『CS:GO』のギャンブルサイトが社会問題となった理由、配信者のステマ疑惑に端を発する自演騒動の全貌


近年、『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS:GO)の武器スキンを利用した賭博サイトの普及が、10代の若者を深刻なギャンブル依存に陥らせているとして、運営元や関連ビジネスの存在が問題視されている。先日、自身のチャンネルでギャンブルサイトを大々的にプロモーションした大物YouTuberが、実は同サイトの運営元を立ち上げた張本人だったことが発覚し、ステルスマーケティングで社会問題を助長しているとも取られかねない行為に激しく批判が集まった。

今やe-Sportsの代名詞ともいえる『CS:GO』は、選手や観客の大半をティーンが占める若者の文化だ。著名なYouTuberを支持するファンも同様。未成年あってのコンテンツといっても過言ではない。もちろん、彼らがギャンブルサイトを利用することは規約で禁じられているが、誰もが容易にアクセスできるバーチャルな賭博だからこそ、技術的に完全に制限することは現状では不可能に近い。こうした背景から、若者から絶大な支持を受けるYouTuberの影響力は、もはや言うまでもない。ましてや自らが胴元だったとなれば批判は免れない。一連の騒動に関する全貌と、YouTuberを覆うステルスマーケティングの影を紐解いていく。

 

ギャンブルサイトの大流行とYouTuberの影響力

『CS:GO』は、Steam運営元のValve Corporation(以下、Valve)が提供するチーム対戦型FPS。シリーズをとおして長い歴史があり、その競技性の高さからe-Sportsシーンでは世界中のファンから根強く支持されている。特に、欧州はメッカと呼ばれるほどの盛況ぶりだ。今年4月、アメリカ大手総合情報サービスBloombergは、『CS:GO』に武器スキンという概念が追加されて以降、コンテンツを取り巻く環境が大きく変化していることに警鐘をならした。2年以内にプレイヤー人口が1500パーセント増加する一方で、多くの若者の関心はゲームそのものではなく、スキンを通貨代わりとしたギャンブルへと移っているという。もちろん、無秩序な賭博行為はほとんどの国で違法と見なされているが、現金ではなくゲーム内コンテンツを賭けている点が、法の抜け穴になっている。

ゲーム内アイテムは、プレイ時間に応じた報酬や、1回2.5ドル程度のガチャから入手できるほか、Steamコミュニティ内のマーケットプレイスでも取り引きされている。この武器スキンが今、プロリーグを対象とした賭博に使われているのだ。勝ち取った商品は価値に応じて換金できるため、実質リアルマネーを使ったギャンブルと何ら相違ない。驚くべきは、その額だ。2015年に催された大会だけで、300万人が総額23億ドルに相当するスキンを賭けたとされている。こうした仮想通貨を用いた賭博文化を支えているのが、有名なものだけでも700件にのぼるというギャンブルサイトの存在である。Steamアカウントと紐付けることで、『CS:GO』のスキンをチップとして賭けられる仕組みだ。なお、マーケットプレイスでスキンが取り引きされるたびに、Valveには15パーセントの仲介料が支払われるため、一部では『CS:GO』のギャンブル文化が同社にとって大きな収入源となっていると指摘する声も上がっていた(後述するValveの声明文で関連性は完全否定)。

「CS:GO Lotto」を配信するCassell氏
「CS:GO Lotto」を配信するCassell氏

問題視されているのは、ギャンブルサイトの利用者に未成年者が多いことだ。プロシーンで活躍する多くの選手が10代であるように、『CS:GO』プレイヤーの大半を占めているのも同年代の少年だからだ。ギャンブルを規制する法律は国や州によって異なるが、一般的に未成年者が蔓延るカジノなど存在しない。ネットの海を除いては。収入のない学生の中には、両親のクレジットカードで賭博に興じるユーザーもいることだろう。そんな子どもたちの桃源郷が、彼らをギャンブル依存に陥らせているとして、一部ではすでに社会問題に発展している。先月、アメリカ・コネチカット州で、『CS:GO』プレイヤーの親族がValveを相手取り訴訟を起こした。原告の子供は、未成年だった頃にマーケットプレイスでスキンを購入して賭博に参加。金銭を失ったという。人気ゲームを利用して違法なオンラインギャンブル市場の形成を容認したとして、運営元およびギャンブルサイトの責任を追求している。

今年5月、『CS:GO』コミュニティで有名なYouTuber、“TmarTn”ことTrevor Martin氏が、「HOW TO WIN $13,000 IN 5 MINUTES」(5分で1万3000ドル勝つ方法)というタイトルで、ギャンブルサイト「CS:GO Lotto」を宣伝する動画を投稿した。「CS:GO Lotto」は、マッチングした2人のプレイヤーが互いのゲーム内アイテムを賭けて、コイントスで勝敗を決するシンプルな仕組み。動画の中で、Martin氏は高額ベットの賭けに勝ち続け、あっさりと“大金”を手にしている。また、別の著名YouTuber、“ProSyndicate”ことTom Cassell氏も、今年3月に同様のプロモーション動画を投稿していた。ここまでは単なるギャンブラーのサクセスストーリーでしかなかった。しかし、先月になって、実は2人が「CS:GO Lotto」を運営する胴元だったことが発覚。無関係の人間を装ったステルスマーケティングと非難されるばかりか、知名度を利用して多くの未成年ファンに賭博行為を推奨する行為であるとの批判が集まった。なお、Martin氏の関連動画はすでに全て削除されているが、疑惑に光を当てたスキャンダル動画(上記シーンは0:52秒から)に一部の録画が残っている。

 

ステルスマーケティングだったかどうか

「CS:GO Lotto」を運営しているのはTmarTn Enterprisesというフロリダ州オーランドの企業。もちろん、代表はMartin氏だ。Cassell氏は副社長を務めている。つまり、カジノのオーナーが自分の店で賭博しているようなものだ。こうした行為は、連邦取引委員会(通称、FTC=Federal Trade Commission)が定めたYouTuberのガイドラインに抵触する可能性がある。販売元から商品の提供を受けてのレビューを執筆する際と同様に、動画配信者が商品の宣伝に対する報酬を得ている場合は、PRであることを明確にしなければならない。なお、以前にも、Cassell氏がYouTuberに人気のホラーゲーム『Dead Realm』を自身の動画で宣伝した際、実は彼が販売元3BlackDotの設立者の一人であるにも関わらず、それを示す明確な記載がなかったことから、ガイドラインに対する違反を問題視されたことがある。

この騒動を受けて、Martin氏は自身のYouTubeチャンネルに釈明動画(後述するように、すでに本人により削除されているため、リンク先はミラー動画)を公開。指摘を受けているようなステルスマーケティングの意図はなかったと説明した。「CS:GO Lottoとの繋がりは、2015年12月に会社を設立して以来、ずっと公表してきたことだ。しかしながら、みんなには謝らなければいけないと思う。今回のように(騙されたと)感じた全ての方にとって、事実が十分に明確ではなかったことについて謝罪します」。その上で、「CS:GO Lotto」を含めた全てのビジネスは法令に基づいた企業コンプライアンスを徹底しており、18歳未満のユーザーによる利用は容認していないという姿勢を明確にした。しかし、この言い訳が火に油を注いだ。重要なのは、同氏がサイト運営者であることが公表されてきたかどうかではなく、宣伝した際にその事実を予め視聴者に伝えていたかどうかである。これでは単に盲目的なファンに迎合しているだけと取られても仕方がない。

Martin氏の過去の発言が釈明と矛盾
Martin氏の過去の発言が釈明と矛盾

特筆すべきは、Martin氏の発言に些か不可解な矛盾点があることだ。サイトオーナーであることを隠す意図はなかったと釈明しているが、昨年11月に投稿された動画の中で、次のように発言している。「友だちに教えてもらって、“CS:GO Lotto”っていう新しいサイトを見つけたんだ。下にリンクを貼っておいたからチェックしてみてくれ。それで今日賭けてみたんだけど、69ドルかそこら勝っちまった。小さな賭け金だったけど、今までで最高の気分だったぜ! Twitterで公式をフォローすることになって、今度スキンのスポンサーになりたいって話まで持ちかけてきてるんだ!」

つまり、「CS:GO Lotto」は偶然見つけたサイトで、その上オーナーがスポンサーシップまで提案してきたというのだ。しかし、そのオーナーは設立当初からMartin氏ご本人である。また、Martin氏のLinkedInを確認してみると、職歴欄にTmarTn Enterprisesのオーナー兼CEOという記述はあるが、ギャンブルサイト「CS:GO Lotto」に関する情報は一切見当たらない。この件について、Martin氏は終始沈黙を保っている。そのわずか数時間後に、同氏は釈明動画を削除。理由は詳しく語られていないが、事情を追求したTwitterユーザーに対して、ただ“失望したからだ”と発言している。翌日、Martin氏とCassell氏は、フロリダ州南部地方裁判所へ告訴された。

 

賭けの結果が自作自演だったかどうか

ギャンブルサイトを大々的にプロモーションするYouTuberが、実は胴元である運営会社の代表という事実が白日の下に晒されたことで、次に浮上する疑惑は動画内のボロ儲けが自作自演であったかどうかだ。Martin氏がサービスのバックエンドへのアクセス権を持っていたであろう状況を考えると、その可能性は否定できない。実は疑惑の背景には、彼が「CS:GO Lotto」でギャンブルに興じる最中に見せた不可解な行動がある。Martin氏が“CSGOLottoBot5”名義の裏アカウントでSteamにログインしていた事実を、一部の動画が偶然にも捉えていたのだ。どうやら同氏は、サイト運営側で用意した複数のアカウントを併用することで、賭けに使うゲーム内アイテムを自由に移動させていたものと思われる。この件に関して、Martin氏は一切のコメントを控えており、行動の真意は定かではない。

一方、別のギャンブルサイトでは、実際にYouTuberを使ったやらせが本人によって暴露された事例がある。「CS:GO Lotto」騒動の直後、イギリス人ストリーマーの”PsiSyndicate”ことLewis Stewart氏が、これまで自身が加担してきたステルスマーケティングを告白した。同氏は以前、「Steam Lotto」というギャンブルサイトから勝ちを装った自作自演のプロモーションを依頼され、2件のやらせ動画を投稿したことがあるという。その見返りとして、合計で3200ドル相当のゲーム内アイテムを受け取ったと証言している。Stewart氏によると、このようなYouTuberへのやらせ依頼は日常茶飯事だという。その一例として、別のギャンブルサイトから送られたと思われるメールの内容を、Twitterで公開した。

裏アカウントに気付いてログアウトする様子
裏アカウントに気付いてログアウトする様子

また、先週には、別のギャンブルサイト「CS:GO Shuffle」を宣伝していた大物Twitchストリーマー、“PhantomL0rd” ことJames Varga氏が、実はサイトの胴元であったという事実を、匿名のハッカーが白日の下に晒した。e-Sportsイベントのホストを務めるRichard Lewis氏によると、同サイトの設立者であるDuhau Joris氏とVarga氏のやり取りを記録したSkypeログが、同氏宛に送られてきたとのこと。1800件近くにおよぶメッセージ履歴から、“PhantomL0rd”こそが「CS:GO Shuffle」のオーナーであることを示す、極めて高い可能性が浮上したのだ。Varga氏がギャンブルの費用を会社の運営資金で全額負担していたことに加えて、賭けの勝敗を意図的に演出するために、サイトのコーディングを担当していたJoris氏から、あらかじめ確率に関する情報を得ていたことも分かっている。特筆すべきは、Varga氏が「CS:GO Lotto」や「CS:GO Wild」といった競合サイトにコンタクトを取り、互いに情報交換を行っていた点だ。こうしたステルスマーケティングまがいの行為が、すでに業界内に蔓延している可能性を改めて示唆している。

一連の騒動を受けて、Steamおよび『CS:GO』の運営元Valveは13日、ゲーム内アイテムのトレーディング機能について公式声明を発表。近年、同システムを利用したギャンブルサイトが乱立していることに関して、同社が間接的に利益を得ているという一部の疑惑を完全に否定した。『CS:GO』のギャンブルサイトは、Steamアカウントの認証にOpenID(1つのアカウントを使って、他のサービスにログインできる仕組み)のAPIを利用しているに過ぎず、Valveは一切関与していないとのこと。また、OpenID APIを用いたギャンブルビジネスの運用は、APIならびにSteamの利用規約に違反しているとして、直ちに該当サイトの運営停止を求める姿勢を明らかにした。

さらに同日、Twitchも公式ブログを更新。対象の利用規約に反するコンテンツの配信は、Twitchの利用規約にも違反するとの立場を改めて明確にした。それに伴い、140万人のフォロアーを誇っていた“PhantomL0rd”のチャンネルは現在、規約違反により削除されている。なお、Varga氏が「CS:GO Shuffle」の胴元であることが発覚する以前、ValveとTwitchが対応に乗り出したことで、同氏はギャンブル配信をやめると自身のYouTubeチャンネルで宣言していた。Twitterでも、「俺のストリームは永遠に変わってしまった」と発言していたが、悪い意味で現実のものとなってしまったようだ。奇しくも法を犯すハッカーによって不正疑惑に光が当てられたことは、皮肉この上ない。

 

YouTuberを覆うステルスマーケティングの影

YouTuberの影響力を利用したステルスマーケティングまがいの行為は、『CS:GO』のギャンブルサイトに限ったことではない。先日、アメリカ連邦取引委員会は、有名配信者に『Middle Earth: Shadow of Mordor』のプロモーションを多額の報酬で依頼しておきながら、十分なスポンサー表記を怠ったWarner Bros. Home Entertainment(以下、Warner)に対する処分を発表した。Warnerは、2014年9月に発売された同作のキャンペーン期間中に、広告代理店Plaid Social Labsを通じて、世界的なYouTuber“PewDiePie”を含む複数のプロモーターを起用。商品ページへの誘導を意図したプレイ動画をチャンネルに投稿させたほか、その動画をTwitterやFacebookで宣伝するように依頼したとされている。YouTuberには、見返りとして発売前の製品提供に加えて、数万から数十万ドルの報酬が支払われたという。また、告発者によると、Warnerは必ず肯定的に宣伝するよう指示していたほか、バグやグリッチを見つけても公表しないよう求めたとのこと。PR目的であることが誰の目にも分かるように明記されていれば、これらの行為には何の問題もない。

『Middle Earth: Shadow of Mordor』
『Middle Earth: Shadow of Mordor』

しかし、『Middle Earth: Shadow of Mordor』のケースで問題視されたのは、スポンサー表記の方法と内容だ。Warner側は動画の説明欄にスポンサーシップを記載するよう求めていたが、肝心の表記は“もっと見る”ボタンをクリックしないと見えない位置に隠れていたという。ましてや、TwitterやFacebookの投稿から動画を閲覧した場合、“もっと見る”ボタンは表示すらされない。パブリッシャーとYouTuberの関係は、多くの視聴者にとって不透明だったといえる。また、動画が商品の提供を受けてのレビューであることは公表されていたものの、Warnerから金銭的な報酬が支払われていたことについては、必ずしも全てのケースで明かされていなかったとの報告がある。全てのPR動画は、公開前に一度Warnerによってチェックされていたにも関わらずだ。以上の理由から、FTCはWarnerがキャンペーンをとおして消費者を欺いたとの判断にいたった。ちなみに、このプロモーション動画の視聴数は、“PewDiePie”の投稿だけで370万回以上。スポンサー表記が恣意的に隠されたかどうかは定かではないが、仮にステルスマーケティングだった場合の影響力は計り知れない。

ステルスマーケティングは、多くの国や州において違法である。日本でも、不当景品類及び不当表示防止法第4条1項(商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの〔ママ〕)に抵触する可能性があるとされている。しかし、実際にはレビュー代行ビジネスや有名ブログでの口コミ偽装、情報サイトにおける企画を装った巧妙なPR記事など、ステルスマーケティングはゲーム業界のみならず様々な場面で横行している。『CS:GO』をめぐるギャンブル文化で顕になった氷山の一角。“インフルエンサー”と呼ばれるYouTuberの存在は、すでに偽装広告の新たな宿主として格好の餌食になりつつあるのかもしれない。