夏へ向けて盛り上がる『League of Legends』プロシーン。欧米を中心に今年前半を振り返る
世界中でもっとも遊ばれているMOBAタイトルである『League of Legends(LoL、リーグ・オブ・レジェンド)』。日本を含む各地のプロリーグでは、ハイレベルな戦いが日々繰り広げられている。そんな中で最も長い歴史をもち、多くのプレイヤーに注目されるリーグが、ヨーロッパ(EU)および北米(NA)でRiot Gamesが直轄で運営している「League of Legends Championship Series(LCS)」だ。競技シーンの黎明期から運営され、多くの記憶に残る勝負とスター選手を生み出してきた「EU LCS」「NA LCS」は世界中のリーグの中でも最も華やかなリーグであると言えるだろう。
しかしここ数年間はアジア勢が著しい台頭し、これら2つの欧米リーグは存在感を失ってしまっていた。各地のリーグ戦こそ盛り上がるが、その年の最後に行われる世界大会「World Championship Series(Worlds)」においては、中国や韓国の強豪の前に歯が立たず、欧米のファンは肩を落とす。そんな風景が常態化していたのだ。
そんな状況をまず打ち破ったのは2015年のEU LCSだった。選手のタレント頼りなチーム運営をやめ、アジア勢と同様にアナリストやコーチを雇用し、細密なゲーム解析とそれに基づいた戦略の構築を行い、ゲームの水準を一気に引き上げることに成功したのだ。その勢いはWorldsでも発揮され、中国が組織のゆるみから失速するのと対照的に予選リーグを勝ち上がり、ベスト4に2チームを送り込むことに成功したのだ。一方でNA LCSは改革が遅れ、選出されたトップ3チームすべてが予選リーグ敗退となり、ハッキリと明暗の別れる結果に終わった。
次なる2016シーズンへ向けた移籍市場は、2つのLCSを揺るがす大きな地殻変動を引き起こした。「EUエクソダス」と呼ばれる選手の大量流出である。EUの復権を印象付けた無敗チーム「Fnatic」の立役者であるHuni選手やReignover選手、キャプテンのYellOwStaR選手や、長年EUの看板選手として人気のあったFroggen選手などがこぞってNAの新チームや強豪チームへと移籍していったのだ。その結果、NAは多くの選手を獲得して2016シーズンを迎え、EUは再び新たな選手やチームの台頭の余地を残した状態で新たなリーグの幕を開けることとなった。2つのリーグが2016 Spring Split、プレイオフ、そしてMid-Season Invitationalを経てどのような現在を迎えたのかを振り返る。
EU LCS
G2の躍進
なんといっても、この春のEUを語る上で外すことができないのが「G2 Esports(G2)」の躍進だ。このチームは2015シーズン終了時の入れ替え戦において古豪「SK Gaming」を見事に打ち破って昇格を果たした新チームだった。過去の昇格チームには、トップリーグの洗礼を受けて苦戦するチームも少なくないが、G2は生え抜きのMidであるPerkz選手を軸に、Spring Split開始前に行った補強が的確に機能し、一気にトップへと駆け上がることに成功した。プレイオフでもゲーム全体をコントロールする戦略において敵チームの追随を許さず、優勝という見事な結果を出している。
活躍する新チーム
もう一つの新チームの活躍も特筆するに値するだろう。「Team Vitality」は、2015シーズンの終盤にスポンサーを失った「Gambit Gaming」が、売却を経て実質的な新規チームとなったチーム。旧チームから残留しているCabochard選手の活躍を始めとして、元H2kのBot担当コンビの安定した活躍によって、リーグ上位を占めることに成功した。EUからWorldsへの参加枠は3つあるので、Summer Splitの仕上がり次第で十分に参加を狙えるところにつけている状態だ。
名選手の本領発揮、古参チームの苦闘
「H2k-Gaming(H2k)」はチームをまとめ上げていたKaSing選手を含めた3人を入れ替えて新シーズンに臨んだ。そして現在、その刷新は非常にうまく機能しているように思われる。旧Gambit Gagmingから移籍してきたADCのFORG1VEN選手は、母国での兵役にまつわる問題が発生することがあったものの、安定したパフォーマンスを発揮し、今シーズン3位につけている。2015シーズンにはSK GamingのSpring Split制覇の立役者でもあった彼は、再び自分を最大限に活かすことのできるチームを見つけられたと言えるだろう。
一方で苦しい戦いを強いられたチームもある。昨年夏に無敗を誇った「Fnatic」はHuni選手とReignover選手の抜けた穴が大きく、新加入の韓国人選手たちも思うようには活躍しきれていない。パッチごとに刻々と変化する環境と選手のプレイングとの相性もあるだろうが、単なる技術の問題ではないだけに対応が困難であろうことも想像できる。「Elements」もやはり苦戦している。レギュラーシーズンは最終的に6位となり、入れ替え戦に落ちることこそ免れたものの、リードを奪われるとそこから逆転するための積極的な行動が取れず、ずるずると追い込まれていく試合が多かった。このままだとSummer Splitでは降格圏という可能性もある。「Team ROCCAT(ROCCAT)」はこの春の間、全体的に精彩を欠いた戦いが多かった。さらに追い打ちをかけるように、Gambit Gamingから移籍してきたベテランのEdward選手がビザの問題から出場不能になるなどのトラブルも発生。入れ替え戦こそ勝利し、LCSからの降格を免れたもののSummer Splitが始まる前に何らかの強化が必要となるだろう。
北米で10月に開催予定のWorld Championshipでは、EUからの参加枠は従来どおり合計3枠となっており、内訳は以下のとおり。
- EU LCS Summer Splitプレイオフ優勝
- 2016シーズンChampionship Point累計1位
- Regional Finals優勝
そしてEU LCS参加チームの現在のChampionship Point順位は以下のとおりとなっている。
- 90ポイント G2 Esports
- 70ポイント Origen
- 50ポイント Fnatic
- 30ポイント H2k-Gaming
- 10ポイント Team Vitality
- 10ポイント Unicorns Of Love
- 0ポイント FC Schalke
- 0ポイント Giants Gaming
- 0ポイント Team ROCCAT
- 0ポイント Splyce
プレイオフへはレギュラーシーズンの1~6位が進出し、そこでの結果で累計Championship Pointが変動する。世界大会への切符を手にするのはどのチームだろうか。
NA LCS
Imortals coming!
2015 EU LCS Summer SplitにおいてFnatic無敗の原動力となったHuni選手、Reinover選手をはじめとするトップチーム経験者で構成された「Immortals」は当初の期待に違わぬ、あるいはそれ以上の活躍を見せた。Huni選手の圧倒的なパフォーマンスだけでなく、荒れ気味の試合展開からも勝利をもぎ取るその実力で全18試合中17試合に勝利するという結果を残した。ただ気になる点としては、プレイオフにおいて「Team SoloMid(TSM)」に対して3連敗して敗退していることだろうか。この対戦は、チャンピオンの選択が攻撃的に過ぎることにつけこまれる試合展開となっていた。Summer Split以降のゲームの変化に対し、どのように順応していくかが注目される。
Counter Logic Gamingの快進撃
一方、このリーグ中無敗のImmortalsにただ一度土をつけたのが「Counter Logic Gaming(CLG)」だ。昨年のCLGは悲願であった2015 NA LCS Summer Split制覇、そしてWorldsへの再出場を果たした。しかし望まれるのはさらなる飛躍。2016シーズンに先がけ、CLGは長年の看板選手だったDoublelift選手、そしてMidで活躍したPobelter選手を放出。チームの体制を刷新して新たなシーズンに臨んだ。その結果は上々で、Immortalsの圧倒的なパフォーマンスには後塵を拝しているものの、彼らの全勝を阻んだ上でリーグ2位を手にすることに成功した。さらにはプレイオフでTSMとの伝統の一戦を制して1位を獲得し、2015シーズンは優勝。Spring Splitの勝利が偶然ではないことを証明してみせた。彼らのさらなる勇躍については後述する。
後継者求む
2014シーズン以来、Hai選手の去就でチームの成績が大きく上下している「Cloud9(C9)」は、今シーズンに関しては安定した形を手に入れたようだ。強力なJungleであるRush選手の加入とSupportにポジションを変更したHai選手のショットコールにより、現在のNA LCSでも十分に戦える陣容を整えることに成功している。ただ、この状況はC9の戦績の多くがHai選手一人の負担によるところが大きいということの裏返しでもある。夏からは控えとしてHai選手のもとでショットコールの訓練に明け暮れていたというBunnyFuFuu選手がスターティングロースターに起用されるとのこと。かつての王者の新たなスタートに期待しよう。
新しいタレントと、去りゆくチーム
2016 NA LCS Spring Splitは、多くのチームが新しい選手を集め、あるいは新チームとして立ち上げて挑んできたシーズンとなった。たとえば「NRG eSports」は韓国からやってきたMidのGBM選手がデビュー戦となる第一週で4回のバロンスティールを決めるなど、ゲームを大きく動かすプレイで会場を沸かせていた。NRGはSpring Split全体でも初参加のチームとしては悪くないパフォーマンスを披露し、歯車がかみ合わない状態で苦戦していた強豪のTSMよりも上に位置する5位でレギュラーシーズンを終えることに成功している。
一方で、力尽きてLCSを去っていったチームも存在する。「Team Dignitas」だ。競技シーン黎明期からその名を連ねる古参チームとして北米のプロシーンの一角を占めていたが、昨年後半からチームは調子を落とし、2016 Spring Splitではついに最下位でレギュラーシーズン終了。入れ替え戦も敗退して降格し、チームは解散となった。選手たちはそれぞれに新たなチームを見出すことができたようだが、歴史ある一つのチームがその幕を閉じることとなった。
WorldsへのNAからの参加枠も従来どおり合計3枠。
- NA LCS Summer Splitプレイオフ優勝
- 2016シーズンChampionship Point累計1位
- Regional Finals優勝
そしてNA LCS参加チームの現在のChampionship Point順位は以下のとおりとなっている。
- 90ポイント Counter Logic Gaming
- 70ポイント Team SoloMid
- 50ポイント Immortals
- 30ポイント Team Liquid
- 10ポイント Cloud9
- 10ポイント NRG eSports
- 0ポイント Apex Gaming(夏より昇格)
- 0ポイント Echo Fox
- 0ポイント Phoenix1(TIPの参加権を継承)
- 0ポイント Team EnVyUs(Renegadesの参加権を継承)
プレイオフへの出場ルールはEU LCSと変わらない。春と夏の間のオフシーズンに、規定違反により2チームに公式大会追放という裁定が下され、参加チームの顔ぶれが大きく変化したNA LCS。場合によっては大番狂わせも起こるかもしれない。
Mid-Season Invitational(MSI)
Spring SplitとSummer Splitの間に、各地域で頂点を獲得したチームを集めて行われる国際大会、それがMSIだ。基本的には北米、欧州、韓国、中国、台湾、IWCIの各枠に対して1チームずつの合計6チームによって行われるこの大会は、各地域の王者同士が戦うことでその時点での力関係を測る大会であり、また普段戦うことのない強豪同士の対決を観戦できるまたとない機会でもある。今回この大会に参戦するのは、復権した北米の王者CLG、欧州の新星G2、韓国からは圧倒的な力で世界をねじ伏せた「SK Telecom T1(SKT)」、中国からは勇猛果敢なる「Royal Never Giveup(RNG)」、台湾の飢狼「Flash Wolves(FW)」、そして日本の「DetonatioN FM」などワイルドカード地域の強豪を下してやってきたIWCI枠のトルコの強豪「SuperMassive eSports」だ。
2015シーズンのWorlds同様に韓国と欧州が勝つのか、あるいは他の地域が意地を見せるのか。そんな予想や希望が交錯するなかで始まったリーグは幾つかの点で予想を覆し、我々を楽しませてくれた。
G2の失速
EU LCSに初参戦ながら圧倒的なパフォーマンスで1位を獲得したG2。しかし今回の大会では各大会の日程と組織のわきの甘さが仇になってしまった。大会直前の練習試合を行うために必要な対戦相手を確保できず、調整不足のままMSIに臨むことになってしまったのだ。これは、EUのプレイオフなどが他の地域、特にアジアの各リーグよりも早く終わってしまったことが原因で、アジアで最後のリーグ戦が行われている頃には、彼らは既に勝利を手にちょっとした中休みに入っていた。その結果はパフォーマンスにストレートに反映されてしまい、直前までしのぎを削って戦っていた他チームに大きく差をつけられることになってしまった。
Counter Logic Gamingの戦い
2015シーズンのWorldsでは、全チームが予選リーグ敗退となった北米。今回北米から名乗りを上げたCLGは、昨年とは全く違うタフなチームとしての復活を世界に向けて宣言する形になった。今シーズンの北米は、チームを分散させてマップ全体を幅広く使い、相手と無理に戦わずにリードを広げ、次第に相手の選択肢を奪うような戦術が多く見られた。これを洗練させてMSIに臨んだCLGは、昨年であれば対抗することも難しかったであろう中国をはじめとする他チームに対抗、RNGに対しては1万ゴールドもの差をつけられた状態から、「あまりにも好戦的過ぎる」という中国チームに見られる弱点を突き、見事な逆転で勝利をもぎ取ってみせた。北米の新たな強さを世界に見せることに成功したのだ。
王者の矜持
2015シーズンのWorldsにおいて、同じ韓国チームとの戦いにおける1敗を除き、全ての試合で勝利するという圧倒的な強さで世界を制覇したSKT。しかし、その後のメンバー変更に伴いSpring Splitにおいては昨年ほどの圧倒的な強さは失われたとも見られていた。確かに予選においてはいくつかの試合を落とし、グループステージをギリギリの4位で通過していたのは確かだ。しかし、決勝トーナメントにおいては小規模な競り合いを積極的に仕掛けてリードを奪いに来る中国のRNGも、マップ全体を見渡した上での正確な判断を常に要求してくる北米のCLGも、いずれに対しても自分たちの戦い方をぶつけて圧勝してみせたのはSKTであった。王冠は未だ我が手に在り――そんな声が聞こえるような強さを見せつけてくれたのだ。国内・国外問わず、Summer SplitからWorldsへ向かってますますヒートアップする『LoL』プロシーンにおいて、このチームは常にあらゆる対戦相手の膨大な敵意とそれを上回る敬意とを集め続けるのだろう。
就労ビザ問題
LCSをはじめとする『LoL』トップリーグは選手に対して給料が支払われるプロリーグであり、当然ではあるが、外国籍となる選手は就労ビザの取得が義務付けられている。しかし、ビザに関わる問題はデリケートであり、その手続きは煩雑かつその時々の国際情勢や社会(というよりは政府)の態度に左右され、さらに言えば少なからぬ時間のかかる事務手続きである。特に未だ成長途上にあり、前例もなければ社会の認知度も低いe-Sportsにおいては、ビザの問題はビジネスとして一般化していく過程で避けては通れない問題として、シーズンごとにその存在をあらわにする。
ロシア圏出身の選手と国際情勢
さて、日々のニュースで語られていることだが、現在ロシアとヨーロッパ諸国の関係は良くない。ロシアによるウクライナやクリミアへの介入により関係は悪化し、経済制裁などのさまざまな応酬とともにその往来は困難になりつつある。そのため、これらの地域からEU LCSに参加予定だった選手の就労ビザが降りていないという状況が今年2月に発生していた。元Gambit GamingのJungleだったDiamondprox選手は、労働ビザが取得できなかったためにEU LCSでの試合参加が認められず、そのままチームを脱退することとなった。ロシアや旧ソ連関係国の国籍を持つ選手たちは、過去にもシーズンごとにビザのトラブルで参戦が遅れることはあったが、それでも1か月程度でそれらの問題は解決できていた(もちろんその間の不完全なチームは負けつづけ、順位への影響は小さくなかったが)。今回のビザ問題については選手たちの側から解決を断念。Alex Ich選手(ロシア国籍)は2015年より北米シーンで活動中だが、彼に続いてDiamondprox選手(ロシア国籍)は北米チームへ移籍し、Edward選手(アルメニア国籍)はロシアリーグであるLCL参加中の「Vega Squadron」に加入。『LoL』プロシーン黎明期から活躍していたロシア出身の選手たちは、EU LCSより姿を消すこととなった。
移籍市場の加熱とビザ手続きのコンフリクト
国際情勢とは別に、日程上の問題も存在する。Spring Split開始直前に電撃的な移籍を発表したFroggen選手は、米国でのビザ申請が遅くなってしまい、Spring Splitの第2~4週の間、試合への参加資格を失っており、チーム「Echo Fox」は代理の選手を起用していた。Froggen選手不在の間、チームの戦績は0勝5敗。全てのチームはシーズン開始ギリギリまで、インパクトのある話題を提供し、最高のチームを作るために選手を求める。Split開始時に選手が万全な体制でリーグに参加できない可能性として、移籍市場の過熱はシーンに影を落としている。
今回の記事では、春の欧米プロシーンと、今年の中間決算である世界大会「MSI」についてを振り返り、シーンに発生している問題点についても触れた。続くシリーズ記事では、まもなく始まるSummer Splitについて、各リーグの情勢を俯瞰していこう。
[執筆協力: ユラガワ@Wired-Lynx]