プロゲーマー “PHiZZURP” 氏の追悼式、Twitchで視聴者に向けライブ配信。変わりゆく葬送文化

10月9日、交通事故で亡くなったプロゲーマーの "PHiZZURP" こと Phillip Klemenov氏の追悼式が行われた。遺族をサポートするため、故人の友人がクラウドファンディングプラットフォームのGoFundMeにて葬儀費用の寄付を募り、追悼式当日の様子は故人のTwitchチャンネルにてライブ配信された。

10月9日、交通事故で亡くなったプロゲーマーの “PHiZZURP” こと Phillip Klemenov氏の追悼式が行われた。遺族をサポートするため、故人の友人がクラウドファンディングプラットフォームのGoFundMeにて葬儀費用の寄付を募り、追悼式当日の様子は故人のTwitchチャンネルにてライブ配信された。当日には9000人以上のファンが動画を通じて故人の死を偲んだ。Twitchのコメント欄というのは暴言が飛び交うこともままあるが、この日だけは違う。動画はいまでもチャンネル上に残されており、再生回数は本稿執筆時点で8万回を超えている。

Klemenov氏は、2011年に『Call of Duty』のe-SportsチームであるTeam FeaRに加入し、プロゲーマーとしての活動を開始した。その後いくつかのチームを渡り歩いたのち、2016年に『Call of Duty』部門を新設した英国のプロチーム H2k-Gamingに参加。ARサポート役としてチームに貢献してきた。また、プロゲーマーとしての活動と並行してライブストリーミング配信サービスのTwitchにて『Call of Duty』シリーズのプレイ動画を配信してきた。こうしてプロゲーマー “PHiZZURP” の名が広まりつつある中、10月2日早朝、車両の転覆事故がもたらした損傷により命を落とす。わずか23歳であった。

同乗していた恋人のAdrianna Lemuss氏は軽傷を追ったが無事存命である。現地警察のレポートによると事故の要因は飲酒および制限速度を超えた運転と見られているが、Lemuss氏はアルコールの影響を否定する姿勢を貫いている。後日Lemuss氏は故人との思い出の動画や写真をTwitter上にアップロードしており、ファンによるモンタージュ動画や肖像画の投稿があとに続いた。故人へのトリビュートの多くはTwitterのハッシュタグ「#RIPPHIZZURP」に寄せられているほか、所属していたプロチーム H2k-Gamingも、Facebookアカウント上で弔いの言葉を残している。また、10月16日にはe-Sportsイベント主催者のUMG OnlineがKlemenov氏を追悼して『Call of Duty: Black Ops III』の大会「#Phizzurp10K」を開催したことからも、Klemenov氏の貢献度の高さがうかがえる。

 

変わりゆく葬送文化

告別式や葬儀の様子をネット配信するということ自体は目新しいものではない。もちろん一般公開ではないが、一人での移動がままならない方や、遠地に住んでおり参列できない方への配慮から、日本でも選択肢のひとつとして取り入れている葬儀社は存在する。米国においても2000年代以降、ネット配信の需要が増えていると報じられてきた。サウス・カロライナ州の葬儀会社 Posey Funeral Directorsの葬儀ディレクター Walker Posey氏によると、依頼主の約4分の1がネット配信のオプションを利用するという。配信するためのテクノロジー自体は90年代から存在した。だが供給と同時に需要が急増したわけではなく、徐々におとずれた変化である点は、変革に時間を要する日本の葬儀業界と似ているだろう。

ひとつ念頭に置きたいのは、ネット配信で葬儀を体験した場合の精神的な影響については研究が進んでいないということ。葬儀をリビングルームに持ち込むことで死を可視化しやすくなるという声もあれば、実際に遺体を前にすることができず十分なグリーフケアがなされないとの意見もある。また、他の関係者と一緒に弔い、悲しみをともにする機会を失うというデメリットもある。ネット配信は伝統的な葬儀を置き換える万能ツールではなく、あくまで選択の幅を広めるオプションとして捉えるべきだろう。

葬儀費用をクラウドファンディングでまかなうというのも、珍しい行為ではなくなりつつある。クラウドファンディングで葬儀費用を取り扱うサイトとしては、前述のGoFundMeのほか、YouCaringGiveForwardなどが存在する。ただし、GiveForwardによると「貢献者の8割は故人や遺族と関わりのある人」であり、クラウドファンディングで費用のすべてをカバーするのは難しい。Klemenov氏の場合、クラウドファンディングでは2万ドルの獲得を目指しており、現在14日間で1万8000ドル以上を集めている。彼を愛する根強いファンがいるからこそ、短期間で支援が集まったといえる。

 

視聴者にまで広がる弔いの輪

今年6月に故モハメド・アリ氏の葬送パレードが公開されたように、著名人の場合には公で弔う機会を設けることがある。また、ソーシャルメディア上でファンたちが集い、故人に敬意を表す文化というのも定着しつつある。こうして要素ごとに切り取っていくと目新しい部分はないはずなのに、なぜゲームメディアにとどまらずビジネス寄りのニュースメディアまでがKlemenov氏の追悼式を取り上げたのか。そこには「配信者と視聴者」という、相互コミュニケーションが存在する比較的新しいかたちの関係性があるからだろう。

Twitch上のライブ配信者と視聴者というのは、従来の有名人とファンとの関係とは異なる。少なくとも視聴者にとっては、より親しい間柄として接することになる。1対複数ではあるがコメント欄を通した会話が日常的に交わされ、ときには「この配信者を支えたい」という気持ちを寄付というかたちで伝えることもある。日常の一部になっているだけに、視聴者にとって配信者の死というのは、単なるスターの死とは意味合いが違ってくる。

Klemenov氏の遺族としても、参列できない親族はもちろんのこと、視聴者にも弔いの場が必要だと考えたからこそ、追悼式のライブ配信に踏み切ったのであろう。遺族の計らいにより、心を整理する場として追悼式の入り口が広く開かれた。たしかに動画のコメント欄には「彼が配信を望んていたわけがない」「この配信はあまりに無礼だ」「これを見るのは気まずい」といった批判の声も多い。だが同じ分だけ「配信してくれてうれしい」「この機会は必要だった」「配信してくれてありがとう。この最後の機会に彼を讃え、さよならを言いたい」といった感謝の言葉も残されている。視聴者を故人の人生の一部として迎え入れた遺族の思いやりに、敬意を払いたい。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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