『Balatro』開発者、“失敗を楽しむために”他のローグライクゲームをまったくプレイしなかった。でも『Slay the Spire』だけはうっかり夢中になっちゃった
『Balatro』を手がけたLocalThunk氏は3月6日、自身が同作をリリースするまでを振り返ったブログを公開した。波乱万丈の道のりが綴られている。

個人開発者のLocalThunk氏は3月6日、自身の手がけた『Balatro』の開発開始からリリースに至るまでの約2年半の道のりを振り返るブログを公開した。その中で、開発にあたって『Balatro』と同じようなシステムのローグライクゲームをまったくプレイしなかったこと、そして『Slay the Spire』のみは参考にしたことなどが明かされている。
『Balatro』はトランプのポーカーを題材にしたデッキ構築型ローグライクゲームだ。開発はLocalThunk氏が手がけている。本作ではデッキからカードを8枚引き、そこから最大5枚選択してポーカーの役を作る。また、150種類にも及ぶジョーカーカードなど、多種多様な効果を持つ特殊カードを活用し、カードの相乗効果で膨大なスコアを叩き出すのだ。同作は2024年の「Game of the Year」の複数部門にノミネートするなど高評価を獲得。また、今年1月には累計売上が500万本を突破するなど、大ヒットを記録している(関連記事)。
LocalThunk氏が投稿したブログによると、『Balatro』の開発がスタートしたのは2021年の12月13日だ。12月末には、チップと倍率をかけ合わせてハイスコアを狙う現在の『Balatro』の基本的な仕組みができていたという。同じころ、同氏は他のローグライクゲームを一切プレイしないことを決めたそうだ。
これは同氏のゲーム作りに対する方針に関連している。同氏はもともと趣味の範疇としてゲームを制作しており、広くリリースすることによって利益を得るつもりはなかったという。そのためローグライクやデッキ構築ゲームのゲームデザインを自らの手で探求し、一から築き上げること自体がゲーム作りの目的のひとつだったそうだ。時には時間と労力をかけて既に存在しているシステムを作ってしまう「車輪の再発明」や間違いを犯すことさえも、同氏にとっては楽しみの一部だったという。より「しっかりした」ゲームを目指すより、ゲーム制作そのものの楽しさを優先したかたちだ。
その後、LocalThunk氏は、パートナーの転職にあわせもともと勤めていた会社を退職。そしてゲーム開発者として転職するため、当時「Joker Poker」という名前だった『Balatro』をSteamでリリースすることを決めた。同氏はSteam向けに展開にするにあたってチュートリアルやコントローラー入力の実装など、多数のプレイヤーが遊ぶことを想定した要素の実装を進めた。そこで『Slay the Spire』を初めてプレイしたという。『Slay the Spire』は『Balatro』と同じくデッキ構築型のローグライクゲームで、2019年にPC向けに正式リリースされ高い人気と評価を獲得した作品だ。のちにPS4/Xbox One/Nintendo SwitchおよびiOS向けにも展開されている。

LocalThunk氏が『Slay the Spire』をプレイしたのは、カードゲームにおけるコントローラー入力がどのようにデザインされているかを確認するためだったが、そのうち夢中になってプレイしてしまったという。同氏はその時のことを「that is a game(これこそゲームだ)」と振り返っており、『Slay the Spire』の素晴らしいゲームデザインを「盗んで」しまうため、今までプレイしていなくて良かったと記している。これは同氏の開発方針とは相容れない行動に映るが、この時期すでにゲームの基本的なアイデアや仕組みは出来上がっていたとのことで、強く影響されずに済むと判断したのかもしれない。
その後はPlaystackとのパブリッシング契約やデモ版のリリース、ストリーマーの配信などにより『Balatro』は順調にウィッシュリスト登録数を獲得。リリースが近づくなか、最終調整のひとつとして、『Slay the Spire』の登塔モード(Steam版ではアセンション)を参考にした高難度モード「ステーク」が実装された。LocalThunk氏は「Told you I’d steal from it(盗むと言ったでしょう)」と記しており、結局はゲームシステムについて、同作から多少の影響を受けていたようだ。

その後、無事に『Balatro』は正式リリースされ、ご存じの通り大人気となった。Steamユーザーレビューは本稿執筆時点で約11万件中98%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得し、昨年開催された「The Game Awards 2024」では「Best Debut Indie Game」をはじめとした計3部門で受賞(関連記事)。ユーザーと批評家双方から高い評価を受けることになった。他のローグライクゲームをほとんど参考にしなかったことが、既存のゲームデザインにとらわれない作風を生み出し、絶大な人気を博したのかもしれない。また、LocalThunk氏自身がユーザー目線で本当に作りたいものをのびのびと追求していたことも、大ヒットの一因となった可能性はありそうだ。
同ブログでは他にも興味深い裏話が語られている。なお以前にも過去海外メディアがLocalThunk氏におこなったインタビューでは、『Balatro』の開発秘話が語られていたものの、(関連記事)今回のブログ投稿では、「プレッシャーで心身の調子を崩し、不眠になった」「パブリッシャーとの行き違いで、さらに追加で30枚のジョーカーを作った」などと、波乱万丈な開発期間の裏話がさらに詳細に語られている。興味のある方は、「The Balatro Timeline(英語)」を読んでみるのもいいだろう。
『Balatro』はPC(Steam)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Android/iOS向けにダウンロード版が現在配信中。Nintendo Switch/PS5向けにはパッケージ版も販売されている。