プロゲームシーンは燃えているか 2015ベストPV賞「LJL2015 SEASON1 OP」
いまから25年ほど前。日本グランプリのために来日した海外のF1レーサーが、レース後にフジテレビの放送を見て驚いたそうである。「何これめちゃくちゃかっこいいんだけど!うちの国の放送にはこんなオープニングないよ!」……本当にそんな口調で叫んだかはともかく、当時真新しかった3DCGを駆使し、T-SQUAREの名曲『TRUTH』に乗せた一連のオープニング映像が国内外で絶賛されたことはどうやら本当らしい。
同様にK-1、PRIDE、DREAMといった歴代の総合格闘技の中継でも佐藤大輔氏、佐々木敦規氏らによる、いわゆる「煽りV」がなくてはならない存在として、観客の心を鷲掴みにしたことも記憶に新しい。どうも日本の映像業界にはそうした才能に長けたスタッフの系譜が脈々と続いているようだ。そんなわけで2015年のゲームシーンをそれぞれの角度から振り返るAUTOMATONのライターズベスト、筆者が2015年最も注目すべきものとして選んだのは、ゲームタイトルではなく1本のオープニング映像である。まずはこちらを見ていただきたい。
PCゲーム『League of Legends』の国内プロリーグ、「LJL」のオープニング映像だ。ここでは前期シーズンのファイナルだけで流れたフルバージョンをお届けした。LJLファンにとってはキャスターeyes氏の「ショックウェーブ!!」のシャウトが入っているショートバージョンの方が耳慣れているかもしれないが、前期シーズンの名場面と、eyes氏の名調子を堪能できるこちらをピックアップさせてもらった。感想はもうただひたすらかっこいいのひと言に尽きるが、評価点はそれに留まらない。
おわかりだろうか? プロとして舞台に立つ選手たちだが、「ゲームがめちゃくちゃうまい」という1点を除けば、基本的にはハタチ前後の普通のあんちゃんである。カメラ慣れはもちろん、観衆の前に出ることにもまだまだ不慣れな彼らを捕まえて、節約予算、短期スケジュールでこれだけの映像を仕上げられるスタッフがどれだけいるだろうか? いや、いない(反語)。お隣韓国でe-Sportsはすでに巨大な規模のエンターテインメントとして動かされているが、オープニング映像などを見る限り予算があっても普通のあんちゃんをいかに撮るかについてはやはり苦心しているようだ。
今回のLJLのオープニング映像に目を戻すと、オフィシャル写真とインタビュー映像、過去の試合の映像だけという、オープニング用の追加撮影なしの編集力でこれだけのものを仕上げているのだから、壮絶なコストパフォーマンスだ。具が少ないのに異常にうまいチャーハンみたいなことになっている。
選曲も素晴らしく、Nozomu Wakai’s DESTINIAによるジャパニーズメタルの傑作アルバム「Requiem for a Scream」から「Still Burning」が使われており、国産プロリーグをバリバリの国産メタルで盛り上げようという意気込みが嬉しい。メタルに不案内な筆者でも上記のアルバムは名盤だと思うので、LoLファンのみなさんぜひ買いましょう。私も買いました。(ちなみに2015後期シーズンのオープニング曲はNozomu Wakai’s DESTINIA「Anecdote of the Queens」収録の「No Surrender」)
2015年は格ゲーに続いてLoLがe-Sportsの代表格として注目され始め、なかには「e-Sports(笑)」といった揶揄のされ方も見かけるが、色眼鏡もふくめて世間から注目されてきたことはやはり歓迎すべきことだ。そして多くの観客が観戦して楽しむ競技を運営していく上で必要なのは、卓越した腕前の選手だけではなくインフラ、ビジネスマネジメント、専門技術なども必要なのは言うまでもない。格闘ゲーム、MOBA、FPS等、ジャンルはなんでもいいが、競技性のあるゲームを本気で遊んでいる連中がいて、彼らに本気で声援を送るファンがいて、それを本気で支えている大人たちが日本には確実にいる。
今回このオープニング映像を選んだのは単に優れた作品だからではなく、これを通じてe-Sportsという発展途上の未知の分野にかける大人たちの情熱を感じ取ることができたからだ。そもそも国内の正式サービスすら始まってないLoLというゲームのプロリーグを2年も行い、こんなガチの映像まで仕上げてしまうこと自体が十分無茶すぎる。その前のめりな熱い姿勢を広くゲームファンに紹介したいと思い、今回これを選出した。LoLだけでなくe-Sports全体が将来、日本のエンターテインメントの一角を担う大きなシーンへと成長することを願いつつ、2015年最も印象に残ったものとして、LJLのオープニング映像に大きな拍手を送りたい。