事故で視力をほとんど失った『League of Legends』プレイヤー、自力で“数秒だけ視力回復させる技”を編み出しマスターランクに到達。執念が生み出した「リアルスキル」
事故に遭って視力をほとんど失ってしまった『League of Legends』のプレイヤーが、独自の“スキル”を生み出し、同作のランクマッチに復帰したという。

『League of Legends』(以下、LoL)のとあるプレイヤーが転落事故により視力をほとんど失った後、ランク戦での上位ティア「マスター」に復帰した。“数秒間だけ視力を回復させる”という独自の方法を編み出し、同作に復帰したことに驚きの声が上がっている。Dexertoなどが報じている。
今回話題となっているのは、イギリス在住の『LoL』プレイヤーでありTwitchストリーマーのNoArmWhatley氏だ。同氏は昨年の秋、窓を閉めようとした際に窓枠が壊れ、3階の高さから転落する事故に見舞われた。この事故により、外傷性脳損傷や数カ所の骨折など、命に関わる大けがを負った。その後脳の圧力を軽減するための頭蓋切開術を含む数度の手術を受け、同氏の状態は奇跡的に回復。2週間の昏睡状態と7週間の入院を経て退院を果たした。なおその際、同氏はXで『LoL』をプレイするのが待ちきれないと語っていた。
しかし、退院したNoArmWhatley氏に待ち受けていた最大の問題は、視力の喪失だった。事故後の配信で自身の目の状態について図解しながら説明したところによると、左目は黄斑下出血により中心部が暗くなり、視界の端のみがわずかに見える状態に。そして右目は硝子体出血によって濁った視界になり、飛蚊症のような症状も発生。さらに、寝ている間に血液が眼球の後ろに溜まり、目覚めると完全に視界を失うこともあったという。

Image Credit: NoArmWhatley on X

Image Credit: NoArmWhatley on X
それでもNoArmWhatley氏は、『LoL』への復帰を諦めなかった。彼が編み出したのは、「アニメーションキャンセル」と名付けた視力回復の技だ。これは、まばたきをしながら素早く上を向くことで眼球内の血液を下側に流し、数秒間だけ視界をクリアにするというもの。この短い時間で状況を確認し、プレイを続行することが可能になる。
『LoL』には、攻撃やスキルのモーションを途中でキャンセルし、素早く次の行動に移る「モーションキャンセル」や「アニメーションキャンセル」と呼ばれるテクニックがある。同氏の技はこれになぞらえて命名されたものだろう。なお、この技を短時間に頻繁に使用すると目に痛みが生じるため、文字通り「クールダウン」が必要なスキルとなっている。また、これにより眼球内の血液が下に飛び散ってしまう(the blood in my eye gets propelled down)とも同氏は述べており、目の健康にとって良くない行動だと思われることには留意したい。

NoArmWhatley氏はこの技を習得するため、入院中に2か月間のトレーニングを実施。眼科医にこの技を披露した際には驚かれたという。同氏はこの技を活用し、『LoL』のシーズン2024・スプリット3において、事故前に常連だった上位ティア「マスター」に復帰。なおマスターランクは、NoArmWhatley氏のプレイする西ヨーロッパ地域(EUW)サーバーでは、全プレイヤーの上位約0.7%に値する(OP.GG)。視力のハンディキャップを背負っても、なお変わらぬ強さを見せつけたわけだ。
ちなみに、『LoL』には盲目の修行僧「リー・シン」というキャラクターが登場する。視力と引き換えに龍の精霊を操って攻撃を繰り出すキャラクターだが、これになぞらえてNoArmWhatley氏のユニークなプレイスタイルに対し、コミュニティではリアル「リー・シン」と称賛する声も上がった。しかし、本人は「完全に見えないわけではないので、どちらかというと血液を操る魔術師ブラッドミアの方が近い」とジョークを交えつつ回答している。

なお、ゲーム界には目が見えないまま、対戦ゲームをプレイする猛者も存在する。BlindWarriorSvenことSven Van de Wege氏は、全盲でありながら『ストリートファイター6』をプレイするユーザーだ。同氏は「EVO 2023」でエドモンド本田を使い1勝し、その後同作の上位ランク「マスター」に到達。ハンディキャップを感じさせないゲームプレイに、称賛の声が寄せられていた(関連記事)。なお『ストリートファイター6』には障害を持つプレイヤー向けに、音だけで相手との距離や攻撃の種類などを判別できるサウンドアクセシビリティ機能が搭載されている(関連記事)。そうしたサポート機能の充実が、全盲プレイヤーの活躍につながっている部分はあるだろう。

一方で、『LoL』には同様のサウンドアクセシビリティ機能は存在しない。ピンや効果音の音量を調整するオプションはあるものの、音だけでゲーム状況をすべて把握することは難しい。またゲームのシステム上、画面を見つつ精密なクリックを続ける必要もあり、視覚に障害を持つプレイヤーにとっては厳しい環境だ。そんな中、NoArmWhatley氏はゲームではなく自らの身体を“工夫”し、適応するという異例のアプローチでプレイを継続した。目に負担をかけうる荒業ではあるものの、『LoL』に対する情熱を示すエピソードとして注目に値するだろう。
なお、NoArmWhatley氏は2025年中に両目の手術を受ける予定とのこと。術後の経過が良好であればさらなる回復も期待され、「アニメーションキャンセル」を用いて目に負担をかける必要もないだろう。今後、NoArmWhatley氏がどのようなプレイを見せてくれるのか注目したい。そして何より同氏の目が回復に向かうことを祈るばかりである。
『League of Legends』はPC向けに基本プレイ無料で配信中だ。