下請けの日々を乗り越え作った自社ゲーム、結果は「スタジオ閉鎖」。KickstarterとSteam早期アクセスを経たインディースタジオの終焉

 

海外のインディーデベロッパー「GRIN Gamestudio」は、公式ブログにて開発チームを解散したことを明らかにした。未払いの負債を支払うことができず、すでに破産申請を行っているという。

奇しくも2009年に閉鎖を発表したスウェーデンの「GRIN」スタジオと同じ名ではあるが、「GRIN Gamestudio」はまったく別のゲームデベロッパーだ。2002年に設立され、当初はオンラインやブラウザゲーム、アプリケーションの開発などの下請けに従事していた。ここ数年間はゲーム開発の基盤を少しずつ築き、初の自社タイトルである『Woolfe – The Red Hood Diaries』を2015年3月についにリリースした。残念ながらその5か月後に、スタジオの歴史は幕を閉じることとなった。

2015年3月に『Woolfe』のリリースを発表して以降、公式ブログでは続報が途絶えていた。スタジオ設立メンバーの1人Wim Wouters氏は5か月ぶりの更新で、「ここ数か月にわたり公式が沈黙していたので事情は察してもらえていると思う」とコメントしている。「対話をほぼしなかったのはファンを軽視していたわけではない……恥じていたんだ。一部のメディアやプレイヤーたちから寄せられた批判的なコメントは、あまりにも衝撃的だった。『Woolfe』は最大の情熱に駆られて我々が作り上げてきたプロジェクトであり、君たちを失望させても構わないと思うのは無理な話だ」。

夢物語の結末は「終焉」

『Woolfe』は童話「赤ずきんちゃん」をテーマにしたシネマティック2Dアクションゲームだ。赤ずきんちゃんが斧を振り回しながら父ジョセフの死を追う復讐劇を描く内容で、ダークな雰囲気やUnreal Engine 3にて描かれる美麗なビジュアルが話題となった。2014年8月にKickstarterで約2300人から7万2000ドルを集めると、翌年1月にはSteam早期アクセスにて配信がスタート。小規模なデベロッパーでは難しいQAテストをユーザーと共に進めつつ、3月にはフルリリースへと至った。

Kickstarterで資金獲得に成功し、早期アクセスを経て無事リリースに至った『Woolfe』。その軌跡は一見順調に思えるが、Wouters氏は「売り上げ数が出始めると、我々の美しき冒険の結末は痛々しく明らかになっていった」と語る。結末は、『Woolfe』だけでなく、13年前に設立し大事に守ってきたスタジオまでもが終焉するというものだった。

2002年にWouters氏は2人のメンバーと共にGRINを設立したという。最終的な目標は「インディペンデントゲームを開発すること」。当初のGRINはブラウザベースの3Dゲーム開発にフォーカスしようとしていたが、けっして参入が容易な市場ではなく、2年も経たないうちに設立メンバーのうちの2人は仕事がなく退社することになった。

ひとりになったWouters氏は、外部から仕事を請け負うようになった。Wouters氏は海外メディアPolygonの取材に対し、過去の仕事内容を伝えている。フォークリフトシミュレーター、就学前の児童向け学習用アプリ、広告関連のコンテンツ。本来の目標からかけ離れた仕事をこなしつつ、氏はGRINを着実に成長させていった。2013年に入ると、GRINにはクライアントから依頼されたゲーム開発を専門に行うフルタイムの従業員が5人おり、少ないながらも資金に余裕ができる状況になっていた。

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そういった少ない貯蓄資金、Kickstarterで集めた開発資金で開発された『Woolfe』は、リリースされるとメディアやユーザーたちからそれほどよくはないレビューを浴びることになる。980円と低価格帯のタイトルではあるが、特に出来の悪いアクション部分が足を引っ張り、低い評価を与えられた。

Wouters氏のメッセージからは、売り上げがけっして順調ではなかったことがうかがえる。しかしこれ以外にも、新たなアイディアを『Woolfe』に投入したことで開発コストがかさんだことも、スタジオ倒産の原因であるようだ。特にゲームプレイが2Dから3Dへと切り替わるシーンを導入したことで、全体的な開発コストには大きな影響がでたという。2Dから3Dへと切り替われば、たとえば単純だった当たり判定(Collision)は一気に複雑化し、作業量は増大することになる。

Wouters氏はこの仕組みにより、プレイヤーがオープンワールドゲームのような開放感を感じられると考えていたようだ。しかしこの2Dと3Dの切り替えを導入した際、当たり判定はゲーム中で上手く設定されず、そこに障害があるのかないのかわかりづらい状況となった。Wouters氏も、爽快感がないと批判されている戦闘アクションと共に、障害物もプレイヤーから不評を買っていたことを認めている。

自分たちの「子供」必ず成功すると信じていた

公式ブログでは冷静に『Woolfe』の失敗を解析しているWouters氏だが、当初はユーザーやメディアから押された「ゲーム自体の出来が悪い」という烙印を認められなかったという。『Woolfe』は成功すると、Wouters氏らは信じていた。

「私は楽観主義で、そのために“大規模な”インディーゲーム開発は実際に可能だと信じてしまった。開発コストをカットする解決案として、インディーゲームをピクセルでレンダリングしたり様式化する必要はないと私は証明したかった。6人から10人のチームが、トリプルA級に見えて感じるようなゲームを作れると信じたかったんだ。間違っていたけどな!

なによりもまず、私達は自分の“子供”が成功しないなんて思えなかったんだ。我々は感情的にゲームを原因としない説明を探し始めていた。ゲーマーたちはしつけのなってない悪ガキで、なにもかも叩いているのかもしれない。インディー市場は飽和しつつあるのかもしれない。巨大スタジオのFree-to-Playゲームが、プレイヤーたちの価格感覚を狂わせたのかもしれない。どうやったら『Woolfe』のような美しいゲームが10ドル以下で高いと感じる?これは我々の失敗なのか?

もちろん前述した感情的な言い訳が、Steamレビューで平凡なスコアを獲得したという理由ではない。我々は我々自身を責めるしかないんだ……」

Kickstarterでリワードとして約束されていたステッカーやポスター、アートブックやサウンドトラック、DVDケースなどを生産する準備はできていたものの、現在GRINにはそれらを輸送する切手代も残っていない。3月にリリースした『Woolfe(Volume 1)』に続き後編として製作予定だった「Volume 2」も、「Volume 1」のリリース後の評価でパブリッシャーは軒並み手を引いている状況だ。公式ブログではIPやアセットを売却するとして続編に一縷の望みをかけているが、『Woolfe』の物語が完結するのは難しいと見るのが妥当だろう。

Wouters氏は自身の妻やGRINの従業員、GRINに投資したすべての人々に感謝の意を示している。そして最後にこのようなメッセージを送っている。「今やっていることを止めるんじゃない、君には夢を叶えるパワーがある、ただし落とし穴には気をつけるんだ。背負っているリスクに気を使え、今の私のようなことにはなりたくないだろう。頑張って取り組んできたものすべてを失いたくないだろう」。

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KickstarterやSteam早期アクセスを利用し、開発がいつまでも遅延したり停滞したりする例が昨年多く報じられたが、今年に入ってからはこれらのシステムを利用したものの上手くマネタイズができなかっという話がよく出ているように感じる。早期アクセスで成功を収めたスタジオが存在する一方で、『Defense Grid』で知られるHidden Pathが『Windborne』で、またアート系インディーゲームの雄Tale of Talesは『Sunset』にて失敗したことをみずから認めている。