ゲームエンジン「Godot」主要開発陣、「Unityユーザー大量流入」を恐れていた。オープンソースゆえの受難


オープンソースゲームエンジン「Godot Engine」(以下、Godot)は現在、利用者が急増傾向にあるという。ゲームエンジン「Unity」からの移行を背景としたGodot利用者増について、Godotを立ち上げた開発者らは時期尚早だと怯えていたそうだ。

Godotは、PC/モバイル/Web向けゲームおよびアプリを制作できる2D/3Dゲームエンジン。Juan Linietsky氏とAriel Manzur氏らによって立ち上げられた。Linietsky氏がかつて自身のスタジオのために手がけた内製エンジンがルーツとなっており、その後2014年に一般に公開された。オープンソースとして提供され、完全無料で利用可能。開発にかかるコストは寄付によって賄われている。また、Linietsky氏を中心として、同エンジン作品のコンソール対応を有償でサポートする法人・W4 Gamesも立ち上げられている。

Godotエンジンは現在、利用者の急増に見舞われているという。同エンジンの開発・運営メンバーらは、この状況を単純に歓迎してはいなかったようだ。同エンジンの開発に携わる非営利団体・Godot Foundationにて、理事を務めるLinietsky氏およびRémi Verschelde氏が、海外メディアGame Developerに向けて語っている。


UnityからGodotへのユーザー大量移動

まず、Godotエンジンの利用者急増の背景には、昨年起きたUnityの料金システム変更にまつわる騒動があると見られる。Unityは昨年9月、ゲームのインストール数に応じた新料金体系を導入すると告知。開発者らの大きな反発を招き、新料金体系の一部撤回・変更などを実施するも、不信感を募らせる結果となった。その後、開発者の間では、利用ゲームエンジンをUnityからGodot含むほかエンジンに乗り換える動きも盛んに。前月にはLinietsky氏により、「2024年はSteam向けにリリースされたGodot利用作品数が、過去最高のペースで増加している」と報告されていた(関連記事)。


利用者の増加や開発コミュニティの盛り上がりは、一見Godotにとって追い風のように見える。しかし、Linietsky氏とVerschelde氏は、こうした急激な利用者増加を恐れていたという。同氏らによれば、今回の騒動の以前より、Unityから多数のユーザーが離脱する危険性を察知していたという。そうした中、Linietsky氏らは「Unityからのユーザー大量流入」が起きないよう祈っていたとのこと。

しかし、Linietsky氏らの懸念は現実のものとなる。一連の騒動により、昨年からUnityを離脱し、Godotエンジンに乗り換えるユーザーが急激に増加した。主な問題は、Unityが企業によって開発されるプロプライエタリな(一般に内容の情報が公開されていない)エンジンであり、Godotはコミュニティによって手がけられるオープンソースエンジンである点のようだ。


GodotとUnityの大きな違い

Linietsky氏らはかつて、Godot自体がUnityに比肩する機能性をもつエンジンではないと考えていたそうだ。特に前バージョンであるGodot 3.0については、Unity利用者が求めるような機能が揃っておらず、代替エンジンとして不満をもたれる懸念があったという。

また、企業製エンジンであるUnityと違い、コミュニティが開発するオープンソースエンジンのGodotは、機能実装にあたっても投票により決定する必要があるとのこと。ソフトウェアとしての性質が違うUnityとGodotで、利用者の棲み分けができている中、その垣根が破れてトラブルになることを恐れていたのだろう。


懸念が現実に、しかし意外となんとかなっている

Linietsky氏らにとって幸いだったのは、Unityからの大量ユーザー移行の直前、2023年3月にGodot 4.0をリリースできたことだったそうだ。このバージョンアップにより、新規ユーザーの増加に備えられた手応えがあったという。

そして同氏らによれば、Unityからの“移行組”は驚くほどGodotの機能不足などに寛容だという。そうしたユーザーは、しばしばGodot独自の機能の利用方法を編み出したりもするそうだ。一方で、元Unity利用者から、Unityに存在した機能の実装を求める声もあり、「ゲームを実行しながらの編集」は特に求める声が多いという。Linietsky氏らは、そうした機能については「一筋縄には実装できない」としつつ、希望される機能実装に向けて前向きに取り組んでいる様子である。


またLinietsky氏らは、オープンソースエンジン特有の強みとして「開発者が自由にフォーク(派生ソフト)を作り、エンジンを改造してよい」という点を挙げている。エンジン名の読み方についても「ゴドー(Go-dough)でも、ゴドット(Go-dot)でもいい」と冗談めかして伝えつつ、オープンソースエンジンとしての性質と価値を強調している。

Linietsky氏らにとって、Unityからのユーザー大量流入は好機ではなく、恐れていた受難だったようだ。しかし、現在同氏らはそうした状況のなか、新規ユーザーとの関係性を築いていっている様子。Godotの今後の発展にも期待が寄せられる。