
『ファイナルファンタジーIX』のビビ、『マジック:ザ・ギャザリング』の環境を支配する。開発元は「禁止時期」を急遽前倒しへ
『マジック・ザ・ギャザリング』では、《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止指定が示唆されている。

ゲーム会社のWizards of the Coast(以下、ウィザーズ社)は9月10日、トレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』における次回禁止制限告知を11月10日に前倒しすることを発表した。背景には、《迷える黒魔道士、ビビ》による環境支配が存在する。
『マジック:ザ・ギャザリング』はトレーディングカードゲームだ。1993年にアメリカで初めて発売され、世界初のトレーディングカードゲームとも呼ばれる。プレイヤーは多元宇宙を渡り歩く「プレインズウォーカー」となり、呪文を唱えて相手のライフを0にすることなどを目指す。「土地」から呪文を唱えるためのマナを出すシステムや、相手の行動などに対応して後出しで唱えられる「インスタント呪文」などが生み出す戦略性の高さが特徴。デジタル版の『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』も基本プレイ無料で配信中だ。

本作の遊び方としてはさまざまなフォーマットが存在し、日本でもっともメジャーとされる「スタンダード」は、直近3年間の間に発売されたセットを使ってデッキを組むフォーマットだ。年一回訪れるローテーションにより、環境が大きく変化する。そんなスタンダードでは現在、《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止指定を巡って議論が巻き起こっている。
《迷える黒魔道士、ビビ》は今年6月にリリースされた『ファイナルファンタジー』シリーズとのコラボセット『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』に収録のカード。同セットは記録的な売上を達成し、ウィザーズ社の親会社Hasbroは決算説明会にて、発売初日で2億ドル(約300億円)もの売上を達成したと報告していた(関連記事)。《迷える黒魔道士、ビビ》はそんな人気セットの“トップレア”とも呼べるカードだ。

《迷える黒魔道士、ビビ》は、3マナの青赤のクリーチャー。自身のパワーに応じてマナを生み出す能力と、クリーチャー以外の呪文を唱えるたびに、対戦相手にダメージを与えつつ自身を強化する能力を持っている。前者の能力は毎ターン1回しか使えないという制限があるものの、軽量なドロー呪文などを連打するだけで自身のサイズがみるみる上昇するため、簡単に大量のマナを出せるようになる。非クリーチャー呪文を次々と唱えることで戦場のクリーチャーを強化して戦うデッキ「イゼット果敢」にて採用されることが多い。最近では《アガサの魂の大釜》を採用し、墓地に落ちた《迷える黒魔道士、ビビ》の能力を別のクリーチャーで使いまわす動きが特に強力だ。
6月にアメリカ・ラスベガスで開催された大会・プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』では、参加者のうち実に42.3%ものプレイヤーがイゼット果敢を選択(Magic.gg)。その他の大会でも軒並みイゼット果敢が環境を埋めつくし、現在支配的なデッキとして君臨している。
9月10日、ウィザーズ社は公式サイトにてそうした状況に言及。次回に予定されていた禁止制限告知の時期を前倒しするかたちで、11月10日におこなうことを発表した。現時点では禁止されるカードが決定したわけではないものの「《迷える黒魔道士、ビビ》はスタンダード環境を歪めており、おそらくは退いてもらう必要があるでしょう」と名指しで言及されており、禁止される方向で検討されているとみられる。

ところで、『マジック:ザ・ギャザリング』では2023年以降、禁止改定は基本的にローテーション前の年一回のみとし、緊急の場合には各セットの発売後3週間後に告知するという方針が採られている。今年7月に実施されたスタンダードのローテーションでは、7枚の禁止カードが発表されていた。イゼット果敢からも《コーリ鋼の短刀》という強力なカードが禁止されたものの、《迷える黒魔道士、ビビ》は禁止をまぬがれる結果となった。
《迷える黒魔道士、ビビ》に緊急的な禁止指定が実施されなかった理由としては、カードがコミュニティで売買されるというトレーディングカードゲームの性質上、強力で高価なカードには安易に禁止を出しづらいという状況もあるとみられる。過去には、「モダン」フォーマット向けのコラボセット『指輪物語:中つ国の伝承』では、《一つの指輪》の禁止が遅れた理由を、他IPとのコラボかつ高額カードであるからとする推察も散見された。今回も大きな注目を浴びた『ファイナルファンタジー』シリーズとのコラボセットのカードということもあり、なるべく禁止カードを出したくなかったという思惑も垣間見える。

また、近年の『マジック:ザ・ギャザリング』では禁止カードの“乱発”を忌避する風潮も存在する。2017年から2020年にかけての約4年間で、実に23枚ものカードが禁止指定されたという状況に批判が高まったことを受け、先述した年一回の禁止制限告知を基本とする方針の策定に至っていた。ただ、デジタル版の『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』の普及により、ユーザーによる研究速度が大幅に加速したことも、特定のカードが環境を歪め禁止に至るケースが増えた要因と考えられている。30年以上の歴史を持つ『マジック:ザ・ギャザリング』はまさに変遷期を迎えており、禁止改定を巡る動向は注目される。
『マジック:ザ・ギャザリング』の最新セット『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』は9月26日発売予定。『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/iOS/Android向けに基本プレイ無料で配信中。
