(Real Time Attackの略)の2種類がある。また、ゲームタイトルによってはグリッチ利用の是非をルールとして明確に定義している。

バケツを抱えて壁をすり抜けるグリッチ
バケツを抱えて壁をすり抜けるグリッチ

今回、『TES V: Skyrim』の“Horse Tilting”グリッチを解説しているFivexual氏は、これまでにもゲームの不具合を利用した“裏技”を複数紹介しており、同作のほかに『Mirror’s Edge』のスピードランにも挑戦している。特に『TES V: Skyrim』の“Any%”は計4回の記録更新を達成。先日には、世界新記録となるゲーム内時間33分6秒(RTAでは42分35秒)でのクリアに成功したばかりだ。また、『TES V: Skyrim』でプレイヤーが結婚するまでの時間(同作にはプレイヤーがNPCの伴侶と結ばれる要素がある)に関しても、3分37秒で現在のワールドレコードを保持している。こうした広大なオープンワールドにおける限界への挑戦には、複数のセーブファイルやクイックロードを利用したグリッチが欠かせない。

これまでに『TES V: Skyrim』のスピードランで活用されてきたグリッチには、「無限スプリント」(スプリントした状態でクイックセーブとクイックロードを瞬時に入力することで、ダッシュ状態を半永久的に維持できるテクニック)や「バケツワープ」(インベントリからMiscアイテムのバケツをドロップした瞬間にアクティベーションキーの長押しにより空中でキャッチし、その状態で壁に突っ込むことでコリジョン判定を無視するグリッチ)などがある。また、ファストトラベル用の地図マーカーをアンロックするためにわざと衛兵に捕まって街の中心まで飛ばされる際や、“Horse Tilting”に必要な馬の購入に必要な資金は、「商人の売却バグ」(買い物画面で売却可能アイテムのカテゴリ部分をキー入力で選択したまま購入対象へ移動して指を離すことで、何故か商人の所持アイテムを空売りできる裏技)を利用するといった具合だ。

このほか、『TES V: Skyrim』にはスピードランへの応用以外にも、ゲームの仕様を巧みに利用した様々な“裏テク”が存在する。たとえば、エッセンシャル属性が付与された不死身のNPCを背後から殴り続けることで序盤から隠密スキルを最大まで上げられたり、「Fortify Restoration Potion」が実は錬金術スキルまで底上げできる裏仕様を逆手に取ったループホール(俗に“Alchemy-Enchanting-Smithing Power-Crafting”と呼ばれるテクニック、EnchantingとSmithingのボーナスを無限に付与することで究極的には何十億という値の武器や防具を作成できる)でゲームバランスを崩壊させたりと、元々ゲームが意図していない遊び方が楽しめるのだ。もちろん、アイテムに付与された数値がオーバーフローを起こして本来ではあり得ない負の値になるなど、乱用しすぎるとゲームのクラッシュやセーブデータの破損に繋がることは言うまでもない。このように、グリッチの扱いには注意が必要だが、特にスピードランへの応用例はもはや一種のアートといえる。