『Firewatch』映画化。一人称視点のミステリーアドベンチャーとしては初
ミステリーアドベンチャーゲーム『Firewatch』のデベロッパーCampo Santoが、映像制作プロダクションGood Universeと提携し、映画およびゲームの共同制作を開始することがわかった。Hollywood Reporterによると、共同プロジェクトの第1弾は『Firewatch』の映画化となる。
『Firewatch』は Steam/PlayStation 4/Xbox One向けに販売中で、2月にSteam/PlayStation 4版が発売されてからわずか1か月で売上50万本を記録。先述の記事によると、9月時点でセールスは100万本近くまで伸びている。プレイヤーは森林火災監視員のヘンリーとなり、トランシーバー越しに女性監督官のデリラとコミュニケーションを取りながら、ワイオミング州に広がる自然保護区を探索。自然保護区内で起こるミステリーと、登場人物2人のどこか後ろめたさのある繊細な人間ドラマを中心に物語が繰り広げられる。
冒頭のテキストアドベンチャーをどう表現するのか
ヘンリーとデリラの関係性も重要だが、映画でヘンリーの夫婦生活をどう描くのかが気になるところ。ゲームでは冒頭部分で妻との出会いから、家族を置いて火災監視員の仕事へ逃避した要因までをテキストアドベンチャー形式でプレイヤーに説明していた。プレイヤーは主人公ヘンリー自身となって操作するため、ヘンリーの知っている情報とプレイヤーの知っている情報を一致させる必要があった。そうしないと、その後の物語で「ヘンリー」本人として会話の選択肢を選ぶことができないからだ。操作しているキャラクターのバックグラウンドを知った上で「彼ならなんと言うだろう」と考えさせるゲームなのだ。
それに対して、映画では必ずしも観る側とキャラクターの知識を一致させる必要はない。映画はキャラクターの外に位置する存在として観るからだ。もちろん、一人称視点で撮った「REC」「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」などの例外もあるが、どちらかというとホラー演出という意味合いの方が強かった。『Firewatch』を映画にするならば、
過去の出来事を冒頭にまとめて映像にするのか、フラッシュバックとして作中に挟み込み、少しずつ主人公の背景を理解させていく方式を取るのか。脚本をどういじるのかが楽しみである。
理想的なタッグ
Campo Santoの創設者であるSean Vanaman氏は、Telltale Gamesによるゲーム版『The Walking Dead』のシーズン1で脚本を担当。『Firewatch』ふくめ、キャラクターの内面を照らし出す物語づくりに携わってきた。ストーリーこそがCampo Santoの武器であり、Good UniverseのJoseph Drake氏も「特別な作品を見つけ出すというのはとてもエキサイティングなことだ。Campo Santoの魅力的なストーリーテリングとクリエイティブ本能にはすぐに引きつけられたよ」とコメントしている。
Good Universeは、8月に米国で公開されたスリラー映画「Don’t Breathe」のほか「Last Vegas」「Neighbors」などのコメディ映画も手がけている。いずれも1000万ドルから3000万ドル規模の低予算フィルムながら、高い興行成績を収めた。2012年に設立された新しいプロダクションだが、創設者のJoseph Drake氏は90年代からハリウッドのエクゼクティブ・プロデューサーとして活躍している。以前CEOを務めていたMandate Picturesは「Juno」「50/50」「Young Adult」などのプロダクションを担当。やさしいタッチのコメディを交えながらも「高校生妊婦」「脊髄癌患者」「大人になりきれないヤングアダルト」といった、あまりハリウッドで焦点を当てられないセンシティブな題材を多く扱ってきた。
こうしたGood Universeのバックグラウンドを踏まえると『Firewatch』のように細やかな人間ドラマを描くCampo Santoとタッグを組むのもうなずける。
「アクション映画」として成功した先駆者たち
ゲーム原作映画の歴史を振り返ると、古くは90年代初期の「Super Mario Bros.」「Street Fighter」など、映画オリジナル要素の濃い作品が目立つ。2000年代に入ってからは「Lara Croft: Tomb Raider」「Hitman」「バイオハザード」シリーズがアクション映画としてヒット。Rotten TomatoesやMetacriticといったレビュー集積サイト上では低評価ながらも、興行的には成功を収めた。今年6月に米国公開された「Warcraft」では、ゲーム原作映画としては異例の予算1億6000万ドルを注ぎ、中国を中心に合計4億ドル以上の興行成績を叩き出している。そして今年12月には、オープンワールドゲームとしては初の映画化となる「Assassin’s Creed」が米国公開される。2000年代以降、マーベル・コミックとDCコミックによるアメコミ原作映画が盛り上がりを見せているが、ゲーム原作映画も奮闘しているのだ。
しかしながら、上記のように興行的には成功を収めた作品も、レビュー集積サイトでの評価は低い。いずれもストーリーというよりはゲームの世界観や設定、そしてアクション要素で観客を呼んだ作品だからか、ゲーム原作の実写映画で批評家・ユーザレビューが100点満点中50点を超えている作品はほとんどない。「Mortal Kombat」「Prince of Persia: The Sands of Time」が健闘しているくらいだ。レビュー集積サイトの信憑性には疑問が残るが、同じ原作物でもアメコミ原作映画と比べると大きな差がある。
「ストーリー」で評価される作品へ
ここ数年でゲーム自体の脚本レベルが底上げされ、「映画的なゲーム」という表現を目にする機会が増えた。そんな中、業界トップクラスの脚本家が手がけた『Firewatch』に目が向けられるのは自然な流れだろう。無事公開までたどりつけば、一人称のミステリーアドベンチャーとしては初の映画化となる。ストーリーテリングに重きを置いた原作だけに、「物語性」で評価される映画となるか注目したい。なお「一人称視点のゲーム」という意味では『DOOM』と『Far Cry』の映画版が存在するが、いずれも興行成績・各種レビューともに芳しくなかった。
『Firewatch』の映画化はまだ発表されたばかりで、監督やキャスティングは不明。キャスティング面で筆者が注目しているのはGood UniverseのJoseph Drake氏が過去3回作品づくりを共にしている、俳優/コメディアンのSeth Rogen氏。ビジュアル含め、どこか主人公ヘンリーと近いものを感じる。キャスティング候補に挙がるかどうか、気になるところだ。