Netflixのワーナー買収表明で『シャドウ・オブ・ウォー』名物、敵が因縁記憶「ネメシスシステム」の特許“解放”署名運動がすぐ始動。スタジオ閉鎖後宙ぶらりんの特許

Netflixによるワーナー買収表明を受けて、『シャドウ・オブ・ウォー』などに採用されたネメシスシステムの特許に早くも注目が集まっている。

先日、映像ストリーミングサービス最大手「Netflix」が、「ワーナー・ブラザース・ディスカバリー」(以下、ワーナー)のスタジオ&ストリーミング部門買収を発表した。720億ドル(約11兆1700億円)規模でおこなわれる大規模な買収により、ワーナー所属のゲームスタジオ群であるWB GamesもNetflixの傘下に入ると報じられている。これに伴って、ワーナーが有する特許「ネメシスシステム」に改めて注目が集まっているようだ。

ネメシスシステムとは、WB GamesのひとつだったMonolith Productionsが手がけた『シャドウ・オブ・モルドール(Middle-earth: Shadow of Mordor)』、および2017年の続編『シャドウ・オブ・ウォー(Middle-earth: Shadow of War)』において採用されたシステムである。両作では敵対種族であるオークのキャプテンたちがプレイヤーとの関係性を記憶し、昇格・復讐・階級争いなどの独自のドラマを展開する点が特徴だ。倒したはずの敵が憎悪を抱いて再登場したり、戦闘での敗北を受けて別の階級へ移動したりと、プレイヤーごとに異なる“因縁の物語”が生成されることで高く評価された。同システムはその独自性ゆえか、2016年に親会社のワーナーにより特許申請されている。

『シャドウ・オブ・モルドール(Middle-earth: Shadow of Mordor)』

一方で、ネメシスシステムを用いたゲームは長らく制作されていない。2021年に発表されたDCコミックスの「ワンダーウーマン」ゲーム化作品『Wonder Woman』は同システムを導入すると謳われていたものの、今年2月のMonolith Productions閉鎖と同時に開発中止。ネメシスシステムの特許はワーナー所有のまま、新しく導入される予定もなく宙に浮いた状態となっている(関連記事)。

今回はそんなワーナーがNetflixに買収されることになり、改めてネメシスシステムに注目が集まっている。発端となるReddit投稿は、Netflixによるワーナーの買収を受けて投稿されたものだ。このまま買収が完了すれば、おそらくネメシスシステムの特許もワーナーからNetflixに移管されるであろうことから、「Netflixはネメシスシステムの特許をライセンス公開し、開発者が広く使用できるようにするべきだ」との主張が述べられた。同時に、賛同者を募るオンライン上の署名活動も開始されている。

注目の理由には、近年Netflixがゲーム事業に力を入れているという背景も関係していそうだ。2021年にはNetflix契約者が自由に遊べるゲームの提供が開始し、今年3月までに無料で提供されるゲームは140本にまで拡充。数十億ドル規模とみられるゲーム分野への投資も積極的におこなわれている(Forbes JAPAN)。このようにNetflixがゲーム事業の拡大戦略も踏まえて、ネメシスシステム再利用の可能性が浮上したようにも見えるわけだ。

Image Credit: Netflix on Web

しかし、現状では買収方針が発表されたばかりの段階であり、各国の規制当局の承認なども経て買収完了に至ることになるだろう。さらに現地時間12月8日にはパラマウント・スカイダンスがワーナーに対し、敵対的買収案を発表したばかり(Reuters)。買収完了までは即座に実際の権利が移転するわけではなく、また権利移転後もNetflix側がネメシスシステムを活用するとも限らない。

さらに、ランダムに生成される複数の状況・関係性が絡み合うネメシスシステムは、開発チームやゲームを問わず利用できるわけでもないだろう。またノウハウを持っていたMonolith Productionsが閉鎖されていることからも、別のスタジオで同様のシステムを開発することは容易ではないかもしれない。上述したRedditスレッドでもそうした点は指摘されており、ワーナー買収方針の発表を受けて即座に「署名活動」にまで発展した点は“気が早すぎる”といった反応も寄せられている。

『Wonder Woman』

いずれにせよ、Netflixによるワーナーの買収方針発表を受けて、あくまで同社が有する特許のひとつにすぎないネメシスシステムが取り沙汰されている点は興味深い。Monolith Productions作品のファン層の厚さや、同スタジオ閉鎖時に同システムが注目を集めていたことも改めてうかがえる。Netflixによるワーナー買収の顛末と共に、注意に浮いているネメシスシステムの今後も注目されるところだ。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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