とある新作アドベンチャーゲームにて、“配信時はエンディングもミュートせずフル配信して”とのお願いあり。クリエイターに収益を還元する、ある仕組み

開発者のSCIKA氏は7月5日、『Inverted Angel』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)。リリースにあわせて動画配信ガイドラインも公開されており、その中のやや奇妙な一文が話題を集めているようだ。

開発者のSCIKA氏は7月5日、『Inverted Angel』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)。リリースにあわせて動画配信ガイドラインも公開されており、その中のやや奇妙な一文が話題を集めているようだ。

『Inverted Angel』は、恋人を名乗る見知らぬ女性の正体にAIによるニュアンス判定とともに迫る、Kawaii FutureミステリーADVだ。本作では、ある日主人公の住むアパートの部屋へ、主人公の恋人だと主張する、まったく見覚えのない女性が突然訪ねてくる。この女性はいったい何者なのか。主人公は彼女の正体を探るため、なんとか話をあわせながら推理と会話が繰り広げられることになる。

本作ではプレイヤーが自由に入力した推理の内容によって物語が分岐する。推理を入力すると、AIが自然言語処理によって“だいたいのニュアンス”を判定。入力した推理が、用意された正答の一つとある程度合っていれば先に進むことができる。一般的なテキストアドベンチャーゲームの選択肢の代わりに、自由入力とAIによる判定で物語が分岐していくつくりとなっているのが本作の特徴だ。

そんな本作について、Steamストアページ上に記載されている、本作の動画配信ガイドラインの一部が注目を集めている。ガイドラインでは、主題歌を含む最終エンディングが流れるタイミングについて明記されており、その中には「最終エンディングを配信する場合、ゲーム音声はミュートしないようにしてください」という一文が記載されている。

一般的によく見られる配信ガイドラインでは、ネタバレ禁止などを理由とした、ゲーム終盤や最終エンディングの配信禁止が記載されていることがあるだろう。そのほか既存曲の引用があれば著作権者に配慮し、主題歌を流すことを禁止するという内容も考えられる。しかし本作ではむしろエンディングを積極的に流してほしいというお願いとなっており、一見すると妙に思えるかもしれない。

この文章には続きがある。続く文章では「YouTubeで配信される場合は主題歌のContent IDを通して広告収益がクリエイターに分配されます。」と記載されている。ここで言及されているContent IDとは、YouTube で採用されている自動コンテンツ識別システムのことだ。YouTubeは著作権の所有者から送信された音声ファイルと映像ファイルのデータベースを使用し、アップロードされた動画から著作権で保護されたコンテンツと一致するものを自動的に特定。そして一致が見つかった場合、Content ID の申し立てが自動的に生成される。

その申し立ての際、Content IDに登録している著作権者の設定により、動画の収益化をすることも可能になっている。収益化をする際は動画に広告を掲載。そしてアップロードしたユーザーと著作権保有者が広告収益を分配することも可能だ。YouTube側で著作権者に収益を分配するシステムが、あらかじめ構築されているということになる。

そしてガイドラインで言及されている「クリエイター」とは、本作の開発者SCIKA氏のことであると考えられる。同氏は本作の主題歌「Inverted Angel」も手がけており、主題歌のボーカルは中村さんそ氏が担当。SCIKA氏のYouTubeチャンネル上では主題歌も公開されているほか、各種音楽配信サービスでも主題歌が配信されている。

その主題歌も、YouTube上にアップロードされているクレジットや各種音楽配信サービスの権利者表記を見る限り、SCIKA氏及び中村さんそ氏が著作権を所有しているものとみられる。そのため、本作の配信においても主題歌の利用を禁止するのではなく、クリエイターに広告収益をきちんと分配するために、主題歌を含めた最終エンディングの配信をむしろ奨励しているのだろう。Contents IDのしくみを利用し、プレイ動画の配信者と本作のクリエイター双方に利益のあるシステムを構築する、ユニークな試みといえる。

なお、配信ガイドライン上では本作の最終エンディングのタイミングは明記されているものの、そこに至るまでの推理の過程については言及されていない。本作の推理は自由入力のため、自身が今まで選択した内容と推理のロジックの合理性をつねに照らし合わせる必要があり、プレイヤーの推理力がフルに試されるゲームとなっているようだ。興味のある方は本作をプレイし、彼女の隠す真相にたどり着くことができるかどうか挑戦してみるとよいだろう。

『Inverted Angel』は、PC(Steam)向けに発売中。価格は通常800円のところ、本稿執筆時点で、リリース記念セールとして7月13日まで20%オフの640円で購入可能(いずれも税込)。

Jun Namba
Jun Namba

埼玉生まれBioWare育ちです。悪そうなやつはだいたいおま国でした。RPG全般が好きですが、下手の横好きでいろいろなジャンルに手を出しています。

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