『FF14』のパーティー募集文が海外コミュニティでも「呪文化」。「vOQ5」に「AutoCAD」、募集に並ぶ謎の文字列


ファイナルファンタジーXIV』(以下、FF14)において、高難易度コンテンツをパーティー募集、いわゆる野良でクリアするためには事前に攻略法の打ち合わせが必須だ。ある程度コミュニティ内で攻略法への共通理解が存在するとき、この打ち合わせのフェーズを最小限短縮し効率よく攻略していくためにも、パーティーメンバー集めに使われる募集文は「呪文化」しつつある。そしてこれは海外でも例外ではないようだ。

『FF14』の野良攻略において攻略法の打ち合わせにかかる時間を効率化するため、特に日本のコミュニティでは「マクロ」と呼ばれる文化が発達してきた。この「マクロ」という呼称がすでにややハイコンテクストではあるのだが、これは「このパーティーではこの攻略法を採用します」という情報を簡潔に記載するゲーム内のチャットマクロのことを指す。汎用性を高めるため、このマクロでは各々の役割が個人名やジョブ名ではなく、ロールで記述されている。パーティー内の誰か(多くの場合は募集主)がこのチャットマクロをパーティーチャットに流し、パーティーメンバーがマクロにおける自分の担当箇所を宣言するという手順をもって、打ち合わせの効率化はなされている。


マクロの効率化と「呪文化」

しかし人間の欲とは底知れないもので、プレイヤーたちはだんだんこのマクロの内容を読む時間も短縮したくなる。これはつまり「そもそもコミュニティに流通しているマクロが1種類しか存在しないのであれば、それを全員が覚えれば打ち合わせ毎にマクロを確認する必要すらなくなる」ということだ。仮にマクロの完全な統一が達成された世界があれば、そもそもマクロを読む必要も流す必要もなく、担当箇所の宣言だけで打ち合わせが済むはずだ。これは野良攻略環境における究極目標ともいえ、これを目指して(マクロの改善・周知を中心とした)数多の努力がなされてきたが、いまだ実現には至っていない。とはいえ、この野望にある程度近いところまで環境は近付いているといえるだろう。

完全な統一こそ実現していないものの、マクロには「主たる流派」が存在し、基本的にはメジャーなものを2,3種類覚えれば良いという段階になっている。そしてプレイヤーたちはパーティー募集の詳細欄(募集文)にこの流派を表記していることが多い。「このパーティーはこの流派での攻略を予定しています」と先に宣言することによって、マクロを確認する負担がすこし軽減され、また「この流派に慣れている方は歓迎です、この流派に不慣れな方はご遠慮ください」と募集段階で遠回しにフィルターをかけることも実現しているのだ。

そしてこの「流派表記」こそ、まさに募集文が呪文化している原因だ。日本コミュニティでは流派に攻略サイトの名前や攻略動画の投稿者、攻略法を考案したプレイヤー名などが使われるのが慣例となっている。結果として募集文には「game8」「イディル」「ハムカツ」「ぬけまる」「もちべ」「くうや」などといった単語が羅列されることになる。ちなみに「game8」「イディル」は攻略サイト、「ハムカツ」「ぬけまる」は動画投稿者、「もちべ」「くうや」は個人名由来である。直近で実装されたライトヘビー級零式4層にて一時期使われていた「基本イディル円輪脳死ストリームくうや夜半もちべ」はまさに呪文化した募集文の典型的な例であり、パーティー募集の効率化を求めるあまりガラパゴス化した日本の野良攻略環境を象徴するものでもあった。


海外コミュニティにおける“呪文”

しかし結局、言語を跨いでも人の求めるものは変わらない。「募集文呪文化」の憂き目にあっているのは日本に限ったことではなく、どうやら英語圏の募集文もハイコンテクスト化の一途を辿っているようだ。『FF14』のコンテンツクリエイター・ストリーマーとして知られるArthars氏がXに画像を投稿している。


この募集文いわく、P1(フェーズ1)はvOQ5、P2(フェーズ2)はQ-GoとAutoCADらしい。これは一体どういうことなのか?答えはRaidPlanというWebサービスにあるようだ。このRaidPlanはもともと『World of Warcraft』で使われていたツールであり、今は『FF14』にも対応している。そしてRaidPlanでは、作成した攻略用のスライドを、固有のURLで共有できる機能が備わっている。日本コミュニティではあまり使われていないため知名度が低いが、ロール名で一般化された攻略法が記載されているという点ではマクロとほぼ同じ役割を持つものといえる。

そして募集文にある「vOQ5」「Q-Go」は、採用する攻略法が記載されたRaidPlanのURLの後ろ4文字を指しているのだ。この記法では、「伝わる人にだけ伝われば良い」というスタイルのためか、もはやリンクの体すら成しておらず、理解できない場合はおそらくこの4文字のみで検索しても無駄という点では、もはや日本語圏の「イディル」「ぬけまる」より抽象度の高い“呪文”だろう。


ちなみに最後の「AutoCAD」は何なのかというと、零式4層後半に登場する「ブラックサバト【日出】」と呼ばれるギミックにおける特定の解法を指すようだ。なぜAutoCADと呼ばれているかというと、この解法を考案した人が文字通りCADソフト(建築業界などで使われることが多い、コンピューター上で製図を行うソフト)のAutoCADで攻略用の図を作成したからである。ちなみにここで記載されている「Uptime」というのも『FF14』特有の単語であり、「DPSのロスを最小限に抑えることを目的としたギミック解法」のことを指す。


呪文化した募集文はともすれば排他的に見えることもあり、文脈がわかってないプレイヤーの参加の敷居を上げている、という見方も出来るだろう。とはいえ、毎週報酬リセットがかかり、都度メンバーが変わる野良攻略においては、試行回数を増やすために打ち合わせにかかる時間を最大限減らし、効率化したいというのはプレイヤーとしては当然の要求でもあると思われるし、敷居を上げることそのものが目的化している側面もあるだろう。そしてこの葛藤に苦しんでいるのは日本コミュニティだけではないようだ。

最近では「流派」間でお互いにメリットを主張しあい、己の支持する流派への“一本化”を試みる光景も珍しくない。しかし日本でも海外でも、効率化を求めるその志は一致していると見える。今後も続いていく『FF14』レイド史において、いつか全野良プレイヤー切望の「完全な統一」がなされ、あるいは国境を超えて天下泰平が訪れることを、今は願うばかりである。

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