『Destiny』はBungieが2014年9月に国内外でリリースしたオンラインシューターだ。『Call of Duty』などで知られるActivisionとパブリッシング契約を結び、巨大シリーズへの発展を目指す完全新規IPとして登場した。だが蓋を開けてみるとメディアやプレイヤーから寄せられる『Destiny』への評判はそれほどよくなく、現在も具体的なセールス数や売上に関しては公表されていない状況である。ここ最近ActivisionとBungieは拡張コンテンツ「降り立ちし邪神」を40ドル(4900円)で販売したり、マイクロトランザクションを導入したりと、新たなビジネスモデルを模索しているようにも見える。
そんな中、開発筋からのリーク情報に強い海外メディアKotakuが、複数人のBungie関係者からの情報を長期にわたって調査した結果を詳細に報告している。それによれば、『Destiny』が発売される2014年9月の約1年前、同作のストーリーは一度白紙に戻され、一から作り直されたのだという。
ストーリーが発売1年前に白紙へ
Kotakuへと情報を伝えた6人の開発者によれば、当初BungieではJoe Staten氏率いるライターチームが、カットシーンやストーリービーツを含む2時間分の映像「スーパーカット(Supercut)」を制作していた。ところがこの映像を2013年夏に内部で披露した際、BungieのリードデザイナーJason Jones氏ふくむ上層部はあまりにも型どおりな娯楽でリニアだと判断し、Staten氏のストーリーを破棄してもう一度最初から構築することを決定したそうだ。Staten氏の意に反し、プロットの流れは解かれ、キャラクターは完全に作り変えられ、セリフも大部分が書き換えられた。
Kotakuでは、ストーリー上の大きな変更点がいくつか伝えられている。たとえば2013年夏以前のバージョンでは、「ラスプーチン」が当初大きな役割を担っており、プレイヤーたちが「Alien Hive」から彼を救出したあとは、メインストーリーにも大きく関わる存在になる予定だったという。「オシリス」は、もとは「Star Wars」におけるオビ=ワン・ケノービのようなキャラクターで、プレイヤーを導く存在だったと情報提供者の一人は伝えている。またE3 2013のゲームプレイトレイラーで登場した青いAwokenは「クロウ」と呼ばれるキャラクターであり、初期のミッションでプレイヤーと出会い、「オシリス」を共に探す予定だったそうだ。この「クロウ」は製品版にて、Awokenの女王の弟「Prince Uldren」として登場している。
開発者の一人は、このストーリーの立て直し前、『Destiny』はゲーム部分よりもさらにストーリーへとフォーカスした内容であったと話す。ストーリーミッションはキャラクターの声明と共に始まり、ミッションの文脈を示す30秒から45秒ほどのカットシーンが挟まれ、最終的に各ミッションごとに3分から5分ほどのカットシーンが存在していたという。
ここまでの話を読み解くと、Bungieの上層部が素敵なストーリーを白紙に戻したと捉えてしまいそうになるが、情報提供者たちの「スーパーカット」自体に対する反応は様々だ。ある人物は「(元案は)ただただ滅茶苦茶で、意味をなしていない難解なストーリーだった」と話す。また別の人物は、「最高にクールな要素、力強い要素ががいくつかあった」と称賛している。ただいずれの人物も、Bungie上層部が「スーパーカット」を気に入らなかったことに関しては認めている。E3 2013から約1か月後の2013年7月、大枠の設定を残しつつ、『Destiny』のストーリーは完全にリブートされることが決断される。
「非リニアな物語」に沿ってリサイクル作業続く
リブート後にリードデザイナーJason Jones氏が特に目指したのは、「非リニアな物語」つまりは1本道ではないストーリーだ。Jones氏はコアメンバーを集めて“Iron Bar”と呼ばれるミーティングを実施し、新しいプロットを構築しつつ、いかに過去数年間で制作したストーリーミッションを当てはめるかを話し合った。結果として、Bungieは残された各ストーリーミッションを細切れにし、新たなキャンペーンとして再構築することを決定した。
原案のストーリーと、後にIron Barで考えられたストーリーのどちらが素晴らしかったのかは不明だ。だがJason Jones氏らの決断により、一度形作られていたコンテンツはすべてバラバラに崩され、そして新たなプロットラインに沿って再構築されたことは事実であるようだ。そしてこの決断が、『Destiny』の最終的なあの評価へと繋がった可能性は高いだろう。
この再構築は2013年7月に開始されたが、その当時、発売は2014年3月に予定されていた。作業は急ピッチを要されたと開発者たちは口を揃えて言う。この夏、ストーリーの原案を考えたJoe Staten氏はBungieを去ることになり、9月になって退社の事実がメディアへと伝えられている。
Bungieは当初2014年3月のローンチが可能だと考えていたが、同スタジオはリリース時期を先延ばしにすることをActivisionに頼むことになる。そして発売が2014年9月へと延期されたあと、Bungieはゲームプレイが完璧に動作するよう、既存のコンテンツを洗練することを優先し始めたという。開発者の一人は、当時ライターチームが仲間はずれにされていたとも、「ストーリーはライター無しで書かれたんだ」とも伝えている。コアメンバーによるミーティングIron Barでプロットが構築され、既存のコンテンツをつぎはぎするよう開発者に指示し、そしてゲームプレイを洗練するよう伝える日々が続く。
なお複数の関係者たちは、Bungieが『Destiny』と共に構築していた新規ゲームエンジンに付随するエディターに関しても苦言を呈している。このゲームエンジンはプレイヤーマッチメイキングなどで強力なパワーを発揮した一方で、付随していたエディターの使い勝手は悪く、新たなマップやミッションを作るという面では基準以下の代物であったという。冗談か本気か、開発者の一人は以下のように話す。
第1段の拡張パックは当初「Comet」と呼ばれており、40ドルではなく60ドルにてリリースされる計画だったという。新しい惑星「エウロパ」や、「欧州のデッドゾーン」と呼ばれる地球の新エリアを収録する予定だったが、2014年3月には一つのマップへ絞ることを決定し、最終的には現在の「降り立ちし邪神」へと落ち着くことになる。なお2015年5月には、High Moon Studiosが『Destiny』の開発に参加したことが明らかにされていた。
2014年9月、ついにゲームはローンチされたが、開発者たちはその評価にショックを受けていたという。
ローンチの後に
Bungieのスタッフたちは発売後からオンライン上でフィードバックを集め、高い評価を得ることができなかった『Destiny』のテコ入れを始めることになる。第1段DLC「The Dark Below」は配信前にリブートされ、2014年12月には『Diablo III』のディレクターJosh Mosqueira氏やBlizzard Entertainmentのメンバーたちが開発に参加する。ストーリーの構築方法やランダム性の低減など、彼らの参入は開発チームにとって大きな影響を与えたようで、その考えは拡張「降り立ちし邪神」にも取り込まれたようだ。
参考記事: 『Destiny』の楽曲めぐるBungie訴訟に決着、解雇された『Halo』シリーズ作曲家が完全勝利
なお元BungieのコンポーザーMarty O’Donnell氏が、『Destiny』での楽曲を巡り同スタジオとの裁判にまで発展したのは記憶に新しい。けっして高評価を得なかった『Destiny』の開発の裏側には、様々な問題があったのかもしれない。すでにBungieおよびHigh Moon Studiosは『Destiny 2』の開発にもとりかかっている。