「発表だけ早すぎる」新作ゲームには「早めに発表しなければならない」理由があったのかも。ベテラン開発者いわく、メーカー側の事情もいろいろあり


新作ゲームの中には、発表され期待を集めるも、発売はおろか続報すらなかなか届けられない作品が時折見られる。ファンとしてはやきもきさせられ、「発表するのが早すぎたのではないか」と議論されることもしばしばである。最近もX(旧Twitter)上にて、そうした話題が注目を集めていたようだ。

一方で開発元の立場からすると、「早めに発表しなければならない」理由がちゃんとあるのだという。Wildlight EntertainmentのプリンシパルアーティストDel Walker氏が、その背景について解説している。


Del Walker氏は、セガやRespawn Entertainment、Rocksteady Studios、Naughty Dogなどを渡り歩き、数々の著名作品に携わった実績をもつベテラン開発者だ。同氏は11月10日、WB Games/Monolith Productionsの『Wonder Woman』やSIE/Insomniac Gamesの『Marvel’s Wolverine』を例に、「発表するのが早すぎた」ゲームについて議論を促すX上の投稿に反応した。いずれの作品も2021年に発表され、これまでのところ目立った続報がない。

Walker氏は一般論として、開発元には新作を早めに発表しなければならない場合があるとし、その理由を5つ紹介した。1つ目は出資を受けるため。新作のティザー映像の反応が良ければ、投資家やパブリッシャーからの出資につながるという。また、ティザー映像がファンから好評であれば、ゲームの規模に影響を与えたり、開発中止のリスクを避けられたりといった副次的な効果もあると同氏は説明する。

2つ目は、有能なスタッフを確保するため。ぜひ携わりたいと思ってもらえるような情報を提供するわけだ。すなわちその作品の開発が本格化するのは、そうしたスタッフを迎え入れたり、出資を受けたりしてからになるのだろう。

*Rockstar Gamesは、のちに『GTA6』として発表される新作の映像がリークされた当時、ファンの期待を超える作品になるとの声明を発表した。


3つ目の理由には、リーク対策が挙げられた。開発途上の不完全な映像などが流出し、作品に対しネガティブな印象を持たれるくらいなら、短いティザー映像を早めに公開した方が得策なのだという。4つ目は、ファンの期待をコントロールするため。従来とは異なる作風の新作を制作する場合、「期待していたものと違う」とファンからの反発にあうかもしれない。それを避けることが目的だ。そして5つ目は、ゲーム内容や発売時期について、他社との競合を回避するためだとされた。

Walker氏は、ほかにもファンの期待を高めるためであったり、コミュニティを構築するため、あるいはThe Game Awardsでの紹介枠を狙うためであったりと、理由はさまざまあると述べる。スタジオ内部的に延期を重ねるなど、想定外の事情で続報や発売までに時間がかかる場合もあるが、早めに発表されることにはそれなりの背景があるものだとした。

たとえば、NetEase Games傘下スタジオFantastic Pixel Castleの設立者であるベテラン開発者Greg Street氏は、ファンからのフィードバックを得るために、新作を早めに発表したとコメント。同スタジオはMMORPG『Ghost(仮題)』を2023年に発表し現在開発中。ファンの意見を取り入れて、作品の内容を変更できる時間的余裕があるうちに発表したそうだ。


今回のDel Walker氏の投稿に対しては、Bethesda Game Studiosが手がける『The Elder Scrolls VI』について問うコメントもあった。同作が発表されたのは2018年6月で、親会社マイクロソフトのゲーム部門CEOでXbox事業を率いるPhil Spencer氏は2023年6月に、発売はまだ5年以上先になると述べたとされる(関連記事)。いわゆる発表が早すぎた作品として捉えられるが、シリーズの知名度や人気、マイクロソフトの資金力などを考えると、Walker氏が挙げた理由のほとんどには該当しないように思える。

この質問に対しWalker氏は、株主に向けて大きな約束をして、株価を押し上げることが目的だろうと述べた。大企業なりの理由があるということのようだ。ちなみにBethesda Game Studios作品というと、『Fallout』シリーズなどでの実績から、発表から間を空けずにリリースされるイメージもある。『The Elder Scrolls VI』については、新作を待ち望むファンの“暴動”を防ぐために、早めに発表せざるを得なかったとの元スタッフの見方が伝えられている(関連記事)。