ヒット中ホラーゲーム開発者、サントラを100万回聴いてもらえたとしつつ“Spotifyの収益がホットドッグ2本分”だったと痛烈ジョーク。実際はもっと貰えそう

『Mouthwashing』のサウンドトラックが、Spotify上で100万再生を記録したと作曲者のMartin Halldin氏が明かした。同氏は「ホットドッグ2本分」と冗談交じりに報告したものの、実際にはさすがにもっと収益が出ているようだ。

Steamにて今年9月27日にリリースされ、「圧倒的に好評」ステータスとなるほどの人気を誇る『Mouthwashing』。本作のサウンドトラックが、Spotify上で100万再生を記録したと作曲者のMartin Halldin氏が明かした。Halldin氏は再生数による収益額を「ホットドッグ2本分」、つまりせいぜい1500円程度であると冗談交じりに報告し、注目を集めている。とはいえ同氏の見立てによると、実際にはさすがにもう少し稼いでいるようだ。

『Mouthwashing』はSFサイコホラーゲームだ。舞台となるのはタルパという名の宇宙貨物船である。タルパはとある貨物の輸送のため星間を航行中だったが、船長が突如クルーたちを道連れに自殺を図る。自殺に失敗した船長は重傷を負って寝たきりとなり、タルパも宇宙で遭難してしまう。

宇宙船のクルーは船長含め5人。船内には数か月分の食料や動力源の備蓄はあるが、救助が来る見込みはゼロ。迫りくる死の恐怖にクルーたちは追い詰められ、やがて狂気に飲まれていく。本作は今年9月27日にリリースされて以降爆発的な人気を博し、Steamユーザーレビューでも本稿執筆時点で約9700件中97%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。

本作の開発を手がけるのはスウェーデン・ストックホルムに拠点を置くWrong Organ。Martin Halldin氏はオーディオリーダーとしてWrong Organに在籍するゲームデザイナー兼ミュージシャンだ。『Mouthwashing』においても、Wrong Organのスタッフとして開発に参加しており、Halldin氏の手がけた全33曲の楽曲はサウンドトラックとしてYouTubeSteam上で公開、配信されている。また音楽サブスクリプションサービスSpotifyでも、本作のサウンドトラックが配信されている。

Halldin氏は11月16日、Spotify上で本作のサウンドトラックが100万回再生されたことをX上で祝った。先述したような人気作であり、サウンドトラックも多くのユーザーに聴かれているようだ。一方で同氏は翌17日に、Spotifyで再生されたことによる収益で「ホットドッグが2本くらい買える(I can buy like two hot dogs with the revenue)」と冗談交じりにその稼ぎを語った。ホットドッグといえば、欧米でも安価なファーストフードの代名詞。国や地域、店舗によって当然差はあるものの、一般的には数ドル程度だろう。つまりホットドッグ2本分という収益は、高く見積もっても10ドル(約1500円)前後といったところだろうか。100万回という再生数に比べて、収益はかなり安価な印象を受ける。そして後述するようにこれは同氏の冗談で、実際にはもっと大きな収益が入る見込みのようだ。

それでは同氏にはどの程度の収益がもたらされるのか。まず前提としてSpotifyから楽曲権利元・アーティストに支払われるロイヤリティの仕組みを見てみよう。Spotify公式サポートサイトによると、ロイヤリティは通常1か月に1回、レーベルやディストリビューター(代理店・配信元)を通じてアーティストに向けて支払われる。また純収益としては、税金や販売手数料といった経費が差し引かれたうえで、権利者の取り分が決定される。

そうした事情を踏まえて先述の投稿を振り返ると、プラットフォームの手数料、さらにはディストリビューターを通じた手数料などでアーティストへの純収益は額面より減っていくだろう。またそもそもSpotifyを含めサブスクリプションサービスにおいては1再生あたりの単価が独自に算出される報告例も見られ、高々1円程度、中には0.5円未満とされるサービスもある。1再生ごとに収益が発生するかどうかはサービスによっても違うものの、いずれにせよ単価は低い傾向にあるといえる。ホットドッグ2本分というHalldin氏の冗談は、そうした数々の事情より最終的に手元にほとんどお金が残らないような傾向を皮肉った表現かもしれない。

とはいえHalldin氏によれば、100万回も再生されればさすがにホットドッグ2本分よりは大きな収益が入る見込みのようだ。同氏はユーザーのリプライに対し返信するかたちで推定額を明らかにしている。

Halldin氏によれば、Spotifyに『Mouthwashing』のサウンドトラックを配信する際にはディストリビューターとして「DistroKid」が利用されたようだ。Spotify側はDistroKidにまだ収益について報告していないそうで、実際には収益を受け取っていない、とのこと。同氏いわく10回再生あたり約0.04ドル(6.2円)のレートとなっているため、理論上は約4000ドル(62万円)稼いだことになるだろうとのこと。

ただHalldin氏によれば、収益計算ツールによって大きく結果が異なるようで、実際に統計が出るまで正確な額は不明としている。また先述のSpotify公式サポートページでも、「再生ごと、またはストリーミングごとの歩合でアーティストにロイヤリティを支払っているわけではない」と明記。Spotifyでの月間のストリーミング総計のうち、権利者ごとに所有または管理している楽曲の割合が計算された「ストリームシェア」に基づき、権利者の取り分が決定されるという。再生回数とは違った指標で決定されるとみられ、実際の支払額は“ホットドッグ2本分”とも、4000ドルとも違うかもしれない。

ちなみに収益が実際にHalldin氏の手に渡った場合の使い道も述べられている。Halldin氏いわく、受け取るであろう収益がもし4000ドルであれば、税金などを差し引いても、数か月分の給料に相当するようだ。しかしながら、スタジオをより長く存続させもっと多くの作品を作るために、全額をWrong Organに還元することを表明している。

今回冗談も交えつつ、『Mouthwashing』のサウンドトラック配信における収益を権利者本人が推計し、公開したのは興味深い。ホットドッグ2本分ということはないだろうが、Halldin氏から実際の収益額が今後報告されるかどうかも注目されそうだ。いずれにせよ、サウンドトラックのストリーミングサービスへの展開は、小規模開発作品でも収益の底上げに繋がることを示す一例かもしれない。

『Mouthwashing』はPC(Steam)向けに配信中だ。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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