先月、無料タイトルとして生まれ変わった『Evolve Stage 2』のプレイヤー人口が、1か月経過した現在も平均で1万5000人以上を維持している。2015年2月の発売以降、ユーザー数が急激に減少し、今年6月には平均100人程度という虫の息だった本作。プレイヤー人口の回復を図る狙いで大幅な改善を施し、無料化に踏み切ったことで顕著になったコミュニティの変化を、開発元Turtle Rock Studios(以下、Turtle Rock)のゲームデザイナーが振り返っている。まさに自然消滅寸前だったコミュニティの活気が、一時は時代の寵児となった“魔法のような盛り上がり”を再び取り戻した背景から、オンラインゲームにおけるコミュニティの重要性を紐解いていく。
プレイ人口を1万4380%増やした起死回生の一打
『Evolve』は、2015年2月に2K GamesからMicrosoft Windows/PlayStation 4/Xbox One向けに発売されたファーストパーソン・シューティングゲーム。4人のハンターと1体の巨大モンスターに分かれて対戦する非対称的なゲームデザインが特徴で、『Left 4 Dead』シリーズを手がけたTurtle Rockの新作として、発表当時から絶大な支持を得た。その後、2014年の「E3」と「Gamescom」の両方で「Best of Show」を獲得するという快挙を達成。受賞・ノミネートあわせて65件以上のメディアアワードに輝き、名実ともに時代の寵児となった。しかし、ローンチ間際に噴出したファンの不満から状況は一転。発売時に平均で9000人程いたプレイヤーは、わずか1か月でおよそ7割が離れていった。その後も人口減少は留まることを知らず、今年6月の平均ユーザー数はわずか106人。まさにコミュニティが終焉を迎えようとしていた矢先、先月7日からPC版に限り無料化がスタートした。
そもそもユーザー離れの主な要因の一つは、以前から指摘されている大量の有料ダウンロードコンテンツを軸にしたモジュール型の販売形態であるといわれている。『Evolve』は元々、トリプルA級タイトルのスタンダード価格といえる60ドルで発売された。それにも関わらず、新たにリリースされていく追加キャラクターを使用するには別途料金を支払う必要があった。販売元の2K Gamesが、追加コンテンツをセットにしたシーズンパスや、高額なデジタルデラックス版を発表した際、ファンからはコンテンツの切り離しであるとの批判が殺到。コミュニティはゲーム内容そのものよりも、ビジネスモデルについての議論一色に染まった。後に無料化が決定した際、Turtle Rockの共同設立者であるChris Ashton氏は、「DLCのクソみたいな嵐は全力で人々の熱意を吹き飛ばしてしまった。魔法のような初体験の原点から、私たちをどんどん遠くへ引きずり回すように」と、ローンチ時の失速を振り返っている。
特筆すべきは、『Evolve』が対戦主体のマルチプレイヤーゲームであるにも関わらず、ゲームバランスを直接左右しかねないキャラクター自体がマイクロトランザクションの対象になっていた点である。近年、『Dota 2』『Heroes of the Storm』『League of Legends』といったMOBAタイトルをはじめ、一部ジャンルでは多くの対戦ゲームが基本無料のビジネスモデルを採用している。コレクティブルカードゲームの『Hearthstone』も例に漏れない。一方、『Counter-Strike』や『Call of Duty』シリーズのように、FPSジャンルの対戦ゲームは従来の販売形態を採ることが多い。初期費用は定額だが、全てのユーザーがほぼ同じコンテンツにアクセスできる。中には、『Overwatch』のようにゲーム本体が定額の代わりに、随時登場する新キャラクターは全て無料で配信される例もある。『Evolve』は少々メインストリームから外れていたのかもしれない。
もちろん、ローンチ時ピークで2万7000人いたプレイヤーが、たった1か月で7割もコミュニティを去った理由は、単にコンテンツが高額だったからというだけではない。単純に、ほとんどのユーザーが飽きてしまったからだ。海外メディアEngadgetを通して、本作のリードデザイナーBrandon Yanez氏が、その本質に迫っている。『Evolve』は、4対1というゲームデザインの非対称性から、比較的シビアな学習曲線(練習量と反応時間の関係を表すカーブのこと)を描くタイトルだといわれている。つまり、4人のハンターの役割分担が重要になる連携プレイや、多勢を相手にするモンスターのソロプレイの本質を十分に理解し、効果的に実践できるようになるまでには、相当の時間を要するということだ。初心者のうちから真髄を余すところなく堪能するのはかなり難しいだろう。特に、モンスター側は第3形態に進化するまでひたすら逃げに徹する必要があり、ハンター側はひたすら追いかけ回すハメになる。この鬼ごっこのプロセスこそが、一見スピード感あふれるゲームのようで、“ランニングシミュレーター”と揶揄される所以なのだという。
「元のプレイヤー人口が減少して膨大な量のフィードバックを見なおした後、ゲームを完全に作り直す必要性に気が付きました。よりテンポよく進行し、各々の役割に依存し過ぎず、もっととっつきやすいゲームへと」。生まれ変わった『Evolve Stage 2』では、これまでトラッパーにしか設置できなかったドーム型の捕獲装置が、ハンター全員の共有ガジェットとして使用できるようになった。また、モンスター側は開始直後から全ての能力が発揮できるよう、初期段階で割り振れるスキルポイントが増えている。一方、アグレッシブなプレイが可能になった反面、新たなトラッパー専用ガジェットとして広範囲を頻繁に索敵できる「プラネットスキャナー」が追加されるなど、モンスターが進化するまでの“隠れんぼ”がかなり難しくなった側面もある。結果、試合の鍵を握るトラッパーを優先的に奇襲するといった戦法が取りづらく、プレイスタイルの幅が狭まった印象はあるが、よりカジュアルなプレイが可能になったことは確かだろう。
「再スタートしてからの1か月で最もワクワクしたのは、純粋にコミュニティの要望に応えたおかげでどれくらい変化したかを確認できたことでしょうね。それこそが今までと全く異なることだと実感しています。もちろん、コミュニティに定住してくれるようなかけがえのないメンバーもいますが、いまやコミュニティを拡大できるより多くの機会と、有料コンテンツのままだったら絶対にアプローチできなかったであろう幅広いユーザー層と繋がるきっかけができました」。先月、ベータ版から再スタートした『Evolve Stage 2』は、ローンチ数日でピーク時のプレイヤー数が過去最高の5万人を突破。データ解析サイトSteam Chartsによると、7月の平均人口は1万5000人以上で、前月と比べて1万4380パーセント増加している。今月に入ってからも、その勢いは衰えていない。
現在、『Evolve Stage 2』は5週間にわたって毎週新しいコンテンツを追加していくイベント「Shear Madness」を、PC版を対象に実施している。3体の新キャラクターと3種類の改変マップ、その他コミュニティのリクエストに応えた要素が随時発表されていく。なお、『Evolve』の無料化は今のところPC版限定だが、ベータテスト期間中に安定したユーザー数を確保できれば、Xbox OneとPlayStation 4向けにもリリースされる予定だ。ジャンルに関わらず、マルチプレイヤーが前提のオンラインゲームは、コミュニティから人が消えた時点でコンテンツの価値がなくなってしまうといっても過言ではない。『Evolve』は本格始動する前からすでに余命が短いことを宣告されていたようなものだ。一方で、同じくTurtle Rockが手がけた『Left 4 Dead 2』は、2009年の発売から7年近く経過している現在でも、『Evolve』のローンチ時よりもプレイヤー人口が多い。『Evolve』を無料化してでも起死回生の一打を狙った背景には、コミュニティの存在価値を重んじる同社のプライドがあったことは間違いないだろう。