東南アジアのe-Sports女子トーナメント “ゲイ参加制限”の発表に批判の声
東南アジア方面にて『League of Legends』のサーバーを提供しているGarenaは、女子トーナメント大会「Iron Solari League」において、試合に参加できるゲイと女性性を持つ男性(Transgendered Women)をチーム毎に1人へと制限することを発表した。一見すると同性愛者やトランスジェンダーなど「LGBTQ」への差別とも取れる制限に対し、一部の大手メディアは、理解できない制限だとする批判記事を掲載した。Garena側は発表から十数時間後に、この制限を取り消すと報告している。
対象は”Gay, Transgendered Women”
Garenaは、2009年に誕生したシンガポールが拠点のオンラインゲーム運営組織だ。『League of Legends』だけではなく、『Heroes of Newerth』や『Path of Exile』など、東南アジア地域におけるオンラインゲームの運営を担当している。『League of Legends』のサーバーは2010年から提供しており、対象地域はシンガポール、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナム、タイ、インドネシアの7か国に広がる。
問題となったのは、2月22日から開催される女子トーナメント大会「Iron Solari League」の2ndリーグである。今大会においてGarenaは、1チームに所属できるゲイおよび女性性を持つ男性(Gay, Transgendered Women)を1人までにすると発表。故意でなかった場合でも、この規則を破ったチームメンバー全員に、Garenaが主催する全イベントへの参加禁止処分を1年間下すとした。
Garenaは、レズビアンやゲイ、女性性を持つ男性のメンバーらと、彼らが持つ”アンフェアなアドバンテージ”について何度も話し合い、今回の決断に至ったと説明した。この”アンフェアなアドバンテージ”の内容がどのようなものかは明記されていないが、けっして安易に決断したわけではなかったことを強調している。センシティブな問題であるとの認識は、Garenaにもあったようである。
騒動の発端は「ゲイ」の解釈違いか
Garenaがコミュニティと議論を重ねて決定したものの、海外メディアらは今回の発表に対し批判的な記事を掲載した。Polygonは、今回の発表を「League of Legendsの大会がLGBTQプレイヤーに差別的な制限を敷いた」とのタイトルで報道。PC GamerやKotakuは「LGBTプレイヤーを制限している」との記事を公開している。
だが報道にあるように、Garenaが本当にセクシャルマイノリティの参加を規制しようとしていたのかには、いささか疑問が残る。「ゲイ」という単語の解釈がGarenaと海外メディアの間で異なり、結果的に誤用となってしまったのではないかという指摘が出ているからだ。
ゲイは東南アジアでは、比較的、男性同士の同性愛者を表す言葉として認知されている。しかし英語圏では近年、性別を問わずに同性愛者全体を示す言葉として使用されることも多い。Garenaはこれを前者の意味で使用したのではないかと、Polygonの記事のコメント欄や海外フォーラムRedditなどでユーザーたちが指摘している。つまり彼らが参加を制限したかったのは、同性愛者全体やセクシャルマイノリティではなく、男性同士の同性愛者およびトランスジェンダーの男性、さらに言えば「女装する男性や女性の心を持つ男性」だったのではないかと。この推測が正しければ、今回の発表は「生物学上は男性であるプレイヤーが女子大会に参加するのを禁止したかった」にすぎない。
フィリピンでは、女装する男性や女性の心を持つ男性、男性同士の同性愛者を「Bakla」と呼ぶが、この言葉は日本の「オカマ」と同じく侮辱的な意味合いがある。Baklaを使用することを避けるため、また性転換手術を受け女性の肉体的構造を持つようになった男性も包括するため、「Gay, Transgender Women」という表現に至ったのではないかとの見方もある。そしてこのGayの表現が、英語圏のメディアによりレズビアンをふくむ同性愛者全体と受け止められているとしたら、今回の問題点は単語の持つ意味の解釈の違いが発端であり、単なる言葉の誤用であることになる。セクシャルマイノリティへの差別的な制限を課す意図はなかったのではないか、AUTOMATONはGarenaに対し今回の件を問い合わせているが、現時点で返答はない。
『League of Legends』の開発元であるRiot Gamesは、この件を受けてか「LoLのオフィシャルトーナメントはLGBTプレイヤーを受け入れています。パートナーと共に我々の価値観が全地域で一致するよう働きかけています」とツイートしている。このツイートは2000回近くリツイートされており、今回の一件は海外で大きな注目を浴びていると見てよいだろう。その後、Garenaは今回の制限を再検討し、撤廃することになったと報告した。「自身を女性と認識しているプレイヤー」であれば、誰でも大会に参加できることを明らかにしている。
今回のニュースでは、女性性を持つ男性でも女子大会に参加できるべきだとの意見も見られたが、肉体的なスポーツだけではなく、チェスや将棋などのマインドスポーツにも、女流選手のみの大会や女王杯などはある。参加枠を男性と女性で区別する例は過去に多く存在する。これらは性差別ではなく、ジュニア部門やシニア部門のような年齢制限と同様に、参加選手を区分するのに性を使用しているにすぎない。参加選手の性別をどのようなルール上で判断するかは、LGBTQの権利や倫理観だけで統一することは難しく、各大会の運営者が道徳的な範囲でルールを敷くべきといえるだろう。そして今回のような騒動に発展しないよう、適切にそのルールを公表する必要がある。