『マリオカート64』“なんでもありRTA”の世界記録が1年ぶりに更新。もはやアイテムにも頼らないバグ利用で驚異の短縮

Image Credit: Beck Abney on YouTube

NINTENDO64向けのゲーム『マリオカート64』の「すべてのカップを最速でクリアする」時間を競うスピードランにおいて、Beck Abney氏が22分57秒240を記録。この記録は世界記録となり、最速記録が1年ぶりに約1秒更新された。とあるコースのタイム大幅短縮が記録更新に繋がったようだ。

『マリオカート64』は、1996年に国内で、翌年1997年に世界で発売されたNINTENDO 64向けレースゲームだ。またSpeedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームクリアなどの目標を達成するまでの時間を競う競技だ。スピードランの対象であるゲームのレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comなどの集計サイトで確認することができる。

Image Credit: Beck Abney on YouTube


今回世界記録が更新されたレギュレーションは、NINTENDO64の実機を用いた「All Cups(Skips)」カテゴリ。「All Cups」には「Skips」と「No Skips」が存在しており、「Skips」カテゴリでは、コースのスキップや壁ジャンプ、グリッチ(バグ)の利用が許可されている。壁にぶつかって周回したことにしたり、ときには逆走したりしつつ、とにかく早くゴールすることを目指すのだ。

記録を更新したBeck Abney氏は、『マリオカート64』のスピードランをおこなっているRTA走者だ。Abney氏は7月29日、『マリオカート64』RTAの「All Cups(Skips)」カテゴリにおいて、自身のもつ旧世界記録、22分58秒680を約1秒更新し、22分57秒240とした。


Abney氏は、「All Cups(Skips)」において長い期間世界記録を所持しており、2015年に世界一位となってから、2022年にkazn氏によって抜かされるまでトップであり続けていた。2023年7月に記録した旧世界記録も、初めての23分切りとなる好タイムを残している。本稿執筆時点では、23分切りはAbney氏のみが達成している記録だ。そんな好記録を残しているAbney氏が、今回なぜさらにタイムを短縮できたのか。それはスペシャルカップの「ヨッシーバレー」におけるテクニックが関係しているようだ。

本作のヨッシーバレーは、峡谷を走り抜けるコースだ。道も入り組んでおり、ひとたび踏み外して谷底に落ちてしまうと大幅なタイムロスとなる。しかし本コースでは、スタート地点付近からコースを外れて柵を飛び越え、峡谷の壁にぶつかりながら落ちていくことで、コースをほとんど走らずに周回したと判定させるグリッチが存在している。加速時間の短さや、ミニターボを発生させつつ最適なコースをとる必要などもあり、かなり高難易度なテクニックといえる。

Image Credit: Beck Abney on YouTube


「ヨッシーバレー」でのグリッチは、アイテムの「トリプルキノコ」を使用して柵を越え峡谷の壁にぶつかるのが一般的だ。とはいえアイテムを使う場合、当然アイテムを取りにいく手間が生じる。このアイテムを取りに行く時間は確かに短縮の余地ではあるのだが、先述の通りグリッチは難しく本コースがカップにおいて終盤のコースということもあり、ミスを嫌ってか、ほかの走者やAbney氏の過去の記録でも、キノコを用いた手法が採用される傾向にあった。

しかし今回の世界記録ではアイテムを用いず、スタートダッシュとミニターボの加速のみでこのグリッチを達成させている。Abney氏は先述の高難易度グリッチを3周ともノーミスで達成。最終的にはヨッシーバレーだけで約20秒の短縮を達成している。

その後Abney氏は、「ヒュードロいけ」と「レインボーロード」もミスなく走破。フラワーカップやスターカップでは自己記録からかなりの差がついてしまっていたが、「ヨッシーバレー」でのアイテムなしグリッチが決め手となり、結果として自身の持つ過去の世界記録を1秒更新し、新世界記録の樹立となったかたち。


Abney氏は記録更新に際して、X上に「今まででもっともハンパない結末(the most insane ending ever)」と驚異の更新について投稿。「ヨッシーバレー」を含むスペシャルカップだけに限っていえば、世界記録を5秒も更新したそうだ。とはいえ、Abney氏のコースごとの記録を確認すると、フラワーカップとスターカップを中心として、まだ更新の余地が残されているだろう。Abney氏は世界記録を更新した翌日からもさっそくAll Cups(Skips)カテゴリへの挑戦を重ねている。同氏の最速を求める研鑽はまだまだ続きそうだ。